ドイツ語の勉強を始めて困惑することの1つに複合語がある。
複数の語をつなげて1語にしたもので、普通の独和辞典には載っていないことが多い。
そのため、構成要素の単語に分けて、それぞれの意味を把握してから、再び組み合わせて全体としての意味を考える必要がある。
1個の単語なのに複数回辞書を引くことになって面倒なので、ドイツ語を教えていると、英語とあまりにも違うことに文句を言われることもある。
ドイツ語の造語法がそうなっているからであって、教えている私の責任ではないのだが、まあ面倒だということに同意してもらいたいのだろう。
翻訳をしていても毎日、辞書に載っていない複合語に出会う。
専門分野の独英辞典にも載っていないこともあるので、ドイツ語の造語法を理解した上で、適切な訳語を作り出すことになる。
例えば、食品添加物のpH調整剤である Genussmilchsäure について紹介しよう。
この複合語は Genuss + Milchsäure の組み合わせ。
後半の Milchsäure は「乳酸」で、普通の独和辞典にも載っている。
前半の Genuss は、「味わうこと、飲食すること、賞味」とあるので食品に関係する言葉だ。
文意から食品添加物ということは明確なので、仮に「食品用乳酸」と和訳してみる。
そしてこの「食品用乳酸」を検索してみると、食品添加物の名称として使われているので、正しい和訳として自分の辞書に登録することになる。
ここまで人間翻訳者の日常の作業を再現してみたが、機械翻訳ではどうなるだろうか。
最近話題の DeepL と Google 翻訳を試してみた。
今回はドイツ語から英語と日本語に変換して比べてみた。
Genussmilchsäure DeepL Google
英語 Lactic acid Pleasure lactic acid
(他の候補) Edible lactic acid
Lactic acid for consumption
日本語 乳酸 プレジャー乳酸
どちらも日本語はだめだ。
英語も第1候補はだめだが、DeepL では他の候補で Edible lactic acid が出てくるので、まだましかもしれない。
全部小文字にして genussmilchsäure で試すと、不思議なことに DeepL は edible lactic acid が第1候補になる。
Google では英語は変わらなかったが、日本語は「快楽乳酸」となってしまった。
機械翻訳では、こんな言葉は見たことがないだとか、一応検索してみるかという判断はしないのだ。
出力結果を自動的に検索して用例を探すくらい Google ならできそうなものだが。
もしかすると、肌に塗ると元気になる「プレジャー乳酸」が存在するかもしれないが。
Genussmilchsäure を含む文を入力しても「乳酸」、「プレジャー乳酸」は変わらなかった。
まだ人間が頑張って、正しい訳例を食べさせてあげることが必要なようだ。
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