ドイツ語 Kinderkrankheit 小児疾患/初期不良
それ以前から研究に必要なドイツ語の化学論文や専門書を読んでいた。
毎日ではなくても30年ほどドイツ語を読んできたわけだ。
それでも、分野が自然科学に偏っていたこともあり、知らない言葉は多いので、辞書を引くことは怠らない。
最近出会った単語は、精密機械メーカーのパンフレットに出てきた Kinderkrankheit だ。
医療分野であれば、主に伝染性の「小児疾患/子どもの病気」である。
それで、機械の Kinderkrankheit とは何の比喩だろうか。
DUDEN にも独和辞典にも2番目の語義としてあるように、製品や機械などの「初期不良/初期トラブル/初期段階の問題」である。
初期不良の意味では、複数形の Kinderkrankheiten を使うことが多い。
DUDEN には明記してあるが、独和辞典で書いてあるのは大修館書店のマイスター独和辞典。
この点でも、複数の辞書を引くことの大切さがわかる。
「機械の小児疾患」という和訳はありえないので、もしこの比喩表現を知らなくても、人間翻訳者ならば他の意味があるはずだと調べるから、「初期不良」という正しい訳語にたどりつくことだろう。
それでは、機械翻訳ではどうなるだろうか。
Google翻訳と DeepL に、次のドイツ語文を入れてみた。
Typischerweise sind dies Auslegungsfehler oder Qualitätsprobleme in der Produktion, die sogenannten Kinderkrankheiten.
訳例:通常、これらは設計上のエラーまたは生産における品質問題、いわゆる初期不良のことです。
Google: 通常、これらは製造における設計エラーまたは品質の問題、いわゆる歯が生える問題です。
DeepL: 一般的には、設計上のミスや生産時の品質問題、いわゆる歯がゆい思いをすることが多いようです。
機械翻訳でどうしてこのような和訳になるのか、それはドイツ語をまず英訳しており、その英訳から和訳しているからだ。
英語以外の外国語を入れて日本語出力を見るとき、英語を仲介する二段階変換をしているため、エラー率が掛け算で増大していることに注意してほしい。
初期不良の意味での Kinderkrankheiten の英訳は、teething troubles / teething problems とすることが多い。
英語の比喩表現としても「初期不良/初期に起こる問題」などの和訳例があるのだが、どちらも学習が足りないためか誤訳になっている。
では単語だけを入力するとどうなるだろうか。
Google では、単数形の Kinderkrankheit は「子供の病気」、複数形の Kinderkrankheiten は「歯が生える」になった。
複数形の英訳は teething だったので、それから和訳すると「歯が生える」になってしまう。
それに対して DeepL では、単数形も複数形も「小児疾患」になった。
複数形の他の和訳候補も下に表示されているが、「初期不良」は登録されていない。
今回の事例でも、機械翻訳の出力をそのまま使用できないので、人間によるポストエディットが必要だと理解できるだろう。
これからも機械に負けないように、地道に1個ずつ覚えていこう。