SI単位系の接頭語の記号m(ミリ)をM(メガ)に変えないで
文系クラスに進んだ人は、高校理科の基礎知識だけでは足りないので、大学学部レベルの知識を独学する必要はあるだろう。
まあ、理系研究者でもすべての分野を熟知していることはないので、ミスをする可能性は同じくらいあるかもしれないが。
特許や医薬分野などの産業翻訳系の講座では、文系だった人でも最先端分野の文書を翻訳できるようになった事例が紹介されている。
それでも、実際に実験操作や機器を使った分析などの経験がないので、苦労することも多いようだ。
また、化学や物理では特に重要な、単位の書き方の知識が足りない人が見られる。
最近、液体の粘度(粘性率)の単位で、2人の翻訳者が、偶然だが、同じ記載ミスをしたまま納品した。
原文の mPa・s(ミリパスカル秒)を、和訳で MPa・s(メガパスカル秒)と誤記した。
SI単位系での書き方では、単位と単位との間に半角スペースを入れるので、mPa s が正しい表記だ。
ただし、この特許の英語原文では間に中点を入れて mPa・s と書いてあるので、この記事では、それにならうことにする。
流体の粘度の SI単位系での表記を mPa・s にするのは、cgs単位系のときによく使っていた cP(センチボアズ)と数字部分を合わせるためだ。
接頭語はミリとセンチで異なるものの、1 mPa・s = 1 cP なので、数字部分は変わらないから混乱しにくい。
Pa・s ではなく mPa・s を使うのは、常温の水の粘度が約 1 mPa・s ということもあるだろう。
余談だが、天気予報での気圧の単位を mbar(ミリバール)から変えたときも、hPa(ヘクトパスカル)にして数字部分は変わらないようにした。
それで、10-3 のミリを 106 のメガにしてしまうと、9桁も変わってしまう。
特許に記載された流体の粘度を知らなくても、「こんなに大きな粘度の流体があるのかな?」という疑問を持つかどうかが分かれ目だろう。
推敲時にタイプミスに気付けばよいのだが、もしかすると、加圧下の反応の実験例で MPa レベルの反応条件を見た経験から、mPa は誤記で MPa が正しいと思って修正したのかもしれない。
それでも、「溶媒なのに、こんなに大きな粘度で流れるのかな?」と疑問を持って、念のため調べてみることも大切だと思う。
また、この誤記をした2名のうち一方の翻訳者は、動粘度(動粘性率)の非SI単位である「ストークス(Stokes)」について、末尾の -s が複数形の語尾だと誤解して「ストーク」と和訳していた。
このような事例があるので海外の翻訳会社では、当該分野での学位を持つ翻訳者のみに依頼することがある。
それでは文系出身翻訳者が多い日本では困るので、私のような理系研究者がレビューすることで品質保証となるだろう。
機械翻訳もあてにならないので、企業や大学の理系研究者が特許翻訳に参入してほしいものだ。
機械翻訳は誤訳するから使えないという人もいるが、人間翻訳者が誤訳・誤記を残してしまうこともある。その誤訳・誤記が CATツールの翻訳メモリや用語集に登録されてしまうと、面倒なことになる。その後に翻訳を受注した翻訳者が、間違いに気づいて修正して納品しても、QAツールでは、〇〇の翻訳が統一されていないだとか、翻訳メモリに異なる翻訳が登録されているなどのエラーが出てしまう。False Positive ということで Ignore ...
温度の単位の誤記「C°」を修正した