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菅義偉首相は Nature を読むことになる?

科学を軽視する政治家として、トランプ大統領やボルソナロ大統領が有名だったが、今週は菅義偉首相が加わったようだ。

日本学術会議から推薦された候補者のうち6名の任命を拒否したことが、アメリカの科学誌 Science のウェブサイトで記事になった。
10月5日付けの記事は次のリンクから。
www.sciencemag.org/news/2020/10/japan-s-new-prime-minister-picks-fight-science-council

この記事に掲載された写真は、新会長に就任したばかりのノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章教授である。
日本の首相がいちゃもんをつけた相手が、ノーベル賞科学者を擁するアカデミック集団であることを印象付けているようだ。

そして、もう1つの有名な科学誌 Nature でも、10月6日にウェブサイトで記事が出て、10月8日号に掲載された。
記事のPDFは次のリンクから。
media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-020-02797-1/d41586-020-02797-1.pdf



朝日新聞でも引用されているように、今週発売の Nature 10月8日号では、トランプ大統領が科学に対してどのような悪影響を与えたのかを記事にしている。
そして今後、科学と政治の関係について連続して記事にする予定とのことだ。

菅義偉首相は、これから Nature の記事をチェックすることになるだろう。
まあ、何を言われても無視するのだろうが、日本学術会議の人事について判断できるほどの能力なのだから、愛読誌にしてほしいものだ。

Nature は最先端の論文が掲載される雑誌であるが、科学ジャーナリズムとして各国政府の科学政策について批判的な論評記事も掲載している。

Nature は過去にも、日本の科学政策について批判記事を掲載したことが何度もある。
私が一番記憶しているのは、文部省の「未来開拓事業」に関する批判記事だ
Bias alleged in Japanese university awards
次のリンク先で、PDFをダウンロードして確認してほしい。
www.nature.com/articles/383369a0 

この Nature の記事について私はある雑誌に投稿した。
どの雑誌なのか公開しても私はかまわないが、私の指導教授が学会重鎮から叱責されたので、匿名としたい。

投稿前に事実関係について文部省に問い合わせをしたが、「Nature の取材を受けていない。『学術月報』を読んでご自身で判断してほしい」という主旨の説明だった。

その後、私の投稿が実際に掲載されると知ってからは、「Nature には直接取材を受けると何度も申し入れたのに無視された。当事者ではなく、周辺の取材だけで記事にするのはマスコミのすることではない」などと、Nature の記事がいいかげんな取材に基づくという主張をしてきた。

文部省の官僚は、ジャーナリズムというものをわかっていない。
日本のマスコミと同じようにしろと言いたいのか、政府公式発表をそのまま流すものだと思っているようだ。
そのまま流すのならば、政府広報がやればいい。

今回の日本学術会議の問題で、日本の新聞や雑誌は完全に分裂している。
そのおかげで、どのメディアが政府広報の代理をしているのか、そしてどこがジャーナリズムと言えるのか、わかりやすくなったと思う。

日本のジャーナリズムにも期待しているが、不正を嗅ぎつけるジャーナリズムとして Nature の記事にこれからも注目したい。


日本学術会議の第25期会員が任命されたが、菅義偉政権が6人の任命を拒否したことが問題となっている。東京新聞・望月衣塑子記者のツイートの1つを引用しておこう。#学術会議 会員の任命を拒否された岡田正則教授「イエスマンばかりでは役割を果たせない」#日本学術会議 が新会員として推薦した6人の任命を菅首相が拒否した問題で、拒否された早稲田大大学院の #岡田正則 教授「イエスマンばかりでは学術会議の役割を果たせな...
菅義偉政権は大学に軍事研究をさせたいのか


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ジャンル : 学問・文化・芸術

ニトリルの命名法は面倒: アセトニトリルとシアン化メチル

私は化学研究者だったので、化合物の命名法について気にしている。
特許の場合は、慣用名や古い名称なども認められるようだが、どうしても正式な優先IUPAC名(PIN)を使うことにこだわってしまう。

原文の英語がPINではない場合も多く、仕方なく原文ママで和訳することが多い。
ただ、どうしても違和感が残るので、PINの日本語名称を使うように宣伝している。
まあこんなことを言うのも、日本語名称の規則を作っている日本化学会だけなのかもしれない。

今回気になったのは、国立天文台の研究紹介である。
www.nao.ac.jp/news/science/2020/20200925-alma.html

生まれたばかりの恒星の周辺にある分子 CH3CN acetonitrileアセトニトリルではなく、シアン化メチルと書いてあったからだ。

引用している論文で確認すると、methyl cyanide と書いてあったので、そのまま和訳したのだろう。
iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/abadfc

シアン化メチルの方が分子の構造がわかりやすいかもしれない。
また、英語論文を参照しながら読む人にとっては、英語表記に近いシアン化メチルと和訳してあった方が混乱しないのかもしれない。

ただ、化学者としては、使ったことがない「シアン化メチル」よりも、HPLC溶媒などで馴染みのある「アセトニトリル」の方が違和感がない。

しつこいようだが、IUPAC 命名法を確認しておこう。
ニトリルR-C≡Nの命名法は3種類あり、化合物によって使い分けるので面倒かもしれない。


(1) -(C)N に対しては接尾語 ニトリル nitrile、-CN に対しては カルボニトリル carbonitrile を用いて置換命名法で命名する。
CH3CH3 ethane + ≡N nitrile = ethanenitrile

(2) カルボン酸の保存名の語尾 ic acid または oic acid を オニトリル onitrile にかえて命名する。
CH3COOH acetic acid ⇒ CH3CN acetonitrile

(3) 官能種類命名法により、化合物種類名の シアニド(シアン化物)cyanide を用いて命名する。
CH3 methyl + CN cyanide = methyl cyanide


CH3CN は鎖状モノニトリルなので、原則としてPINは (1) の ethanenitrile エタンニトリル となり、またPINではないが、(3) の methyl cyanide シアン化メチル または メチルシアニド も可能なはずだ。

しかし、PINは、 (2) のカルボン酸の保存名
(CH3COOH acetic acid 酢酸)由来の acetonitrile のみである。
このPINを字訳するので、日本語名称は アセトニトリル のみだ。

これまで一番使われていた名称(常用名)が保存名としてPINになることもある。
例えば、HC≡CH のPINは、ethyne エチン になりそうだが、実際のPINは acetylene アセチレン である。

これとは対照的に、HCN のPINは、これまでの hydrogen cyanide シアン化水素 ではなく、formic acid ギ酸 由来の formonitrile ホルモニトリル である。

面倒な規則ではあるが、今はこれが正式な命名法なので、従うしかない。
でも特許は学術論文ではないので、古い命名法で付けた名称がこれからも使われることだろう。

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安倍政権の失敗の1つは働く女性が増えなかったこと

もうすぐノーベル賞受賞者の発表である。
科学技術創造立国と言い出してから、偶然なのだが、同年に化学と物理で複数の受賞があったり、連続して受賞者が出ることもあった。
受賞対象の研究は、その政策が始まるだいぶ前の業績なのだが、日本はすごいぞという誤解が生じた。
はやぶさの小惑星探査など、世界をリードする成果も見られたが、いつまでたっても「科学技術立国」の目標は達成されていない。

まあそれでも、この政策が始まる少し前から大学院重点化ということで、私も博士1年のときから月16~18万円の奨学金がもらえて、年90万円の科研費も3年間もらえた。

そして科学技術立国の政策の1つとしてポスドク等1万人計画があったから予算が増えて、ドイツに2年も留学できたようなものだ。
留学時は年間約450万円(日当+宿泊費扱い)に加えて、研究費が年60万円もらえた。

帰国後も2年間ポスドクを続けたが、ある私立大学で内部告発をしたことが響いたのか、大学にポストを得ることはできなかった。
民間企業に移っても、結局は研究所の閉鎖で退職することになり、今は翻訳会社で働いている。
化学研究者としてのキャリアが活かせる特許翻訳だし、しかも英語とドイツ語の両方が使えるので、異分野での理系人材の活用ということにはなっているかと思う。

悔し紛れに言うわけではないが、現在の研究環境を考えると、大学に残れなくてもよかったかもしれない。
帰国後に続けるはずだった研究テーマがあるが、それは宝くじでも当たったら、誰かに寄付して論文にしてもらおうと思う。

前置きが長くなったが、安倍政権でも新しい菅政権でも、日本の科学技術政策は目標未達で終わるかもしれない。

Nature 2020年9月10日号では、"Japan after Abe: time for a fresh start" と題する評論が掲載された。
記事のリンクは次の通り。
www.nature.com/articles/d41586-020-02540-w
media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-020-02540-w/d41586-020-02540-w.pdf (PDF版)

これを紹介している日本語記事は少ないが、以下を参照してほしい。

例えば、エナゴ学術英語アカデミーというサイトは次の通り。
www.enago.jp/academy/japanese-science-after-abe/

また、日本経済新聞電子版2020年09月25日の記事中でも一部引用している。
www.nikkei.com/article/DGXMZO64202910U0A920C2TJM000/

ここで注目したいのは、Nature が自然科学分野でのジェンダー不均衡(gender imbalance)について、小見出しを付けてまで指摘しているにもかかわらず、日本経済新聞の記事ではまったく触れていないことだ。

PDF版で見たときに、本文のカラムの間、中央部分に書かれていることに注目してほしい。

"One of Abe's most notable failures has been in his government's inability to fulfil a promise to improve gender diversity in Japan's workplaces."

エナゴ学術英語アカデミーの記事で概要を紹介しているように、自然科学分野の女性研究者の割合は、2019年時点でわずか 16.6% であり、2020年までに 30% にする目標は未達に終わると予想されている。

ドイツも特に大学教授で女性が少ない国に挙げられるが、それでも女性研究者の割合は 28% だ。
日本の女性研究者の割合は、G20 諸国で最低であり、「女性が輝く社会」などと言っていたのに、何も変わっていない。
女性研究者の人数は、確かに年々増加しているものの、目標未達であることには変わりない。

まあこれは、安倍政権が頑張っても無理だったかもしれない。
民間企業の社長や管理職の女性割合でも、大学教授の女性割合でも、菅内閣での女性大臣の割合を見ればわかるように、日本では男性中心に物事を進めること
alpha-male leadershipが当然視されているのだ。

学会が女性研究者を増やすために、「理系女子」などのキーワードを含むイベントを開催しているが、自分の娘が博士号を取ることを望む親はどれくらいいるだろうか。

これまでと同様に、薬剤師だったり、食品・栄養関係だったり、臨床検査技師など、何か資格が取れる分野ならば人気はあるかもしれないが、純粋な基礎科学分野で女性研究者を期待している人は少数派ではないか。

本人に研究者としての能力があるかどうか、性格が研究に向いているかどうかではなく、女性はこうあってほしいという非論理的な固定観念が邪魔している。

現状でも女性研究者が劇的に増える状況ではないので、20年以上前の私の大学での体験も、過去のものではないだろう。

世界的にも有名で、文部科学省の未来開拓事業にも採択された旧帝大の男性教授が、女性蔑視とも言える発言をした。
「卒論の研究室配属希望を受け付けるが、女子学生はいらない。就職の世話が面倒だ。」

グローバル企業と称する有名化学企業の研究所でも、結婚した女性社員が退職することを望む管理職は多かった。
ある飲み会で、「社員一人に〇×万円も経費がかかっているんだ」と、結婚後も勤務を続けている女性社員の前でわざと言う管理職もいた。
産休を複数回取得した女性社員を、「働かずに金をもらっている」などと非難する男性社員もいた。

さらに、「うちはメーカーだが、建設業と同じくらい女性管理職が少ないのだ」と、変な自慢をする管理職もいた。
会社のために長時間残業をしたり、休日も自主的に研究所に来るような、滅私奉公する男性社員が理想なのだろう。
胃潰瘍などで入院した回数を自慢する管理職もいたから、命令に服従する羊のような男性社員のみで研究室を構成したいのかもしれない。

だから理系女子学生の就職は元々困難だったし、修士卒だと年齢のこともあって紹介先が見つからないので、研究の邪魔だと考える男性大学教授がいても不思議ではない。

自然科学分野の研究成果が経済発展に寄与するかどうかが話題となりやすいが、若手研究者の待遇や女性研究者のための環境整備にも注目して、これからの10年を考えてほしい。

もしかすると10年後には、日本からの論文も特許申請も激減して、日本は世界から相手にされない後進国になっているかもしれない。

テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

社内のみ通用する略称を使った実験ノートは証拠書類になるだろうか

翻訳をしていて困ることの1つに、社内用語がある。
一般的に使われている装置や部品の名称、そして操作方法などでも、その会社だけの意味で使っていることもある。
親切なクライアントは、「〇〇とは~という意味」という一覧表を付けてくれることもある。

それはまれなケースで、参考資料が何もないことが多く、納品後に「社内で使っている用語と違う」ということで、追加料金なしで修正を依頼されることもある。

一度就職すると定年まで働くことが当然と思っている人は、社内用語ばかり使っていて、正しいと思い込んでいるのだろうか。
まあ、学会ごとに専門用語が違うこともあるので、縄張りというのか、その組織特有の用語や解釈が生まれるのだろう。

ポスドクや派遣社員として各地を転々とした私にとっては、その組織特有の略称や呼称というのは理解できずに苦労した。
同じ化学の研究をしているのに、実験ノートを見ても、使っている薬品や溶媒が理解できないこともあった。

あるグローバル企業の研究所で派遣社員として働いたとき、実験内容を記したメモで、溶媒名が「AN」という略称で書かれていて困惑した。
その実験を指示した上司に質問すると、「我が社ではANとはアセトニトリルのことだ」と説明された。
他にも主な溶媒には、工場も含めて会社内でのみ通用する略称を付けているという。

化学論文で使われる溶媒や試薬の略称は様々あるが、それまでの研究経験で、アセトニトリルをANと書いた事例は見たことがなかった。

社内用語を変えることは無理なので、私の実験ノートには「CH3CN」または「MeCN」と書いて、誰でもわかるようにした。

このとき思ったのは、社内用語で書いた実験ノートは証拠書類として有効なのかどうか、ということだ。

論文でも特許でも、記載内容に疑義が生じると、オリジナルの実験ノートや測定データなどの提示が求められることがある。
溶媒名が問題になることはほとんどないと思われるが、一般には通用しない社内用語で記録した場合に、「この略号はこういう意味だ」と説明しても、紛争相手に信じてもらえるだろうか。

独自開発の触媒などに略称を付けたとして、実験ノートの最初のページに対応表などを添付しておかないと、証拠書類としての効力は弱くなるのではないか。

そのような理由から知財関係の部署が指導しても、定期的に研修したり、実際に実験ノートの点検をしなければ、現場では楽な方を選ぶだろうから、改善しないかもしれない。

論文の撤回事件では、実験ノートの記載の不備が問題になったこともある。
特許でも同様の事例はあるのかどうか、時間があれば調べてみよう。

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「貴ガス」と「希ガス」の共存状態は続くのか?

(最終チェック・修正日 2020年07月09日)

大学で化学を専攻することに決めていた私は、高校化学の教科書では飽き足らず、高校3年のときに受験勉強をしながら、大学教養課程レベルの有機化学と無機化学の専門書を読んでいた。

高校3年のときには他にも、ドイツ語と中国語もかじっていて、海外短波放送の趣味と合わせて、受験勉強のストレスから解放される貴重な時間であった。

無機化学の専門書は、原著の英語から和訳したもので、章ごとに複数の大学教授が手分けして訳していた。
すると、章ごとに、貴ガス希ガスの両方の訳語が出てくることに気づいた。
出版社に質問したところ、次回の増刷時に統一するという回答があった。
ただ、どちらになったのか確認しないままとなった。

当時は高校化学の教科書でも「希ガス」と書かれており、大学でも「希ガス」と書くことが多かった。

英語では、以前は rare gas と書いていたので、和訳は希ガスでもよかったが、noble gas と書くことが主流となってからは、貴ガスにすべきという意見も増えてきた。

ちなみに、ドイツ語では Edelgas

1898年に刊行されたドイツ語の無機化学の専門書 "Lehrbuch der anorganische Chemie" (Hugo Erdmann) で初めて使われた。
Google Books の次のリンクから目次を見ると、226ページから "Edelgase (He, Ar)" の説明がある。
books.google.co.jp/books

2年後の 1900年には、Ne と Kr の物性などが追加された第2版が刊行された。
Nature の書評欄での紹介は次のリンクから。

www.nature.com/articles/063178e0

"... information about the new gases — here called Edelgase, ..." と書いてあり、2年経過してもまだ noble gas は使われていない。

1901年の Science の書評欄で noble gas という直訳での英語表記が現れたそうだ。
science.sciencemag.org/content/13/320/268

2005年に発表された
 IUPAC の無機化学命名法の勧告では、公認された18族元素の集合的名称は noble gas になっている。
次のリンクで51ページを見てほしい。
old.iupac.org/publications/books/rbook/Red_Book_2005.pdf

この勧告の和訳、「無機化学命名法-IUPAC 2005年勧告-」(東京化学同人)では、45ページに、貴ガス noble gas (He, Ne, Ar, Kr, Xe, Rn)」と書いてある(訳注も参照)。

日本化学会では、貴ガスを使うことを提案していて、文部科学省も、新しく検定を受ける教科書では「貴ガス」と書くように指導している。

例えば、日本化学会化学用語検討小委員会の「高校学校化学で用いる用語に関する提案(1)」は、次のリンクから。
www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/63/4/63_KJ00010110201/_pdf/-char/ja

日本化学会の雑誌「化学と教育」では、メンデレーエフの周期表誕生150年に関する記事で、「貴ガス」にしている。
www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/6/67_262/_pdf

ただし、2020年3月の日本化学会年会の発表では、講演題目を見ると、「貴ガス」「希ガス」の両方が使われていて、まだ過渡期のようだ。
最新の特許を検索してみても、「貴ガス」「希ガス」の両方が使われている。
同じ文書内で混在することはないが、まだ「貴ガス」への移行は完了していないようだ。

Nature Digest 日本語版では、「希ガス」を使っている。

そして、
「日経サイエンス」2020年5月号では、noble gas の和訳として、希ガス貴ガス)」という併記が用いられている。

「英語で読む日経サイエンス」に掲載された記事のリンクは次の通り。
www.nikkei-science.com/

この記事では「希ガス」を優先的な訳語にしているので、他の箇所では併記せずに、すべて「希ガス」のみとなっている。
日本化学会の提案や、現在の高校化学教科書の記述を尊重すれば、逆の「貴ガス(希ガス)」の方が望ましい表記かもしれない。

それでも、片方だけ書くより、初出時に両方を併記しておくのは、読み手に配慮した和訳と言えるかもしれない。
「貴ガス」だけだと、変更前の教育を受けた読者は戸惑ってしまうだろう。
日経サイエンスを読むのは、化学者だけではないからだ。

私は化学者として、特に化合物名について、最新の規則通りの命名法で特許を書いてほしいと言ってきた。
ただ、専門的な内容でも、対象読者層が幅広い場合は、日経サイエンスのように、新旧併記ということも考えた方がよいかもしれない。

「希ガス」がまだ使われているが、科学用語集で noble gas 貴ガス の次に、noble metal 貴金属 が続けば、一貫性があると思ってもらえそうだ。

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安倍晋三首相に「種の起源」の絵本を贈ろう ⇒ 二階幹事長にも

(最終チェック・修正日 2020年06月24日)

自民党公報がツイッターで、ダーウィンの進化論を誤用した言い回しを使って、憲法改正の必要性を訴えているそうだ。
そして多くの人々が、その無知を批判する投稿をしている。

朝日新聞の取材によると、「憲法改正について、国民の皆様にわかりやすくご理解していただくために、表現させていただきました」とのことだ。
www.asahi.com/articles/ASN6Q6674N6QULBJ00V.html

しかし、生物の進化や多様性を考えるための学説が、どうして憲法改正に関係するのか、その説明はないようだ。

自民党としては小泉郵政改革の頃から、知的レベルが低いと分類された層、いわゆるB層をターゲットにして世論誘導をしているようなので、詳しい説明などせずに有名な科学者の名前で権威付けして、なんとなくそんな感じだという雰囲気づくりをしているだけだろう。

私が好きな岩波書店は、そのような勘違いをしてしまう人向けに、進化論についてわかりやすく解説した絵本を紹介している。
以下に示したツイッターを参照してほしい。



勝手な推測で申し訳ないが、安倍晋三首相は嘘ばかり言うし、憲法の勉強もしていないし歴史も知らないし、読めない漢字も多いようなので、自分で専門書を読んで進化論を勉強したことはないだろう。

いきなり難しい進化論の専門書を読んでも理解できそうにないので、岩波書店が親切に推薦してくれた、小学3年生からおとなまで楽しめる絵本、
ダーウィンの「種の起源」を誰かプレゼントしてはどうだろうか。
www.iwanami.co.jp/book/b442802.html

原著を読まなくても、優良な解説書が入手できるのは幸せなことだ。
それに、海外で出版された外国語の書籍であっても、翻訳によって日本語で読めるのも幸せなことだ。

翻訳者のおかげで日本語で様々な知識を得られることを、日本人はもっと感謝してもよいのではないか。
「日本はすごい」と言いたいなら、誰かが主張する「民度」ではなく、世界中の知的財産に日本語でアクセス可能にしていることを挙げてほしい。

通常国会も終わって日曜日は自宅にいるようだから、安倍首相はゴルフに行かなければ、本を読む時間がたくさんあるだろう。

念のために明記しておくと、この本はおとなも楽しめる絵本であり、決して安倍首相が小学3年生レベルだと言いたいわけではない。

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新素材LIMEXの分析値問題は解決したのだろうか

私は翻訳の仕事で、発表前の社内文書を目にすることもある。
決算や事業計画に関する社長メッセージの世界同時発表だったり、特許出願に関連する書類ということもある。

そのため、株式投資をするときは、絶対に担当しないであろう会社を選んでいる。
自動車、機械、医療機器、医薬、化学、バイオは絶対だめだ。

ボッシュやシーメンスが気になっても、プレシジョン・システム・サイエンスが注目されていても買えない。
売買時点でその会社の翻訳をしていなくても、内部情報を持っていなくても、疑われることは嫌だ。

それで、日本株で投資しているのは、ロック・フィールドとコンコルディアFGだけだ。
代わりに投資信託として、ドイツDAX30のインデックスファンドなどを定期積立購入している。

保有株の1つであるロック・フィールドでは、脱プラスチックを進めるために、7月以降に順次、バイオマスプラスチック製レジ袋とFSC認証紙袋を導入する。

6月15日のプレスリリースは次のリンクから。
www.rockfield.co.jp/newsrelese/175.html

WWF会員としては、特にFSC認証に興味があるので、1回だけ30円を払って入れてもらうかもしれない。
数年前のキャンペーンでRF1の布製エコバッグをもらっていたので、それ以降はエコバッグを使うことにしよう。

プレスリリースで気になったのは、簡易包装に使う袋の素材で、次のように書いてある。

【簡易包装に使用する袋も石灰石から生まれた環境に優しい新素材LIMEX(ライメックス)製に順次切り替えます。】

この新素材LIMEXは、何度かテレビ番組で紹介されていた。
紙のように印刷できるということで名刺に使ったり、水に濡れても大丈夫ということで屋外掲示物への応用もあった。

このLIMEXを製造販売している会社は、株式会社TBMで、会社ウェブサイトのリンクは次の通り。
tb-m.com/limex/

石灰石(炭酸カルシウム)と熱可塑性樹脂との混合物で、最近は植物由来のバイオマスプラスチックを混合している。

エコな製品として注目されているわけだが、「オルタナ」という雑誌に批判記事が出ていた。
炭酸カルシウム量が50重量%以上というのは嘘だという記事だ。
www.alterna.co.jp/30206

その指摘に対するTBMが発表した分析データは、次のリンクで公開されていて、炭酸カルシウム量は53重量%だ。
tb-m.com/wp-content/uploads/2020/05/20200504_tbm_release.pdf

TGAのデータで300℃から400℃付近の減量は、有機物であるポリマーの分解によるものだ。
その後、さらに昇温すると、炭酸カルシウムの分解による減量は、600℃付近から始まっていて、740℃付近で完全に酸化カルシウムになっている。

オルタナの記事にはTGAのチャートがないので比較できないが、第三者機関が測定とあるので正しいのだろう。
ということは、ロット間のばらつきが大きいということなのか、それとも納品後しばらく経過すると変化するのか。

できれば、工場出荷直後の同一ロットを使って、同じ試験所の同じ測定装置を使い、さらに最低3サンプルで試験してほしいものだ。

この分析値を巡る問題は、本当に解決しているのだろうか。
5月初めにTBMが回答してから、1か月も経過しているのに、オルタナ側の対応が何も報じられていない。
TBMの発表を信じるとしても、もう少しデータを集めてから、LIMEX製の袋を導入を決めてもよかったのではないか。

また、分析値は正しいとしても、このLIMEX製の袋を、自治体のプラスチックの回収に出せないのではないか。
LIMEXのリサイクルならば可能だが、他のプラスチックと混ぜてはいけないのではないか。
そのため、自宅ではゴミ袋として再利用して、燃やすごみに出すことになるのではないか。

LIMEX製品の回収ボックスについて、神奈川県内の設置状況は次のリンクで確認できる。
upcycle-consortium.com/

それで、そごう横浜店や高島屋横浜店で買い物する前に、横浜中央郵便局に寄って入れることになるだろうか。
RF1などでLIMEX製の袋を導入するならば、デパ地下の入口にも置いてほしいものだ。

ロック・フィールドから次回の株主通信が届いたら、株主アンケートに質問を書いて送ってみよう。

テーマ : つぶやき
ジャンル : 株式・投資・マネー

「メディカル関連特許の特殊性」(化学2020年6月号)

先週注文した書籍と一緒に、化学同人の雑誌「化学」2020年6月号が本日昼前に届いた。
小惑星イトカワ、グラフェン、特許の記事を読むために購入した。

ところが一番驚いたのは、最新のトピックスに、私が大学院時代に関わった化合物が出ていたことだ。
その論文を書いた教授も知っているので、22年ぶりになるがメールを書いてみようと思った。

それで特許の記事は、
中務先生のやさしいカガク特許講座 第17回 メディカル関連特許の特殊性で、医療行為が特許侵害にならないというものだ。

今回取り上げられた特許法の条文は次の通り。
・第29条第1項(特許の要件)
・第69条第3項(特許権の効力が及ばない範囲)
・第93条(公共の利益のための通常実施権の設定の裁定)

私は化学は専門だが、特許法はほとんど知らないので、このような基本的な解説はうれしい。
特許翻訳では、権利範囲が変わらないように気を付けるが、その他にも知っていた方がよいことがあるはずだ。

日本やヨーロッパでは、「人間を手術、治療又は診断する方法」は特許されないが、アメリカでは特許されるという。

方法では特許されなくても、物であれば、例えば、「~を治療するための医薬組成物」ならば特許される。
使用方法も含めて特許請求項を書けば、実質的に「~を治療するための方法」の権利を保護できる。

ただ、PC
出願の特許翻訳では原文ママに和訳するので、「Method for treating ...」であれば、「~を治療するための方法」で納品している。
外国語特許ならばよいのかどうか、それは書いていないが、受理されているということは大丈夫なのだろう。

特許法第69条第3項では、特許権の効力が及ばない範囲が規定されている。
医師の処方箋に従って、2種類以上の薬を薬剤師が混ぜても特許権侵害にはならない。
患者を前にした医療行為は、特許権に縛られることなく自由なのだ。

ところが、企業が研究目的ではなく、混合した医薬を製造すると特許権侵害になってしまう。

現実の問題を1つの条文だけで扱うことができないので、継ぎはぎかもしれないが、複数の条文で対応するそうだ。

また、コラムでは、「強制実施権」について説明している。
COVID-19 の治療薬やワクチンが開発されれば各国で設定されるかもしれない。

弁理士を目指さなくても、翻訳の合間に特許法を勉強して、意識しながら和訳したいものだ。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

「どうする!? 新型コロナ」(岡田晴恵、岩波ブックレット)

紀伊国屋BookWeb で注文していた書籍が今朝届いた。
気になっていた、どうする!? 新型コロナ(岩波ブックレット)も入っていた。

いつもなら発売当日に書店店頭で購入できるのだが、新型コロナの影響で配送も遅れているので、9日後に入手できた。

書籍紹介のリンクは次の通り。
www.iwanami.co.jp/book/b507610.html (岩波書店)
tanemaki.iwanami.co.jp/categories/854 (webマガジン「たねをまく」)

目次を含めた最初の10ページを試し読みできるので、興味のある人は確認してほしい。

本書のQ&Aでは、日本で緊急事態宣言が出された直後の4月11日までのデータに基づいていることに注意してほしい。
例えば、マスクが手に入らない場合の対策も書いてあるが、5月にはサージカルマスクが店頭に並び始めたので、念のための情報ということになる。

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 による感染症 COVID-19 の情報は日々更新されている。
そのため、治療薬については、期待されているものが列挙されているだけで、5月に認可されたという情報は間に合わなかった。
加えて、「発熱 37.5℃以上」という判定条件(政府側は目安と言っている)が入っていることも注意。

ただし、予防法として手洗いの具体的な方法をイラスト入りでわかりやすく説明しているので、一般的な知識を得るには有用な書籍だ。
また、大流行を防ぐ対策だけではなく、「集団免疫」などの話題となった用語も解説しているので、役に立つブックレットだと思う。

ところで、著者の岡田晴恵・白鳳大学教授は、主にテレビ地上波の番組、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」や、TBS「Nスタ」で連日解説している。

岡田教授は、アビガンの早期投与について、年齢制限などの条件付きではあるが、一日も早く承認するようにと意見を言っている。
その点について批判もあるが、現時点で可能性が少しでもあるならば、現場の医師が使える手段を増やすべきだろう。
慎重に使いながら、新しいデータが追加された時点で再検討すればいい。

また、岡田教授のこれまでの著作だけではなく、留学先を見ても感染症の最前線の研究者であることはわかる。
ドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所は、世界的に有名な研究所だ。
アフリカミドリザル由来のウイルス性出血熱(マールブルグ病)の発生地ではあるが、それでも世界中のウイルス研究者が集まる研究所だ。

私も学部は違うが、マールブルク大学に2年間留学していて、岡田教授も自著で触れている聖エリーザベト教会の近くを毎日通って研究室に行っていた。

そのため親近感が沸くし、テレビなどでの発言内容も研究者として当然のことだと思う。
特に、2月の番組中で、PCR検査が増えない裏の理由として、一部の研究者がデータを独占して論文を書こうとしていることを挙げていた。
この発言には批判も相次いだようだが、同じマールブルク大学に関係する他分野の日本人研究者からもエールが送られている。
tetsugakuka.seesaa.net/article/473797861.html

実は私はその番組より1週間ほど前に、身近な人たちからPCR検査が増えない理由を聞かれた。
「研究者にはいろいろなタイプがある。この流行を利用して論文を書きたい人もいる。データを独占したいからではないか」と説明していた。

これは私の研究者としての経験から推測したもので、研究分野は違うし、日本の感染症研究者に取材したわけではないため、ブログ記事にすることは避けていた。
しかし、岡田教授が勇気を出して発言したのだから、遅くなってしまったが、私も岡田教授を支持することを表明したい。

もう20年以上も前になるが、私も実名で文部省の批判記事を雑誌に書いたことがあり、その後、学会重鎮から怒られてしまった。
「お前はいつからジャーナリストになったのか」と。
「研究費を増やそうという雰囲気にせっかくなりつつあるのに、余計なことを国民に知らせてはならない」とまで言われた。
若手は研究だけしていろと言いたいわけだ。
周囲の若手の中にも、「教授になるまで自分の意見は言わない」などと、「長い物には巻かれろ」を貫く者もいた。
研究者として当然持つ疑問であっても、学会を含めて政治的な勢力にとって都合の悪いことは口にしてはならないようだ。

COVID-19 にはまだわからないことがたくさんあるので、対策が手遅れとならないように、科学者の視点で疑問を自由に口にできる社会でありたいものだ。

テーマ : 感染症予防
ジャンル : 心と身体

「コンパクト 化合物命名法入門」(東京化学同人)

私は有機化学の研究で博士号を取得し、ドイツ留学もした化学者なのに、化合物の名称でいつも苦労している。
命名法が何度も改訂されていて、大学院生のときとは名称が変わっているし、廃止された名称もある。

すべてのルールを暗記しているわけではないので、翻訳者が辞書で語義を確認するように、命名法の専門書をすぐ参照できるようにしている。

特によく使うのは、
「有機化学命名法 IUPAC 2013勧告および優先IUPAC名」(東京化学同人)。
もう1つ、
「無機化学命名法 -IUPAC 2005 年勧告-」(東京化学同人)も使うことがある。

学術論文を書くわけではないが、特許翻訳では、その化合物名に翻訳名があるのか、それともカタカナで字訳するのか、ルールに従って判断しなければならない。

まあ特許の場合は学術論文とは異なり、専門家が読んで理解できれば、古い命名法であっても、慣用名であっても、試薬カタログの商品名であってもよい。

それでも、特許翻訳の検定試験では、IUPAC 命名法を知っていることが前提になるので、資料を手元に用意すべきだろう。


今月、東京化学同人から入門書が出版された。
コンパクト 化合物命名法入門だ。

www.tkd-pbl.com/book/b508974.html

508974.jpg   

内容を把握できるように、目次を引用しておこう。

1.命名法に必要な化学の基礎知識
2.IUPAC命名法の意義と発展経緯
3.IUPAC名の全体像と日本語表記
4.有機化学命名法初級編
5.有機化学命名法中級編
6.無機化学命名法初級編
7.無機化学命名法中級編
8.高分子命名法初級編
9.高分子命名法中級編
10.生化学命名法初級編
11.今後の自習のために

高分子と生化学も一緒になっていて便利だと感じたので、私も入手した。
研究者ではなくても、化学物質を扱う業務をする人ならば、持っていて損はしないことだろう。

このブログでは、ドイツ語の宣伝をしようとしているが、化学者なのだから、特許翻訳で出てきた化合物名を取り上げた方がよいかもしれない。

体系的な説明は専門書に譲るとして、迷って調べた化合物などを今後は紹介しようと思う。

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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