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ネコにマタタビ(生物の科学 遺伝2023年3月号)⇒追加 科学(岩波書店、2023年5月号)

(最終チェック・修正日 2023年04月28日)

3月発売の雑誌なのだが、1か月以上経過した今日、「生物の科学 遺伝」2023年3月号を購入した。
近くの書店にはないので、京急百貨店の八重洲ブックセンターに寄ったときに、特集を確認してから購入している。

3月号の特集は「ネコのズーロジー(動物学)」
この号のリンクは次の通り。
seibutsu-kagaku-iden2.jimdo.com/backnumber/2023%E5%B9%B43%E6%9C%88%E7%99%BA%E8%A1%8C%E5%8F%B7/

私はどちらかというとネコの方が好きだ。
それで、この特集号を購入したのだ。

ネコの iPS細胞や、屋外にあふれるイエネコの社会問題など、興味ある記事が多い。
その中でも、化学者として特に興味があるのが、ネコにマタタビの総説だ。

この研究の紹介は、例えば、サイエンスポータルを参照してほしい。
scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20210128_g01/

ネコのマタタビ反応には、蚊を寄せ付けないという化学防御の意味があった。
この新知見は驚きであった。

【追記(4月28日):
岩波書店の科学 2023年5月号が届き、特集は「匂いとフェロモンの科学」で、「ネコのマタタビ行動」という記事もある。
www.iwanami.co.jp/book/b625798.html

マタタビに含まれる活性成分であるネペタラクトールの蚊よけ効果については、この「科学」での記事の方が詳しく紹介されている。】

しかも、本能による行動であり、学習したものではないのだ。
どのようにしてマタタビ反応を獲得したのか、そしてなぜネコ科動物に特有なのか、謎はまだまだ続く。


岩手大学農学部などの研究チームが、ネコのマタタビ反応の謎を解明した。岩手大学と京都大学のプレスリリースのリンクは、それぞれ以下の通り。www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2021/01/003871.html(岩手大学)www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-21 (京都大学)ScienceAdvances に掲載された論文のリンクは次の通
英語 fur、ドイツ語 Fell:「毛皮」でなく「被毛」

テーマ : 生物学
ジャンル : 学問・文化・芸術

「研究者大量雇い止め」の必然(東洋経済 2022年11月12日号)

岸田首相は昨年10月の所信表明演説で、「成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現」であることを表明した。
以前は「科学技術創造立国」と言っていたと思うが、どう呼ぼうと、今の日本ではとうてい実現できないのでどちらでもよい。

これまでも人材育成のために奨学金などの拡大や、大学発ベンチャーの支援、競争的資金の増額など、様々な施策が講じられてきた。
ただ、手を変え品を変えても根本的な問題を先送りしているだけなので、何も変わらない。

ノーベル賞受賞者や最先端技術を持つ企業など、ベストケースだけを取り上げて「日本はすごい」と浮かれている国なので、これからも没落に向かって確実に進んでゆくだろう。

最近も新聞などで、ポスドクの苦境や理化学研究所での大量雇い止めについて報じられることが目立っているように思う。
そして今日発売の東洋経済2022年11月12日号には、日本の研究力が危ない! 「研究者大量雇い止め」の必然 が掲載された。

研究者の場合、特例で有期雇用契約は10年間まで可能で、一般労働者の5年よりも2倍も長い。
研究に専念できる期間を長くして、その間に成果をあげてほしいということのようだ。
10年後に無期雇用への転換申込権が生じるのだが、財源が足りないなどの理由で、大量に雇い止めとなるおそれがある。

雇い止めをしないように周知徹底したそうだが、無期雇用するための財源がないのに無理な話だ。
文科省も含めて当事者意識は薄く、研究職を目指した自分がバカだったと後悔するだけなのか。

トラックバックした記事でも取り上げたように、理化学研究所の雇い止め問題が解決できないならば、日本は基礎研究を重視しない国であると宣言しているようにも思える。

大学人事の場合、専門分野が違うのに学科長の弟子が採用されたり、多額の寄付をした企業の社員が採用されるなどの不思議な人事もあり、優秀な人材が応募しても不採用となることがある。

運営費が減少している大学のポストは増えないと思うし、科学技術立国を実現したければ、国立研究所の拡充と、自由な研究環境の保証をする方が早いと思う。

旅行支援などでばらまく予算があるのなら、基礎研究につぎ込めば、人類の未来を救う国になれると思う。
コロナワクチンを開発できない国のままでもよければ、目先の利益のみを求めて、問題先送りをしていればよい。

研究職を辞めて私のように、特許翻訳業界に入ってくる人はいるだろうか。


私が博士後期課程に進んだ頃、「アメリカ並みに博士を増やせば日本はよくなる」と言っていた人がいた。その後、博士取得者やポスドクの就職先が足りないという問題が深刻になった。そうするとその人は、「私も3年くらい無職のようなものだった。がんばれ」と言った。私は博士の3年間に奨学金と研究費をもらい、2年間のドイツ留学では年間約450万円支給されて、それ以前と比べれば優遇されていた。そして帰国後にポスドクを2年...
冷遇されるポスドク(神戸新聞NEXT 2022年04月21日)


テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

「脱炭素」ではなく「炭素循環」

今年も世界中で極端な気象現象が見られ、気候変動・地球温暖化の話題が取り上げられている。
そして特に話題となるのが、二酸化炭素の排出量である。
他にメタンなどにも注目しなければならないが、二酸化炭素が悪者扱いされていることが多い。

それで、二酸化炭素を排出しない「脱炭素」の技術が望まれている。
ただ、あらゆる過程において二酸化炭素の排出がゼロというのはハードルが高い。
ということで、二酸化炭素収支が均衡する「カーボンニュートラル」、または「炭素循環」の方が現実的である。

たまたま日本化学会のサイトで「お知らせ」を見たところ、「脱炭素」ではなく「炭素循環」を使おうと提案していることを知った。

【化学と工業9月号、化学会発欄に「科学(化学)的に正しい「炭素循環」を 我が国が目指す社会の用語として使おうを発表しました。日本化学会は,この科学(化学)的に間違った言葉が使われることに強い懸念をもっており,科学(化学)的に正しい「炭素循環」という用語を使うことを強く求めたいと思います。】


「化学と工業」の記事 PDF のリンクは次の通り。
www.chemistry.or.jp/journal/ci22p667.pdf

確かに「脱炭素」だと、二酸化炭素を排出するものは追放すべきという誤解を生みそうだ。
それで、科学的・化学的に正しい用語として「炭素循環」を普及させたいという主張は理解できる。

私はできるだけ「炭素循環」を使いたいが、メディアで「脱炭素」を毎日目にしているし、日本化学会の主張が一般の人々には届かないのではないかと思う。

国会審議などで岸田首相が「炭素循環」と言うかどうか、機会があればチェックしてみよう。

テーマ : 雑学・情報
ジャンル : 学問・文化・芸術

国立天文台で初めてのクラウドファンディング

不定期にチェックしている国立天文台のツイートを見たところ、水沢観測所がブラックホール研究を支援するクラウドファンディングを始めていた。
readyfor.jp/projects/naoj-mizusawa

私は今年から収入が減っているのできついが、できれば期限までに1万円の寄付をしたいと考えている。
現在作業中のドイツ語和訳のレビュー案件は、6月末に翻訳料金が入金予定なので、1万円ならば対応できるだろう。

寄付方法としては他にも、天文学振興財団を通じた指定寄付も可能だ。
この財団を通じて一度、ハワイすばる望遠鏡を指定して1万円の寄付をしたことがある。
www.fpastron.jp/

どちらも寄附金控除の対象になるが、クラウドファンディングの方が手続きがネット上で完結するので楽だろう。
また、グッズがもらえるなどの特典もあるので、クラウドファンディングを選ぶ方が楽しいと思う。

日本は基礎研究費を少しずつ増やしているのだが、まだ全然足りない。
予算がついても、国立天文台の内部でどこに振り分けるかで揉めてしまう。

観測機器の維持費も高額になるので、若手研究員の人件費にはほとんど回せない。
大学院生の奨学金も全員がもらえるわけではないので、クラウドファンディングを利用するのが賢明だろう。

水沢緯度観測所での木村榮によるZ項発見から今年で120年になる。
www.miz.nao.ac.jp/kimura/c/description/article-02

X線天文学やブラックホールの研究も含めて、日本は世界の天文学をリードする発見を重ねてきた。
この伝統を次世代につなぐためにも、「役に立たない」基礎研究であっても、継続的に資金援助をすべきだ。

未知の領域を探索するという冒険心こそが、人間の本質かもしれない。

お金持ちセレブの生活がテレビ番組などで紹介されることがあるが、こういったお金儲けとは無縁の世界に寄付してほしいものだ。




私が博士後期課程に進んだ頃、「アメリカ並みに博士を増やせば日本はよくなる」と言っていた人がいた。その後、博士取得者やポスドクの就職先が足りないという問題が深刻になった。そうするとその人は、「私も3年くらい無職のようなものだった。がんばれ」と言った。私は博士の3年間に奨学金と研究費をもらい、2年間のドイツ留学では年間約450万円支給されて、それ以前と比べれば優遇されていた。そして帰国後にポスドクを2年...
冷遇されるポスドク(神戸新聞NEXT 2022年04月21日)


テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

冷遇されるポスドク(神戸新聞NEXT 2022年04月21日)

私が博士後期課程に進んだ頃、「アメリカ並みに博士を増やせば日本はよくなる」と言っていた人がいた。
その後、博士取得者やポスドクの就職先が足りないという問題が深刻になった。
そうするとその人は、「私も3年くらい無職のようなものだった。がんばれ」と言った。

私は博士の3年間に奨学金と研究費をもらい、2年間のドイツ留学では年間約450万円支給されて、それ以前と比べれば優遇されていた。

そして帰国後にポスドクを2年続けたが、実験廃棄物不法投棄の内部告発が原因で推薦状をもらえなくなり、民間企業で派遣社員として働くことにした。

医薬メーカー子会社で契約社員となったものの、事業再編で退職することとなり、今は特許翻訳をしている。
研究経験を活かせる職種の1つではあるが、国費でポスドクを4年間続けたのに、最初の目標であった大学や研究所でのポストは得られなかった。

支援策は少しずつ増やしているようだが、ノーベル賞受賞者が警鐘を鳴らしても、日本が科学研究を本気で支援しようとしない国であることは確かなようだ。

新型コロナウイルスワクチン開発の状況でも明らかとなったように、日本は先進国ではなく、周回遅れの後進国である。

そして今日、神戸新聞NEXT に掲載された記事のように、理研のポスドクなど約600人の任期付き研究員が雇い止めの危機にある。
www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202204/0015238222.shtml

【理研は職員の8割が非正規雇用。また研究系職員には10年の雇用上限があり、本年度末には、神戸事業所の職員を含む約600人が雇い止めとなる可能性があるという。】

プロジェクトが終了しても新たなチームを編成して、最先端の研究を継続できるようにしてほしいものだ。
加えて、終身雇用でベテラン研究員を確保して、緊急課題対応の研究チームを即座に発足できるようにしてほしい。

ただ、ノーベル賞受賞者への質問で、「何の役にたつのですか」が毎回出てくる日本なので、淡い期待を持たせないように、基礎研究をしない国だと宣言してはどうだろうか。

年収は期待できなくても、私のように翻訳をしたい研究者がいれば、アドバイスをするつもりだ。
最先端の特許の内容を理解するには、やはり最先端の研究の経験者が向いていると思うから。


本日1月22日の日本経済新聞電子版に、博士課程の学生やポスドクの支援策についての記事が掲載された。www.nikkei.com/article/DGXMZO54653250R20C20A1MM0000/【政府がまとめる若手研究者支援の総合対策案が明らかになった。博士課程の大学院生を対象に、希望すれば奨学金などで生活費相当額を支給して研究に集中できるようにする。企業に協力を求め、理工系の博士号取得者の採用者数を2025年度までに16年度比で1千人増やす。若...
「ポスドク」を採用したい企業は現れるだろうか


テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

60番元素ネオジムと「ネオジウム」

元素名は、以前は発見者が独自の名称を主張していたこともあるが、今では  IUPAC が決めている。
IUPAC が正式に決める名称は、基本的に英語を原語として付けているので、英語名と同一だと思ってもかまわない。

そして、その元素名について、日本国内で使う日本語名称を決めているのは日本化学会命名法専門委員会である。

日本化学会の会員でなくても、なぜ日本化学会が担当するのか疑問を持っていても、正式に決められた日本語名称を使うべきだ。

1つの元素に対して1つの名称・表記が原則である。
過去に漢字表記だったのに、今ではカタカナ表記になった元素名もあるが、それでも最新のルールに従って1つの名称・表記のみを使うべきだ。

最近の特許を検索していて気づいたのは、60番元素ネオジムNeodymiumネオジウムと書いているものがあることだ。

海外メーカーの外国語出願の和訳だけではなく、国内有名メーカーの日本語での特許でも、誤用の「ネオジウム」があった。

日本語名称のネオジムは、ドイツ語の Neodym 由来であり、ナトリウムなどと同様にすでに定着した日本語名称は変更しないことになっている。

特許では学術用語を使うことになっているのだが、誤用の「ネオジウム」であっても専門家が読めば、「ネオジムのことだな」と理解できるのでかまわないようだ。

それでも「ネオジウム」を使わないようにしてもらいたい。

例えば、日本金属学会の会報「まてりあ」第60巻第3号(2021年)の「金属素描 No.15 ネオジム(Neodymium)」には次のように書かれている。

【和名の「ネオジム」は,ドイツ語の “Neodym”に由来する.商業的に「ネオジウム」と誤用されていることが見られるが,注意されたい.】
jim.or.jp/everyone/pdf/15.neodymium.pdf

それでも残念ながら、「金属素描」の記事一覧では、以下のスクリーンショットのように、「No.15 ネオジウム」という誤記になっている。

ネオジム
jim.or.jp/everyone/top_ranking.html

学会の公式サイトですら誤記があるのだから、特許の「ネオジウム」を批判するなと言われそうだ。

衒学的と言われても、自分が翻訳するときには必ず「ネオジム」にするつもりだ。
もし、翻訳メモリに「ネオジウム」と登録されていても、理由を説明して「ネオジム」に修正するつもりだ。

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

土星の衛星タイタンでシクロプロペニリデンを検出

有機化学の研究をしていたからなのか、宇宙空間に存在する有機分子にも興味がある。
地球上にも存在する見慣れた分子もあれば、人工的にはまだ合成できていない分子もある。

私が卒業研究を始めた年に、ハレー彗星のコマでシクロプロペニウムカチオンが検出されたという論文が Nature に載った。
この論文もきっかけとなり、自分の研究以外にも、星間分子も含めて分野を限定せずに、幅広く論文を読む癖がついた。

そして今年10月に、土星の衛星タイタンでシクロプロペニリデンを検出したという論文が出た。
The Astronomical Journal の Abstruct のリンクは次の通り。
iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/abb679

この発見を紹介しているNASAのサイトは次のリンクから。
www.nasa.gov/feature/goddard/2020/nasa-scientists-discover-a-weird-molecule-in-titan-s-atmosphere/

シクロプロペニウムカチオンもシクロプロペニリデンも、どちらも炭素数3の最小の環化合物である。
タイタンの大気中にシクロプロペニウムカチオンが存在することはわかっていた。
そして今回は、ALMA電波望遠鏡で観測して、同じ炭素数のシクロプロペニリデンを検出した。

高反応性のシクロプロペニリデンは、星間ガス雲中では見つかっていたものの、タイタンに存在することは予想外だった。
シクロプロペニリデンが存在できるほど希薄で低温ということなのだろう。

ないと思っていたところに実はあるのだ。
研究では先入観をもたないことが大切だと再認識した。

テーマ : 星・宇宙
ジャンル : 学問・文化・芸術

菅義偉首相は Nature を読むことになる?

科学を軽視する政治家として、トランプ大統領やボルソナロ大統領が有名だったが、今週は菅義偉首相が加わったようだ。

日本学術会議から推薦された候補者のうち6名の任命を拒否したことが、アメリカの科学誌 Science のウェブサイトで記事になった。
10月5日付けの記事は次のリンクから。
www.sciencemag.org/news/2020/10/japan-s-new-prime-minister-picks-fight-science-council

この記事に掲載された写真は、新会長に就任したばかりのノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章教授である。
日本の首相がいちゃもんをつけた相手が、ノーベル賞科学者を擁するアカデミック集団であることを印象付けているようだ。

そして、もう1つの有名な科学誌 Nature でも、10月6日にウェブサイトで記事が出て、10月8日号に掲載された。
記事のPDFは次のリンクから。
media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-020-02797-1/d41586-020-02797-1.pdf



朝日新聞でも引用されているように、今週発売の Nature 10月8日号では、トランプ大統領が科学に対してどのような悪影響を与えたのかを記事にしている。
そして今後、科学と政治の関係について連続して記事にする予定とのことだ。

菅義偉首相は、これから Nature の記事をチェックすることになるだろう。
まあ、何を言われても無視するのだろうが、日本学術会議の人事について判断できるほどの能力なのだから、愛読誌にしてほしいものだ。

Nature は最先端の論文が掲載される雑誌であるが、科学ジャーナリズムとして各国政府の科学政策について批判的な論評記事も掲載している。

Nature は過去にも、日本の科学政策について批判記事を掲載したことが何度もある。
私が一番記憶しているのは、文部省の「未来開拓事業」に関する批判記事だ
Bias alleged in Japanese university awards
次のリンク先で、PDFをダウンロードして確認してほしい。
www.nature.com/articles/383369a0 

この Nature の記事について私はある雑誌に投稿した。
どの雑誌なのか公開しても私はかまわないが、私の指導教授が学会重鎮から叱責されたので、匿名としたい。

投稿前に事実関係について文部省に問い合わせをしたが、「Nature の取材を受けていない。『学術月報』を読んでご自身で判断してほしい」という主旨の説明だった。

その後、私の投稿が実際に掲載されると知ってからは、「Nature には直接取材を受けると何度も申し入れたのに無視された。当事者ではなく、周辺の取材だけで記事にするのはマスコミのすることではない」などと、Nature の記事がいいかげんな取材に基づくという主張をしてきた。

文部省の官僚は、ジャーナリズムというものをわかっていない。
日本のマスコミと同じようにしろと言いたいのか、政府公式発表をそのまま流すものだと思っているようだ。
そのまま流すのならば、政府広報がやればいい。

今回の日本学術会議の問題で、日本の新聞や雑誌は完全に分裂している。
そのおかげで、どのメディアが政府広報の代理をしているのか、そしてどこがジャーナリズムと言えるのか、わかりやすくなったと思う。

日本のジャーナリズムにも期待しているが、不正を嗅ぎつけるジャーナリズムとして Nature の記事にこれからも注目したい。


日本学術会議の第25期会員が任命されたが、菅義偉政権が6人の任命を拒否したことが問題となっている。東京新聞・望月衣塑子記者のツイートの1つを引用しておこう。#学術会議 会員の任命を拒否された岡田正則教授「イエスマンばかりでは役割を果たせない」#日本学術会議 が新会員として推薦した6人の任命を菅首相が拒否した問題で、拒否された早稲田大大学院の #岡田正則 教授「イエスマンばかりでは学術会議の役割を果たせな...
菅義偉政権は大学に軍事研究をさせたいのか


テーマ : 思うこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

ニトリルの命名法は面倒: アセトニトリルとシアン化メチル

私は化学研究者だったので、化合物の命名法について気にしている。
特許の場合は、慣用名や古い名称なども認められるようだが、どうしても正式な優先IUPAC名(PIN)を使うことにこだわってしまう。

原文の英語がPINではない場合も多く、仕方なく原文ママで和訳することが多い。
ただ、どうしても違和感が残るので、PINの日本語名称を使うように宣伝している。
まあこんなことを言うのも、日本語名称の規則を作っている日本化学会だけなのかもしれない。

今回気になったのは、国立天文台の研究紹介である。
www.nao.ac.jp/news/science/2020/20200925-alma.html

生まれたばかりの恒星の周辺にある分子 CH3CN acetonitrileアセトニトリルではなく、シアン化メチルと書いてあったからだ。

引用している論文で確認すると、methyl cyanide と書いてあったので、そのまま和訳したのだろう。
iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/abadfc

シアン化メチルの方が分子の構造がわかりやすいかもしれない。
また、英語論文を参照しながら読む人にとっては、英語表記に近いシアン化メチルと和訳してあった方が混乱しないのかもしれない。

ただ、化学者としては、使ったことがない「シアン化メチル」よりも、HPLC溶媒などで馴染みのある「アセトニトリル」の方が違和感がない。

しつこいようだが、IUPAC 命名法を確認しておこう。
ニトリルR-C≡Nの命名法は3種類あり、化合物によって使い分けるので面倒かもしれない。


(1) -(C)N に対しては接尾語 ニトリル nitrile、-CN に対しては カルボニトリル carbonitrile を用いて置換命名法で命名する。
CH3CH3 ethane + ≡N nitrile = ethanenitrile

(2) カルボン酸の保存名の語尾 ic acid または oic acid を オニトリル onitrile にかえて命名する。
CH3COOH acetic acid ⇒ CH3CN acetonitrile

(3) 官能種類命名法により、化合物種類名の シアニド(シアン化物)cyanide を用いて命名する。
CH3 methyl + CN cyanide = methyl cyanide


CH3CN は鎖状モノニトリルなので、原則としてPINは (1) の ethanenitrile エタンニトリル となり、またPINではないが、(3) の methyl cyanide シアン化メチル または メチルシアニド も可能なはずだ。

しかし、PINは、 (2) のカルボン酸の保存名
(CH3COOH acetic acid 酢酸)由来の acetonitrile のみである。
このPINを字訳するので、日本語名称は アセトニトリル のみだ。

これまで一番使われていた名称(常用名)が保存名としてPINになることもある。
例えば、HC≡CH のPINは、ethyne エチン になりそうだが、実際のPINは acetylene アセチレン である。

これとは対照的に、HCN のPINは、これまでの hydrogen cyanide シアン化水素 ではなく、formic acid ギ酸 由来の formonitrile ホルモニトリル である。

面倒な規則ではあるが、今はこれが正式な命名法なので、従うしかない。
でも特許は学術論文ではないので、古い命名法で付けた名称がこれからも使われることだろう。

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

安倍政権の失敗の1つは働く女性が増えなかったこと

もうすぐノーベル賞受賞者の発表である。
科学技術創造立国と言い出してから、偶然なのだが、同年に化学と物理で複数の受賞があったり、連続して受賞者が出ることもあった。
受賞対象の研究は、その政策が始まるだいぶ前の業績なのだが、日本はすごいぞという誤解が生じた。
はやぶさの小惑星探査など、世界をリードする成果も見られたが、いつまでたっても「科学技術立国」の目標は達成されていない。

まあそれでも、この政策が始まる少し前から大学院重点化ということで、私も博士1年のときから月16~18万円の奨学金がもらえて、年90万円の科研費も3年間もらえた。

そして科学技術立国の政策の1つとしてポスドク等1万人計画があったから予算が増えて、ドイツに2年も留学できたようなものだ。
留学時は年間約450万円(日当+宿泊費扱い)に加えて、研究費が年60万円もらえた。

帰国後も2年間ポスドクを続けたが、ある私立大学で内部告発をしたことが響いたのか、大学にポストを得ることはできなかった。
民間企業に移っても、結局は研究所の閉鎖で退職することになり、今は翻訳会社で働いている。
化学研究者としてのキャリアが活かせる特許翻訳だし、しかも英語とドイツ語の両方が使えるので、異分野での理系人材の活用ということにはなっているかと思う。

悔し紛れに言うわけではないが、現在の研究環境を考えると、大学に残れなくてもよかったかもしれない。
帰国後に続けるはずだった研究テーマがあるが、それは宝くじでも当たったら、誰かに寄付して論文にしてもらおうと思う。

前置きが長くなったが、安倍政権でも新しい菅政権でも、日本の科学技術政策は目標未達で終わるかもしれない。

Nature 2020年9月10日号では、"Japan after Abe: time for a fresh start" と題する評論が掲載された。
記事のリンクは次の通り。
www.nature.com/articles/d41586-020-02540-w
media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-020-02540-w/d41586-020-02540-w.pdf (PDF版)

これを紹介している日本語記事は少ないが、以下を参照してほしい。

例えば、エナゴ学術英語アカデミーというサイトは次の通り。
www.enago.jp/academy/japanese-science-after-abe/

また、日本経済新聞電子版2020年09月25日の記事中でも一部引用している。
www.nikkei.com/article/DGXMZO64202910U0A920C2TJM000/

ここで注目したいのは、Nature が自然科学分野でのジェンダー不均衡(gender imbalance)について、小見出しを付けてまで指摘しているにもかかわらず、日本経済新聞の記事ではまったく触れていないことだ。

PDF版で見たときに、本文のカラムの間、中央部分に書かれていることに注目してほしい。

"One of Abe's most notable failures has been in his government's inability to fulfil a promise to improve gender diversity in Japan's workplaces."

エナゴ学術英語アカデミーの記事で概要を紹介しているように、自然科学分野の女性研究者の割合は、2019年時点でわずか 16.6% であり、2020年までに 30% にする目標は未達に終わると予想されている。

ドイツも特に大学教授で女性が少ない国に挙げられるが、それでも女性研究者の割合は 28% だ。
日本の女性研究者の割合は、G20 諸国で最低であり、「女性が輝く社会」などと言っていたのに、何も変わっていない。
女性研究者の人数は、確かに年々増加しているものの、目標未達であることには変わりない。

まあこれは、安倍政権が頑張っても無理だったかもしれない。
民間企業の社長や管理職の女性割合でも、大学教授の女性割合でも、菅内閣での女性大臣の割合を見ればわかるように、日本では男性中心に物事を進めること
alpha-male leadershipが当然視されているのだ。

学会が女性研究者を増やすために、「理系女子」などのキーワードを含むイベントを開催しているが、自分の娘が博士号を取ることを望む親はどれくらいいるだろうか。

これまでと同様に、薬剤師だったり、食品・栄養関係だったり、臨床検査技師など、何か資格が取れる分野ならば人気はあるかもしれないが、純粋な基礎科学分野で女性研究者を期待している人は少数派ではないか。

本人に研究者としての能力があるかどうか、性格が研究に向いているかどうかではなく、女性はこうあってほしいという非論理的な固定観念が邪魔している。

現状でも女性研究者が劇的に増える状況ではないので、20年以上前の私の大学での体験も、過去のものではないだろう。

世界的にも有名で、文部科学省の未来開拓事業にも採択された旧帝大の男性教授が、女性蔑視とも言える発言をした。
「卒論の研究室配属希望を受け付けるが、女子学生はいらない。就職の世話が面倒だ。」

グローバル企業と称する有名化学企業の研究所でも、結婚した女性社員が退職することを望む管理職は多かった。
ある飲み会で、「社員一人に〇×万円も経費がかかっているんだ」と、結婚後も勤務を続けている女性社員の前でわざと言う管理職もいた。
産休を複数回取得した女性社員を、「働かずに金をもらっている」などと非難する男性社員もいた。

さらに、「うちはメーカーだが、建設業と同じくらい女性管理職が少ないのだ」と、変な自慢をする管理職もいた。
会社のために長時間残業をしたり、休日も自主的に研究所に来るような、滅私奉公する男性社員が理想なのだろう。
胃潰瘍などで入院した回数を自慢する管理職もいたから、命令に服従する羊のような男性社員のみで研究室を構成したいのかもしれない。

だから理系女子学生の就職は元々困難だったし、修士卒だと年齢のこともあって紹介先が見つからないので、研究の邪魔だと考える男性大学教授がいても不思議ではない。

自然科学分野の研究成果が経済発展に寄与するかどうかが話題となりやすいが、若手研究者の待遇や女性研究者のための環境整備にも注目して、これからの10年を考えてほしい。

もしかすると10年後には、日本からの論文も特許申請も激減して、日本は世界から相手にされない後進国になっているかもしれない。

テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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