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「研究者を使い捨てる国」(世界 2023年9月号)

今日の買い物の一番の目的は、予約してあった岩波書店の雑誌「世界」9月号を受け取ることであった。
発売初日に売り切れることはないはずだが、8月号の件もあり、念のため予約した。

岩波書店のサイトでの紹介は次のリンク2つを参照。
www.iwanami.co.jp/book/b631760.html
websekai.iwanami.co.jp/

一番先に読んだ論文は、特集2 専門職の危機 「研究者を使い捨てる国」(元村有希子)である。

私が大学院生のときに「科学技術創造立国」ということで予算が増え、大学院の重点化なども行われた。
私も博士課程の3年間は毎月約16万円もらえたし、ポスドクとしてドイツ留学もできたので、その恩恵を享受した側だ。

「博士の人数を倍にしてアメリカ並みにすれば日本は良くなる」と言う偉い人もいたが、その後、大量の博士が就職難に遭うことになった。
何度も書いたが、そしてその偉い人は、「私も3年くらいは無職のようなものだった。頑張れ」と言った。

短期契約の非正規雇用の研究者を続けて頑張っても、大学や研究機関では終身雇用のポストが増えなかったので、何も改善されなかった。
私が民間企業に移り、今は翻訳をしているのは別の理由からだが、それでも 35歳前後で諦めて別の道を探したと思う。

世界9月号に掲載された報告では、ここ数年話題となっていた理化学研究所での研究者雇い止めの問題を最初に取り上げている。
研究者の場合、有期雇用の期間が通算10年になれば、無期雇用への転換を申し入れる権利を取得する。
それを使用者は拒めないため、10年になる前に契約を打ち切って、無期雇用転換の義務を免れようとする。

そのような理不尽な扱いを、100年以上の歴史を持つ理化学研究所をはじめとして、大学や研究機関が強行したことに、海外でも話題となった。
以下の Nature の記事は有料なので、支払ってダウンロードするか、図書館で読んでほしい。
www.nature.com/articles/d41586-022-01935-1

日本人研究者が自然科学分野のノーベル賞を受賞すると、1か月ほど科学関連の報道が増加する。
そのとき同時に、日本の科学研究の将来が危ういことも受賞者から毎回指摘されているが、何も変わらない。

研究の予算配分にまで「選択と集中」という小泉・竹中コンビの思想を取り入れたことも、衰退の一因だ。
競争することがすべて悪いことではないが、日本では学会のボスとその弟子たちのみが潤うシステムになっている。

私がある研究予算について批判する投書をしたところ、それを読んだ学会重鎮から私の指導教授に抗議の電話があったそうだ。
「あいつを黙らせろ。せっかく研究費を増やそうという雰囲気になってきたのに水を差すな。予算配分に不公平があるのはわかっている。ただしそれを国民に知られてはならない」と。

そしてその研究予算について、3年後の中間評価のときに、「本来のプロジェクトテーマと無関係の研究にまで予算が配分されている」という指摘を受けたプロジェクトもあった。
予算を握るボスが、かわいい子分たちにばらまいていたわけだ。
しかし、予算を返金したという話は聞かないし、プロジェクトが停止されたとも聞かない。

学会重鎮のコネがある一部の研究者が生き残るシステムでよければ、このまま続けていればよい。
そうして「研究者を使い捨てる国」という評判が国内だけでなく世界にも広まり、最先端の研究ができない国になればよい。

SARS-CoV-2 のワクチンの開発が遅れて、海外製薬メーカーに多額の費用を払って頼る国でもよいと思うのだろうか。
軍事研究を拒否している日本学術会議の責任だと誰かが言っていたが、それは全く間違いだ。
日本の研究力は低下しており、ノーベル賞などのベストケースだけを見ていては気付かない重大な問題があることを認めてほしいものだ。

こうなると、中途半端な科学技術振興策などやめて、優秀な研究者は全員海外に移住することを考えてもよさそうだ。
そして日本は、海外で成果が確実になったものだけをコピーして、国内市場向けに細々と生活していればよいのではないか。

岸田首相は昨年10月の所信表明演説で、「成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現」であることを表明した。以前は「科学技術創造立国」と言っていたと思うが、どう呼ぼうと、今の日本ではとうてい実現できないのでどちらでもよい。これまでも人材育成のために奨学金などの拡大や、大学発ベンチャーの支援、競争的資金の増額など、様々な施策が講じられてきた。ただ、手を変え品を変えても根本的な問題を先送りしているだけなので...
「研究者大量雇い止め」の必然(東洋経済 2022年11月12日号)


テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

最新刊の分子細胞生物学第9版でmutationは「(突然)変異」と「突然変異」が混在

特許翻訳の仕事で必要なので、専門分野の辞書だけではなく、最新の専門書も購入して資料にしている。
ネット上でも学会の用語集や専門誌の公開論文などが簡単に入手できるようになったが、資料として紙の本をじっくり読むことも必要だろう。

最新の研究成果を知るには、紙の専門書では情報が古くなっていると思われるかもしれないが、基礎も含めて体系的に学習・復習するには適している。

それで今日購入したのは、昨日発売の「分子細胞生物学第9版」(東京化学同人)である。
出版社のリンクは次の通り。
www.tkd-pbl.com/book/b10032217.html

監訳者まえがきにあるように、幅広い分野を網羅しながら最新の研究成果も紹介しており、有用な教科書である。

【本書は生化学から,分子生物学,細胞生物学,生理学,さらに,神経科学,免疫学,がんまでも網羅し,改訂ごとに最先端の内容をも紹介するという,この分野で重量級の基準的教科書としての地位を確立しているといえよう.】

例えば、第25章がん では、がん免疫療法の説明もあり、最近のバイオ系の特許翻訳でよく見る CAR T細胞などの基礎を学ぶこともできる。

また、専門用語の訳語についても参考にできる。
例えば、アミノ酸の名称は、38~39ページを見ると、lysineリシンthreonineトレオニンで正式な字訳による日本語名称だ。

それぞれ英語読み由来のリジン、スレオニンと和訳する人もいて、翻訳メモリにも登録されていることがあるのだが、私はこれも根拠にしてリシン、トレオニンを使い続けるつもりだ。

もうひとつ、mutation を確認してみた。
以前は「突然変異」だったが、「突然」という意味はないため、変異またはカッコつきで[突然]変異に変えることを日本遺伝学会などが提唱した。

162ページ右下を見ると、(突然)変異(mutation)とよばれる DNA 配列の変化は」とある。

しかし、195ページ右上を見ると、「したがって、突然変異の染色体上の位置や」とあり、そして次の196ページ左上を見ると、「(突然)変異(mutation)という言葉は」とあり、混在している。

全ページを確認したわけではないが、ざっと見た範囲では「変異」または「(突然)変異」がほとんどだ。
もしかすると、以前の版のときの和訳が残ってしまったのかもしれない。

しばらくしてから、正誤表が出ているかどうか確認してみよう。

このように気になる点はあるものの、わずか 9,570円で広範囲の知識が得られるのだから、買う価値はある。
加えて、かながわPay が始まったタイミングでの発売だったので、20%還元の有隣堂で 1,914ポイントもらえるのでうれしい。

仕事が忙しくなければ、1週間くらい時間をとってじっくり読みたいものだ。

分子細胞生物学

テーマ : 生物学
ジャンル : 学問・文化・芸術

WWFきんちゃく袋を注文した

WWFジャパンの会員になって、もうすぐ 30年になろうとしている。
入会のきっかけは、石垣島のサンゴ礁を守る運動だった。
連続した休暇が取れれば、サンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」を訪問したいものだ。
www.wwf.or.jp/activities/activity/1635.html

そして今日は、会報「地球のこと」2023年夏号が届いた。
同封されていたのは、WWF通販サイトのパンダショップのチラシ。

この夏のおすすめアイテムの中から、下に Twitter 投稿を引用した、きんちゃく袋のセットを選んだ。
オーガニックコットン製で、大・中・小の3枚セット。
税込 3,300円と少々高めだが、収益が保護活動に使われるのだから、喜んで支払おう。

環境保護団体なので、GOTS認証のオーガニックコットンを使っている。
日本オーガニックコットン協会のサイトでの、GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)の説明は次のリンクから。
joca.gr.jp/certification/gots/

最近も話題になったように、栽培段階から原料加工、そして最終製品まで、環境保護だけではなく、労働環境などにも配慮することが求められている。

決済には契約したばかりの ANA カードを使ってみた。
当然ながら何も問題なく決済できた。

届くのは来週になるだろう。
小には小物を入れてバックパックにしまい、中にはスターバックスのタンブラーやステンレスボトルなどを入れてみよう。


テーマ : ネットショッピング
ジャンル : ライフ

ネコにマタタビ(生物の科学 遺伝2023年3月号)⇒追加 科学(岩波書店、2023年5月号)

(最終チェック・修正日 2023年04月28日)

3月発売の雑誌なのだが、1か月以上経過した今日、「生物の科学 遺伝」2023年3月号を購入した。
近くの書店にはないので、京急百貨店の八重洲ブックセンターに寄ったときに、特集を確認してから購入している。

3月号の特集は「ネコのズーロジー(動物学)」
この号のリンクは次の通り。
seibutsu-kagaku-iden2.jimdo.com/backnumber/2023%E5%B9%B43%E6%9C%88%E7%99%BA%E8%A1%8C%E5%8F%B7/

私はどちらかというとネコの方が好きだ。
それで、この特集号を購入したのだ。

ネコの iPS細胞や、屋外にあふれるイエネコの社会問題など、興味ある記事が多い。
その中でも、化学者として特に興味があるのが、ネコにマタタビの総説だ。

この研究の紹介は、例えば、サイエンスポータルを参照してほしい。
scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20210128_g01/

ネコのマタタビ反応には、蚊を寄せ付けないという化学防御の意味があった。
この新知見は驚きであった。

【追記(4月28日):
岩波書店の科学 2023年5月号が届き、特集は「匂いとフェロモンの科学」で、「ネコのマタタビ行動」という記事もある。
www.iwanami.co.jp/book/b625798.html

マタタビに含まれる活性成分であるネペタラクトールの蚊よけ効果については、この「科学」での記事の方が詳しく紹介されている。】

しかも、本能による行動であり、学習したものではないのだ。
どのようにしてマタタビ反応を獲得したのか、そしてなぜネコ科動物に特有なのか、謎はまだまだ続く。


岩手大学農学部などの研究チームが、ネコのマタタビ反応の謎を解明した。岩手大学と京都大学のプレスリリースのリンクは、それぞれ以下の通り。www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2021/01/003871.html(岩手大学)www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-21 (京都大学)ScienceAdvances に掲載された論文のリンクは次の通
英語 fur、ドイツ語 Fell:「毛皮」でなく「被毛」

テーマ : 生物学
ジャンル : 学問・文化・芸術

「研究者大量雇い止め」の必然(東洋経済 2022年11月12日号)

岸田首相は昨年10月の所信表明演説で、「成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現」であることを表明した。
以前は「科学技術創造立国」と言っていたと思うが、どう呼ぼうと、今の日本ではとうてい実現できないのでどちらでもよい。

これまでも人材育成のために奨学金などの拡大や、大学発ベンチャーの支援、競争的資金の増額など、様々な施策が講じられてきた。
ただ、手を変え品を変えても根本的な問題を先送りしているだけなので、何も変わらない。

ノーベル賞受賞者や最先端技術を持つ企業など、ベストケースだけを取り上げて「日本はすごい」と浮かれている国なので、これからも没落に向かって確実に進んでゆくだろう。

最近も新聞などで、ポスドクの苦境や理化学研究所での大量雇い止めについて報じられることが目立っているように思う。
そして今日発売の東洋経済2022年11月12日号には、日本の研究力が危ない! 「研究者大量雇い止め」の必然 が掲載された。

研究者の場合、特例で有期雇用契約は10年間まで可能で、一般労働者の5年よりも2倍も長い。
研究に専念できる期間を長くして、その間に成果をあげてほしいということのようだ。
10年後に無期雇用への転換申込権が生じるのだが、財源が足りないなどの理由で、大量に雇い止めとなるおそれがある。

雇い止めをしないように周知徹底したそうだが、無期雇用するための財源がないのに無理な話だ。
文科省も含めて当事者意識は薄く、研究職を目指した自分がバカだったと後悔するだけなのか。

トラックバックした記事でも取り上げたように、理化学研究所の雇い止め問題が解決できないならば、日本は基礎研究を重視しない国であると宣言しているようにも思える。

大学人事の場合、専門分野が違うのに学科長の弟子が採用されたり、多額の寄付をした企業の社員が採用されるなどの不思議な人事もあり、優秀な人材が応募しても不採用となることがある。

運営費が減少している大学のポストは増えないと思うし、科学技術立国を実現したければ、国立研究所の拡充と、自由な研究環境の保証をする方が早いと思う。

旅行支援などでばらまく予算があるのなら、基礎研究につぎ込めば、人類の未来を救う国になれると思う。
コロナワクチンを開発できない国のままでもよければ、目先の利益のみを求めて、問題先送りをしていればよい。

研究職を辞めて私のように、特許翻訳業界に入ってくる人はいるだろうか。


私が博士後期課程に進んだ頃、「アメリカ並みに博士を増やせば日本はよくなる」と言っていた人がいた。その後、博士取得者やポスドクの就職先が足りないという問題が深刻になった。そうするとその人は、「私も3年くらい無職のようなものだった。がんばれ」と言った。私は博士の3年間に奨学金と研究費をもらい、2年間のドイツ留学では年間約450万円支給されて、それ以前と比べれば優遇されていた。そして帰国後にポスドクを2年...
冷遇されるポスドク(神戸新聞NEXT 2022年04月21日)


テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

「脱炭素」ではなく「炭素循環」

今年も世界中で極端な気象現象が見られ、気候変動・地球温暖化の話題が取り上げられている。
そして特に話題となるのが、二酸化炭素の排出量である。
他にメタンなどにも注目しなければならないが、二酸化炭素が悪者扱いされていることが多い。

それで、二酸化炭素を排出しない「脱炭素」の技術が望まれている。
ただ、あらゆる過程において二酸化炭素の排出がゼロというのはハードルが高い。
ということで、二酸化炭素収支が均衡する「カーボンニュートラル」、または「炭素循環」の方が現実的である。

たまたま日本化学会のサイトで「お知らせ」を見たところ、「脱炭素」ではなく「炭素循環」を使おうと提案していることを知った。

【化学と工業9月号、化学会発欄に「科学(化学)的に正しい「炭素循環」を 我が国が目指す社会の用語として使おうを発表しました。日本化学会は,この科学(化学)的に間違った言葉が使われることに強い懸念をもっており,科学(化学)的に正しい「炭素循環」という用語を使うことを強く求めたいと思います。】


「化学と工業」の記事 PDF のリンクは次の通り。
www.chemistry.or.jp/journal/ci22p667.pdf

確かに「脱炭素」だと、二酸化炭素を排出するものは追放すべきという誤解を生みそうだ。
それで、科学的・化学的に正しい用語として「炭素循環」を普及させたいという主張は理解できる。

私はできるだけ「炭素循環」を使いたいが、メディアで「脱炭素」を毎日目にしているし、日本化学会の主張が一般の人々には届かないのではないかと思う。

国会審議などで岸田首相が「炭素循環」と言うかどうか、機会があればチェックしてみよう。

テーマ : 雑学・情報
ジャンル : 学問・文化・芸術

国立天文台で初めてのクラウドファンディング

不定期にチェックしている国立天文台のツイートを見たところ、水沢観測所がブラックホール研究を支援するクラウドファンディングを始めていた。
readyfor.jp/projects/naoj-mizusawa

私は今年から収入が減っているのできついが、できれば期限までに1万円の寄付をしたいと考えている。
現在作業中のドイツ語和訳のレビュー案件は、6月末に翻訳料金が入金予定なので、1万円ならば対応できるだろう。

寄付方法としては他にも、天文学振興財団を通じた指定寄付も可能だ。
この財団を通じて一度、ハワイすばる望遠鏡を指定して1万円の寄付をしたことがある。
www.fpastron.jp/

どちらも寄附金控除の対象になるが、クラウドファンディングの方が手続きがネット上で完結するので楽だろう。
また、グッズがもらえるなどの特典もあるので、クラウドファンディングを選ぶ方が楽しいと思う。

日本は基礎研究費を少しずつ増やしているのだが、まだ全然足りない。
予算がついても、国立天文台の内部でどこに振り分けるかで揉めてしまう。

観測機器の維持費も高額になるので、若手研究員の人件費にはほとんど回せない。
大学院生の奨学金も全員がもらえるわけではないので、クラウドファンディングを利用するのが賢明だろう。

水沢緯度観測所での木村榮によるZ項発見から今年で120年になる。
www.miz.nao.ac.jp/kimura/c/description/article-02

X線天文学やブラックホールの研究も含めて、日本は世界の天文学をリードする発見を重ねてきた。
この伝統を次世代につなぐためにも、「役に立たない」基礎研究であっても、継続的に資金援助をすべきだ。

未知の領域を探索するという冒険心こそが、人間の本質かもしれない。

お金持ちセレブの生活がテレビ番組などで紹介されることがあるが、こういったお金儲けとは無縁の世界に寄付してほしいものだ。




私が博士後期課程に進んだ頃、「アメリカ並みに博士を増やせば日本はよくなる」と言っていた人がいた。その後、博士取得者やポスドクの就職先が足りないという問題が深刻になった。そうするとその人は、「私も3年くらい無職のようなものだった。がんばれ」と言った。私は博士の3年間に奨学金と研究費をもらい、2年間のドイツ留学では年間約450万円支給されて、それ以前と比べれば優遇されていた。そして帰国後にポスドクを2年...
冷遇されるポスドク(神戸新聞NEXT 2022年04月21日)


テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

冷遇されるポスドク(神戸新聞NEXT 2022年04月21日)

私が博士後期課程に進んだ頃、「アメリカ並みに博士を増やせば日本はよくなる」と言っていた人がいた。
その後、博士取得者やポスドクの就職先が足りないという問題が深刻になった。
そうするとその人は、「私も3年くらい無職のようなものだった。がんばれ」と言った。

私は博士の3年間に奨学金と研究費をもらい、2年間のドイツ留学では年間約450万円支給されて、それ以前と比べれば優遇されていた。

そして帰国後にポスドクを2年続けたが、実験廃棄物不法投棄の内部告発が原因で推薦状をもらえなくなり、民間企業で派遣社員として働くことにした。

医薬メーカー子会社で契約社員となったものの、事業再編で退職することとなり、今は特許翻訳をしている。
研究経験を活かせる職種の1つではあるが、国費でポスドクを4年間続けたのに、最初の目標であった大学や研究所でのポストは得られなかった。

支援策は少しずつ増やしているようだが、ノーベル賞受賞者が警鐘を鳴らしても、日本が科学研究を本気で支援しようとしない国であることは確かなようだ。

新型コロナウイルスワクチン開発の状況でも明らかとなったように、日本は先進国ではなく、周回遅れの後進国である。

そして今日、神戸新聞NEXT に掲載された記事のように、理研のポスドクなど約600人の任期付き研究員が雇い止めの危機にある。
www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202204/0015238222.shtml

【理研は職員の8割が非正規雇用。また研究系職員には10年の雇用上限があり、本年度末には、神戸事業所の職員を含む約600人が雇い止めとなる可能性があるという。】

プロジェクトが終了しても新たなチームを編成して、最先端の研究を継続できるようにしてほしいものだ。
加えて、終身雇用でベテラン研究員を確保して、緊急課題対応の研究チームを即座に発足できるようにしてほしい。

ただ、ノーベル賞受賞者への質問で、「何の役にたつのですか」が毎回出てくる日本なので、淡い期待を持たせないように、基礎研究をしない国だと宣言してはどうだろうか。

年収は期待できなくても、私のように翻訳をしたい研究者がいれば、アドバイスをするつもりだ。
最先端の特許の内容を理解するには、やはり最先端の研究の経験者が向いていると思うから。


本日1月22日の日本経済新聞電子版に、博士課程の学生やポスドクの支援策についての記事が掲載された。www.nikkei.com/article/DGXMZO54653250R20C20A1MM0000/【政府がまとめる若手研究者支援の総合対策案が明らかになった。博士課程の大学院生を対象に、希望すれば奨学金などで生活費相当額を支給して研究に集中できるようにする。企業に協力を求め、理工系の博士号取得者の採用者数を2025年度までに16年度比で1千人増やす。若...
「ポスドク」を採用したい企業は現れるだろうか


テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

60番元素ネオジムと「ネオジウム」

元素名は、以前は発見者が独自の名称を主張していたこともあるが、今では  IUPAC が決めている。
IUPAC が正式に決める名称は、基本的に英語を原語として付けているので、英語名と同一だと思ってもかまわない。

そして、その元素名について、日本国内で使う日本語名称を決めているのは日本化学会命名法専門委員会である。

日本化学会の会員でなくても、なぜ日本化学会が担当するのか疑問を持っていても、正式に決められた日本語名称を使うべきだ。

1つの元素に対して1つの名称・表記が原則である。
過去に漢字表記だったのに、今ではカタカナ表記になった元素名もあるが、それでも最新のルールに従って1つの名称・表記のみを使うべきだ。

最近の特許を検索していて気づいたのは、60番元素ネオジムNeodymiumネオジウムと書いているものがあることだ。

海外メーカーの外国語出願の和訳だけではなく、国内有名メーカーの日本語での特許でも、誤用の「ネオジウム」があった。

日本語名称のネオジムは、ドイツ語の Neodym 由来であり、ナトリウムなどと同様にすでに定着した日本語名称は変更しないことになっている。

特許では学術用語を使うことになっているのだが、誤用の「ネオジウム」であっても専門家が読めば、「ネオジムのことだな」と理解できるのでかまわないようだ。

それでも「ネオジウム」を使わないようにしてもらいたい。

例えば、日本金属学会の会報「まてりあ」第60巻第3号(2021年)の「金属素描 No.15 ネオジム(Neodymium)」には次のように書かれている。

【和名の「ネオジム」は,ドイツ語の “Neodym”に由来する.商業的に「ネオジウム」と誤用されていることが見られるが,注意されたい.】
jim.or.jp/everyone/pdf/15.neodymium.pdf

それでも残念ながら、「金属素描」の記事一覧では、以下のスクリーンショットのように、「No.15 ネオジウム」という誤記になっている。

ネオジム
jim.or.jp/everyone/top_ranking.html

学会の公式サイトですら誤記があるのだから、特許の「ネオジウム」を批判するなと言われそうだ。

衒学的と言われても、自分が翻訳するときには必ず「ネオジム」にするつもりだ。
もし、翻訳メモリに「ネオジウム」と登録されていても、理由を説明して「ネオジム」に修正するつもりだ。

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

土星の衛星タイタンでシクロプロペニリデンを検出

有機化学の研究をしていたからなのか、宇宙空間に存在する有機分子にも興味がある。
地球上にも存在する見慣れた分子もあれば、人工的にはまだ合成できていない分子もある。

私が卒業研究を始めた年に、ハレー彗星のコマでシクロプロペニウムカチオンが検出されたという論文が Nature に載った。
この論文もきっかけとなり、自分の研究以外にも、星間分子も含めて分野を限定せずに、幅広く論文を読む癖がついた。

そして今年10月に、土星の衛星タイタンでシクロプロペニリデンを検出したという論文が出た。
The Astronomical Journal の Abstract のリンクは次の通り。
iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/abb679

この発見を紹介しているNASAのサイトは次のリンクから。
www.nasa.gov/feature/goddard/2020/nasa-scientists-discover-a-weird-molecule-in-titan-s-atmosphere/

シクロプロペニウムカチオンもシクロプロペニリデンも、どちらも炭素数3の最小の環化合物である。
タイタンの大気中にシクロプロペニウムカチオンが存在することはわかっていた。
そして今回は、ALMA電波望遠鏡で観測して、同じ炭素数のシクロプロペニリデンを検出した。

高反応性のシクロプロペニリデンは、星間ガス雲中では見つかっていたものの、タイタンに存在することは予想外だった。
シクロプロペニリデンが存在できるほど希薄で低温ということなのだろう。

ないと思っていたところに実はあるのだ。
研究では先入観をもたないことが大切だと再認識した。

テーマ : 星・宇宙
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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