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機密文書溶解処理の依頼は年1回

今月は野球で大騒ぎをしている日が多いと感じるが、私はニュースや情報番組で試合後の結果を確認しているだけ。
今日もリアルタイムで観戦することはなく、淡々と翻訳の仕事をしていた。

祝日なので、個人で取引している案件を処理した。
前回の投稿に書いた、とんでもないドイツ語和訳のやり直しを昼過ぎまでしていた。
意外と時間は超過せず、当初予算の約 $450 をもらうことになった。

これで昨年12月からの累計は、$1,400 を超えたので、来月末以降に為替レートを見ながら引き出す予定だ。
5月下旬に支払う個人年金保険の年払いに充当するか、定期預金にして、冷蔵庫などの買い替えに備えることにしよう。

買い物にも行かずに自宅でのんびりしていたら、ヤマト運輸のドライバーが訪ねてきた。
ビジネスメンバーズで登録しているので、宅急便料金の改訂についての説明ということだった。

そのついでに、機密文書溶解処理の依頼をした。
ヤマト運輸の機密文書リサイクルサービスのサイトは次のリンクから。
business.kuronekoyamato.co.jp/promotion/kimitsu_telework/

以前はシュレッダー処理していたが、信頼できるサービスならば、そのままリサイクルしてもらう方がよいと思った。
2021年12月に契約して、とりあえず ECOBox M を2個もらった。

1回目は 2022年2月に依頼した。
そして今日が2回目の依頼なので、約1年で ECOBox M が満杯になるということだ。
頻度の縛りはないので、年1回でもかまわないそうだ。

2,076円で心配事がなくなるのだから安いものだ。

ECOBox M には A4 用紙が約 5,000枚入り、重量は約 23 kg にもなった。
ドライバーに聞くと、このくらいの重量でも大丈夫とのことなので、Sサイズに変更しないことにした。

また、教会の役員なので個人情報に関わる資料を扱うことがあり、同様にこのサービスで処理してもらっている。
ホチキスの針が残っていてもかまわないし、紙製のフラットファイルに綴じたままでも出せるので便利だと思う。

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修正が多すぎる和訳なので翻訳者に戻してもらうことにした ⇒ 私が修正することになった

(最終チェック・修正日 2023年03月16日)

英日・独日翻訳者として翻訳会社に登録するとき、チェックもできると伝えることがほとんどだ。
時間的に私が翻訳を担当できない場合、代わりにチェッカーとしての依頼になることも多い。

チェッカーの料金は、ワード単価が翻訳の場合の 10~20% が多い。
たいていは修正量は少ないので、このくらいの料金でも受注してもよいかなと思う。

ただし、毎年1回くらい、機械翻訳未満のレベルの翻訳者に出会うことがある。
修正量が 20% くらいまでは我慢できるが、それを超えると、翻訳としての料金でなければ割に合わなくなる。

10年以上前、ドイツ語特許の和訳をチェックしたとき、半分以上直す見込みとなったので、コーディネーターに相談した。
すると、納期の関係でチェッカーの私が全部直した方が早いのではないか、ということになった。
ただ、予算の上限があり、追加の料金は支払えないと言われた。
このときはまだ副業翻訳だったこともあり、低料金でも我慢して、全部修正してしまった。

ワード単価で契約してしまうと、修正量が多いときに損をしてしまう。
予想外に手間がかかる場合を想定して、時間給で契約している翻訳会社もある。
また、同じ翻訳会社でも案件によって、ワード単価の場合もあれば、時間給のこともある。

今月依頼されたドイツ語和訳のチェック案件は、総ワード数が不明なのだが、想定作業時間が提示されていた。
つまり時間給で計算ということだ。
その時間数をなんとか確保できそうだったし、$ 450 以上もらえる計算なので受注した。

しかし、和訳のファイルは予定した日には届かなかった。
そして数日後にようやく届いた和訳のファイルを開いて驚いた。

医薬分野の文書として、まったくふさわしくない表現であり、しかもクライアント指定の表現を守っていない。
専門用語も間違っているし、そもそも用語を統一しようとしてもいない。
他にも、会社名の最後にある Inc. Inc。と句点にするなど変だ。

想定作業時間内に全部修正できそうだったが、最初から翻訳のやり直しと同じになる。
ということで、低品質なので一度翻訳者に戻すように、コーディネーターに依頼した。
しばらくしてから届いた返事では、これからクライアントと相談するとのことだ。

もし、チェッカーの私が全部やり直しをするということならば、キャンセルしたいものだ。

とんでもない和訳になっているセグメントをいくつか選んで、ドイツ語原文を Google 翻訳と DeepL に入れてみると、機械翻訳の方がまともな出力であった。

ドイツ語翻訳者は足りないので、医薬分野の知識がないのに依頼してしまうのかもしれない。
これなら機械翻訳にかけてポストエディットをした方がまともになるかもしれない。

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ひらがなが混じった「レべル」に遭遇した

私が担当する英日または独日の翻訳レビュー作業では、たいていは CAT ツールを使う。
それ以外にも、エクスポートしたワードファイルや PDF を使って、修正提案をコメント機能で記載したり、直接変更履歴を付けることもある。

チェック項目には、形が似ている文字の確認もある。
例えば、カタカナのと漢数字のなど。

漢数字を使う化合物名の酸化炭素」が、カタカナを使って酸化炭素」という誤記になっていても、大部分の人は「にさんかたんそ」と読むだろう。

それでも、うっかり見逃さないように、念のために検索してみたり、ワードならばエディター機能を使うこともある。
ワードで作業をしていると、自動でエラーを検出してくれるので楽になった。
そのおかげで、今年作業したレビュー案件でも誤記を見逃さなかった。

それは生まれて初めて出会った、ひらがなが混じっただ。
混じっているひらがなとは、当然ながら真ん中のである。

下に示すように、ワードでは、左側の全部カタカナのレべルとは異なり、右側のひらがなが混じったでは、ひらがなのの下に赤色の波線が表示されるので、これでエラーに気付く。

レベル

フォントの形状は、山の角度が少々異なるようだが、人間の目では区別が困難だ。
どちらで書いてあっても誤読しないのでかまわないが、誤字なのだから、正しい表記にすべきである。

それで不思議に思ったのは、どのように入力すれば「べ」だけひらがなに変換されるのか、ということだ。

かな入力の「れべる」でもローマ字入力の「reberu」でも、スペースキーを押して変換すると、第1候補に全部カタカナの「レべル」が表示される。
これを選択するので、ひらがなが混じることはないだろう。

もしかすると、レぼると誤入力した後に、を一文字ずつ打ち直したときに、をひらがなのにしてしまったのかもしれない。

誤記は1か所のみで、他は全部カタカナの「レべル」だったので、このタイプミスの修正ミスという推測が一番起こりうると思われる。

翻訳者は納品前に推敲しているはずだが、ワードが検出したエラーの表示を見落としたのだろう。
こういった細かいこともしっかり対応できる人が生き残るのかもしれない。

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ラセミ体の「分解」とは?

日本の翻訳者の統計が見つからないので推測だが、理系研究者の経歴を有する翻訳者の割合は少ないように思う。
それは、特許の和訳での化学専門用語の誤訳事例からも感じている。
これに関して、先日行われた大学研究室のオンライン同窓会でも話題にした。

大学で化学を専攻していなくても専門書で独学すれば誤訳しないはずだ、と言われればそうだが、翻訳者だけではなく、チェッカーや担当の弁理士も含めて、誰も気付かなかったのは残念だ。

今回の例は、下に示したように、ラセミ体の分割ラセミ体の分解とした和訳だ。

その箇所は、英語では、resolution of the racemate

私も含めて化学者が読めば、ラセミ体から光学活性体を得るために分ける resolution なので、「分割」がすぐに浮かぶ。

しかし、この「分割」を挙げている辞書が少ないためか、「分解」としている和訳に出会うこともある。
「分解」と書いてあると、degredation や decomposition なので、分子構造が変化して、別の物質になったことになる。

例えば、化学・英和用語集第3版(化学同人)では、resolution と動詞の resolve は次のように記載されている。
resolution 分割<ラセミ体>分解,分解能;分離度
resolve  分ける;分割する分解する

また、mesotomism も 分割、光学分割 の意味だが、私は使ったことがない。

英辞郎を参考にする人も多いようだが、化学用語としての項目に「分割」はない。
《化学》〔化合物の〕分解、溶解 

もし、英辞郎の記載を根拠にしたのであれば、調査が足りない、専門用語を知らないと言われても仕方ない。

また、このような特許が対訳データとして登録されてしまうと、機械翻訳では自動的に「分解」という和訳も候補として表示することだろう。

JAICI Science Dictionary Pro でも、「分割」は載っていなかった。
来年の利用料を振り込む連絡のときに、ついでに登録を依頼しておこう。

ただ、resolution ability 分割能 optical resolution 光学分割、光学的分割 racemic resolution ラセミ体分割 があるので、「分割」にたどり着くことはできるかもしれない。

「分割」にたどり着かなくても、せめて「分離」にしていれば誤訳ではない。

様々な専門書で独学できるとは言え、その分野の専門家が翻訳した方がリスクが少なくなるはずだ。
私がドイツ語を知っていても、ゲーテやカントの翻訳はできない。
理系研究者の進路の1つとして、特許翻訳も考えてほしいものだ。


ラセミ体の分解

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窒素酸化物とも言うけれど

化学の専門教育を受けていない人にとって、化合物の日本語名称は苦手のようだ。

化学分野で学位を持っていなくても、独学すればよいのだが、それでも日本語名称のつくり方のルールは例外もあって面倒だ。
化学で博士号を持つ私でも、念のため命名法の専門書で確認している。
その専門書も、正誤表が100ページを超えており、確認には手間がかかる。

今回紹介する化合物名は単純なものなので、専門書で確認することもないだろう。
ただし、他の用語と混同しているためか、間違った例である。

ドイツ語原文では、Stickstoffdioxid で、英語は nitrogen dioxide、日本語は 二酸化窒素 である。
化学式ならば NO2 で、窒素原子が1個、酸素原子が2個である。

しかし、そのとき見た和訳では、二窒素酸化物となっていた。

これだと、窒素原子が2個の酸化物になるので、例えば、酸化二窒素 であれば、化学式は N2O になり、別の化合物だ。
他の窒素原子が2個の酸化物として、酸化剤などとして有用な 四酸化二窒素 N2O4 もあるが、これも別の化合物になる。

「二窒素酸化物」については、例えば、次のリンク先の資料(ニトロ化)を参照してほしい。
www.tcichemicals.com/assets/cms-pdfs/106dr.pdf

化学の知識に自信がなければ、Stickstoffdioxid をネット検索すれば、正しい 二酸化窒素 にたどり着くはすだ。
しかし、単純すぎるので調べなかったのだろう。

また、Stickstoffoxid 窒素酸化物 という用語もあるので、これにつられて、di- に相当する漢数字の「二」を頭に付けて、二窒素酸化物 にしたのかもしれない。


ついでに近年話題の Google翻訳と DeepL に Stickstoffdioxid を入力したところ、どちらも 二酸化窒素 と、正しい日本語名称が出力された。

以前から指摘されていることだが、機械翻訳よりも低品質の翻訳をする人がいるのは事実だ。

加えて、今回の誤訳例は、別の知識が邪魔をして誤訳を誘発したとも言えるだろう。

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

エクスポートしたワードファイルで確認してほしいとあるのに

海外メーカーのニュースレターのドイツ語和訳チェックを受注している。
月に1回から2回、A4版1ページの短い案件だ。

この翻訳案件では、記事ごとに文字数の上限が決まっている。
というのは、ドイツ語原文のワード数でテキストが入るスペースの大きさが決まっており、これを変更できないので、機械的に上限が決まってしまう。

ということで、CATツールで和訳を入力した後、納品前にワードファイルをエクスポートして、はみ出ていないかどうか確認するようにと、指示書には明記されている。

しかし、翻訳者の和訳を受け取った時点で、すでに和訳はそのスペースをはみ出している。
もしかすると、翻訳者は、訳抜けとは思われないように全部和訳しており、文字数の上限を確認していないようだ。

翻訳者に戻すと納期に間に合わないので、コーディネーターに翻訳者の評価として伝えるだけにしている。

とりあえず文字数を気にせずに修正作業をしてから、ワードファイルをエクスポートして、次いで、和訳がはみ出ないように削る作業をしている。

最後に再びワードファイルをエクスポートして、1文字もはみ出ていないことを確認してから納品している。

しかし、クライアントからは毎回、文字数が多すぎるので減らしてほしいという連絡が来る。
添付の PDF を見ると、最後の一行が切れている記事が、毎回最低2つはある。 

納品前の確認時には問題がないのに、クライアント側でエクスポートするとはみ出るのはなぜだろう。
ワードのバージョンが違うためなのだろうか。

指示通りに文字数を削ってスペースに収めたのに、毎回追加作業が発生するのは面倒だ。
フォントサイズや行間を変えればよさそうだが、それは許可されていないため、文字数を減らすしかない。

そのため、オリジナルのドイツ語記事に載っている情報が、和訳には反映できていないこともある。
こんなこともあるので、外国語を勉強してオリジナルの情報源を確認できるようにすることは大切だと思う。

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「yellowのセルのみ処理」とあったが

ある岩波新書で、母語によって「茶色」が全く違う色になるという話を読んだ記憶がある。

「茶色の車で迎えに行く」とアメリカ人の友人から連絡が来たので待っていたが、日本人の著者は、「オレンジ色の車が停まっているが、茶色ではないな」と思い、声をかけなかったという。

「黄色」でも似たような誤解が生じると書いてあったかもしれない。
うろ覚えなので、積んである段ボール箱のどれかに入っているはずだから、後で探してもう一度確認してみよう。

たしか、日本語話者が「黄色」と聞くと、レモンの皮のように明るい色を思い浮かべることが多いとのこと。
しかし、英語話者の場合、事務用封筒のような明るい茶色を指すこともあるそうだ。

日常生活では色見本を使うこともないし、L*a*b* 表色系を使うこともないので、互いに頭の中では違う色を思い浮かべている可能性は高い。

海外翻訳会社からのドイツ語和訳の仕事で、その yellow の解釈で問題が生じた。

既存の取扱説明書を改訂したので、既存訳に加えて、新規の翻訳もしてほしいとのことだ。
エクセルシートに直接和訳を入力する形式で、和訳を入力すべきセルは yellow で明示しているという。

実際の色は、下の図を参照してほしい(一部改変してある)。

yellow ということなので、日本人が思い浮かべる「黄色」のセル、つまり既存訳が入っているセルのみ新規の和訳に入れ替えた。

これで納品したところ、「明るい茶色」のセルも翻訳対象との連絡が来た。
ここで冒頭に紹介した岩波新書の話を思い出した。

クライアントからすれば、どちらも黄色ということのようだ。
それでも、2色で塗り分けているのは誤解の元だ。

まあ、問い合わせをすればよかったかもしれないが、yellow のセルという指示ではなく、ハイライトしたセルなど、誤解を避ける表現をしてほしかった。


翻訳黄色とは

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

聖書の翻訳でも正誤表がある

ひまわりPay と、かながわPay を使うために、今日も京急百貨店で買い物をした。
京急百貨店には八重洲ブックセンターもあるので、新しい刷りの聖書があれば買う予定にしていた。

というのも、2018年12月に新しい翻訳の聖書協会共同訳を購入したのだが、誤記や抜けが多数見つかったので、修正が施された新しい刷りを入手したかったから。

日本聖書協会のサイトには、次のリンク先のように正誤表が掲載されている。
www.bible.or.jp/read/si_word_correction.html

ルビや漢字の間違いが大半だが、出エジプト記の本文での間違いと抜けは重大だと思う。

この正誤表をスマートフォンで表示して、店頭にあったスタンダード版の内容を比較して確認した。
すると、2019年の訂正分は反映されていたが、2020年以降の分はまだだった。

2020年以降の訂正については軽微なので、手書きで記入してもよさそうだが、新しい刷りがあるなら入手したい。
これより新しい刷りが存在するのかどうか、書店ではわからず、日本聖書協会に問い合わせする必要があるそうだ。
かながわPay のポイント残高があるうちに購入したいものだ。

聖書学者などの専門家が多数集まって翻訳に取り組んでも、人間が行うことなので間違いはある。
ルターもメランヒトンなどと11人のチームで翻訳していたが、誤訳がいくつもあり、2015年の改訂版で初めて修正された箇所もあるくらいだ。


それでは、本日の買い物をメモしておこう。
まずはローソンで新聞 310円を Edyで支払い、Pontaポイントと楽天ポイントを1ポイントずつ。

京急百貨店の八重洲ブックセンターでは、以下の新書と雑誌 2,794円を、かながわPay のポイント支払い。
京急のポイントは 12ポイントだが、Pontaポイントは 25ポイント付いた。
・角川新書「揺れる大地を賢く生きる」
・生物の科学 遺伝2022 No.6。特集「藻類バイオ:微細藻類の魅力と実力」に注目

地下に移動して、RF1 で 1,500円、アンデルセンで 702円、ユーハイムで 1,231円を、ひまわりPay で支払い。
3日の支払いと合計すると、これでプレミアム分の 6,000円を使い切った。
まだ残高は 9,788円あり、京急百貨店であと4回買い物をすれば使い切るだろう。

最後にフジスーパーで食品を購入して 2,181円を、かながわPay のポイント支払い。


(最終チェック・修正日 2018年11月21日)ヨーロッパでキリスト教の勢力は減少しているが、それでも聖書の知識が、翻訳には必要になることがある。有名な聖句が、慣用句として使われることもあるからだ。聖書は様々な言語に翻訳されていて、日本語聖書として、私の教会では新共同訳を使用している。聖書の研究と共に、古代のヘブル語やギリシャ語の研究も進んでおり、最新の成果を盛り込んだ新しい翻訳も求められている。ドイツで...
「聖書」の新訳である「聖書協会共同訳」が12月に刊行される

 

テーマ : 聖書・キリスト教
ジャンル : 学問・文化・芸術

「解糖」ではない glycolysis(グリコリシス)

最近は SDGs の活動を取り上げるテレビ番組も増えてきた。
そのなかにはペットボトルのリサイクルもあった。

ポリマーの PET(ポリエチレンテレフタレート)のリサイクル法として、例えば、エチレングリコール中で解重合を行う glycolysis(グリコリシス)法がある。

glycolysis の意味は、その反応からもわかるように、glycol(グリコール)+ -lysis(分解)

他の方法も含めて、次の文献を参照してほしい(オレオサイエンス, 2022, Vol. 22 (No. 10), p. 495)。
www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/22/10/22_495/_pdf

同様の用語としては、hydrolysis 加水分解methanolysis メタノリシス、 solvolysis ソルボリシス、加溶媒分解 などがある。

それで、気をつけたいのは、ほとんどの英和辞典では、glycolysis の訳語として「解糖」のみということだ。

解糖とは、生体におけるグルコースの代謝反応である。
いつも使っている英和辞典に載っているからといって、PET のリサイクル法の文章で「解糖」を使うと誤訳になる。

グリコリシスという専門用語を知らなくても、解糖の意味を知っていれば、エチレングリコール中で分解しているのに変だなと気づくはずだ。
そしてプラスチックリサイクルなどの文献を調査すれば、グリコリシスという正しい和訳にたどり着くだろう。

今回、「解糖」と和訳した特許が登録されているかどうかを調べてみると、複数見つかった。
そのうちの1つをメモしておこう。

元の英語特許は、WO 00/47659 A GLYCOLYSIS PROCESS FOR RECYCLING OF POST-CONSUMER PET。
和訳は JP4531988 B2(特許第4531988号)使用後のPETリサイクルのための解糖

発明の名称の時点で、グリコリシスではなく、解糖になっている。

両方の明細書冒頭部分を PDF から切り取って下に示した。

glycolysis.jpg

原文の glycolysis を併記しているので、「解糖」では変だなと感じていたのかもしれない。
別の特許では、このような原文併記をせずに、「解糖」と和訳していることがほとんどであった。

特許翻訳専門の人でも間違うので、どこかでそのミスに気付いて修正できる業務フローが必要だ。

ところで、近年話題の Google と DeepL ではどうなるだろうか。

Google:
本発明は、使用済みポリエステルをリサイクルするための新規な方法に関する。 特に、本発明の方法は、解糖による使用済みポリエステルの解重合を含む。

DeepL:
本発明は、消費者使用後のポリエステルをリサイクルするための新規なプロセスに関するものである。特に、本発明のプロセスは、解糖の方法によってポストコンシューマーポリエステルの解重合を含む。

どちらも「解糖」と和訳している。
ただし、DeepL では、「解糖」の箇所でクリックすると、「グリコリシス」などの他の候補が表示される。

そして面白いことに、DeepL に発明の名称部分「A GLYCOLYSIS PROCESS FOR RECYCLING OF POST-CONSUMER PET」を入れると、「ポストコンシューマーペットのリサイクルのためのグリコリシスプロセス」となった。

それに対して Google では「解糖」のままだった。

数としてはわずかだが、人手翻訳でも機械翻訳でも、同様の誤訳が生じた例をメモした。
どちらを選んだとしても、最終的には、その分野の専門知識を持つ人間がチェックする工程を省略することはできない。
理系人材がもっと特許翻訳業界に入ってほしいと思う。


特許では学術用語を使用することになっている。そのため、元素名や化合物名では原則としてIUPAC名を使う。そして日本語名称の付け方のルールは、日本化学会命名法専門委員会が作成した日本語名称のつくり方を用いる。それでも、専門家が読んで理解できればよいという理由で、慣用名や製品名などが使われることもある。さらには、「酢酸エチル」の略称である「酢エチ」が使われている特許もあるくらいだ。外国語特許を和訳する場合...
ケイ素・シリコン・シリシウム


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capsid カプシド、キャプシド、キャプシッド

私が特許翻訳をするとき、ウイルスの殻タンパク質である capsid(英語)、Kapsid(ドイツ語)は、カプシドと和訳してきた。

「カプシド」にした根拠は、日本医学会医学用語辞典にしてあった。

しかし、トラックバックした過去記事に書いたように、学術用語集や専門辞書などを調べると、カプシドの他に、キャプシドキャプシッド、そして漢字表記の頭殻も登録されている。

特許情報プラットフォームで本日夜に検索すると、それぞれ以下の件数であった(頭殻以外は表示された件数そのまま)。
 カプシド  1257件
 キャプシド  877件
 キャプシッド 23件
 頭殻      4件(バイオ系特許のみ拾った数)

カタカナ表記の3種類は、外国特許の和訳だけではなく、日本企業が出願した日本語での特許でも見られる。
研究分野によって異なるためか、過去記事に書いたように、出版社によって表記が異なることになってしまう。

このような現状ではあるが、これからも「カプシド」を選択しようと思っていた。
すると、昨日購入した最新版の「メディカル翻訳・通訳完全ガイドブック」では、「カプシド」になっていたので少々安心した。

76ページの「COVID-19関連の翻訳に役立つ専門用語」を参照してほしい。
最初のリスト「ウイルス関連用語」の7番目に capsid カプシド が記載されている。

翻訳者全員が読んでいるとは思わないが、これでカプシド派が増えるかもしれない。


(最終チェック・修正日 2022年10月15日)去年のバイオ系特許の翻訳で、ウイルスの殻タンパク質のことを 「カプシド」 とした。ドイツ語は Kapsid、英語は capsid で、日本語では字訳して 「カプシド」 となるわけだ。ところが先週、化学系の雑誌で、「キャプシド」 となっているのを見た。編集部に問い合わせをすると、次のような回答があった。[お問い合わせいただきましたcapsidの訳語ですが,文部省学術用語集「植物学...
カプシドとキャプシド 学術用語(訳語)の不統一?


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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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