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化学用語 orthogonal protection オルソゴナル保護/直交保護

最新の研究成果は、ほとんど英語で発表されている。
新しい概念についても英語で命名されるので、日本語で解説記事を書こうとするときに、学会指定の訳語がないため苦労することもある。

その例の1つとして、orthogonal protection を取り上げよう。

これは 1977 年に Merrifield らがアミノ基の新規保護基を報告したときに使った用語だ。
複数の保護基のうち特定の保護基について、化学選択的な脱保護条件を説明するために orthogonal を使った。

orthogonal を英和辞典で調べると、数学用語で直交のと書いてある。
ただし、保護基の脱保護条件の場合は、互いに独立のと解釈した方がよい。

つまり、保護基Aの脱保護条件aと、保護基Bの脱保護条件bとは、反応機構が異なるため、保護基Aは脱保護条件bで影響を受けず、かつ、保護基Bは脱保護条件aで影響を受けない。

英語論文(J. Am. Chem. Soc., 1977, 99, 7363)を読めば orthogonal protection の意味は理解できる。
ただ、日本語でどのように書くのか、当初は苦労したようだ。

有機合成化学協会誌、1978年、740ページの総説「ペプチド合成における保護基最近の進歩」(塩入孝之)を例示しよう。
www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/36/9/36_9_740/_pdf/-char/ja

【そこでMerrifieldら6) は "Orthogonal Protection" (直交保護とでも訳すべきか)ということを提唱している。】

その後、この直訳の「直交保護」が使われてきたようだが、最近はカタカナ表記の「オルソゴナル保護/オルトゴナル保護」が主流になっているようだ。
www.jstage.jst.go.jp/article/bag/3/1/3_KJ00008767707/_pdf
www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi/74/9/74_915/_pdf/-char/ja

その分野の専門家ならば、漢字の「直交」でもカタカナの「オルソゴナル」でも、選択的反応のコンセプトであることを前提に使っているので誤解はしないだろう。

ただ、有機合成に慣れてない人は、「直交」から別の印象を持ってしまうかもしれない。
カタカナの「オルソゴナル」の方が元の英語の意味にたどり着きやすいので、無難な表記かもしれない。

漢字を使って意味を表現する工夫も大切だが、カタカナ表記の便利さも捨てがたい。
これからも同様の例を探してみよう。

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

多言語同時学習のすすめ

今日のテレビニュースで一番気になったのは、バイリンガルよりもトリリンガルの方が新しい言語を早く習得するというものだ。
朝日新聞4月3日の記事で、ハフポストでも同じ記事が読める。

朝日新聞のオンライン版では会員専用記事なので、無料でアクセスできるハフポストの記事の方を、次のリンクから参照してほい。
www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6067ddbfc5b6832c79374a3b

ハフポストの記事中には、朝日新聞の記事にはない論文のリンクもある。
その論文のリンクは次の通り。
www.nature.com/articles/s41598-021-86710-4.pdf

それで、記事中で一番注目したのは、東京大学・酒井邦嘉教授の次の発言だ。

【酒井さんは「多言語話者のほうが脳をダイナミックに使える。英語に触れる時、さらに別の言語と同時に学ぶのが自然で有効な方法だ」と話した。】

これは、私が以前から主張している多言語同時学習のすすめの考え方を補強するかもしれない。

学校でも社会人となっても、最重要外国語として英語が例示されるが、同時に他の言語も勉強した方が語学センスが磨かれて、最終的には多言語を理解する有益な人材となると私は信じている。

私は受験英語の勉強に疲れたこともあり、趣味で高校2年から中国語を習い、3年生になってからドイツ語を始めた。

海外短波放送を聴くことも趣味だったので、中国・中央人民広播電台の海外向けラジオ放送の開始アナウンスを聴いて、全部漢字にするという独自の練習もしていた。

すると不思議なことに、英語と漢文の成績も向上し、共通一次試験では数学よりも英語と国語の点数の方が高かった。
「理系なのに語学系が得意なのはおかしい」とまで言われたが、旧帝大二次試験では、数学に頼らずに理科(化学・物理)と英語で点数を稼いで合格できた。

ドイツに留学できたのも、今は翻訳者として仕事をしていることも、高校以来の多言語同時学習が関連していると思う。

英語だけを極めたいという人に無理強いはしないが、他の言語の知識があった方が楽しいということを、時間のあるときに思い出してほしいものだ。



石井啓一郎著、扶桑社新書の 「マルチリンガルの外国語学習法」  を読んだ。 副題は、「ある翻訳家の『語学』心覚え」。 www.fusosha.co.jp/book/2010/06165.php 【「十数カ国語を操る日本人」は、いかに「語学」してきたのか? 英語、フランス語、イタリア語、ペルシア語、トルコ語…。多くの外国語に携わってきた経験から見えた「日本人が外国語を学ぶ」こととは? 「言語横断」な語学論!】 はじめに ~ つねに未熟な外国...
「マルチリンガルの外国語学習法」(石井啓一郎著、扶桑社新書)


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英語 fur、ドイツ語 Fell:「毛皮」でなく「被毛」

岩手大学農学部などの研究チームが、ネコのマタタビ反応の謎を解明した。
岩手大学と京都大学のプレスリリースのリンクは、それぞれ以下の通り。
www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2021/01/003871.html(岩手大学)
www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-21 (京都大学)

ScienceAdvances に掲載された論文のリンクは次の通りで、無料で読める。
advances.sciencemag.org/content/7/4/eabd9135

また、ドイツの新聞 Süddeutsche Zeitung の記事のリンクは次の通り。
www.sueddeutsche.de/wissen/katzen-minze-muecken-1.5181764

ここでは、マタタビの話ではなく、マタタビの成分(ネペタラクトール)をこすりつける体の部分の言葉を取り上げたい。

この化学物質はネコの顔や頭の体毛に付着するわけだが、英語論文では fur、ドイツ語記事では Fell を使っている。

毛皮と和訳してしまうと、どうしてもはいだ毛皮毛皮製品をイメージしてしまう人もいるだろうから、別の訳語を探してみた。


リーダーズ英和辞典では毛衣が最初に載っている。
独和辞典だと、動物の毛獣皮毛皮ばかりで、他にふさわしい訳語は見つからなかった。

これは独断だが、英和辞典にも独和辞典にもなかった、岩手大学のプレスリリースでの被毛がふさわしいと思う。
辞書に載っているかどうかよりも、研究者が実際に使っている用語を採用する方がよいと思う。

マタタビの話ではないが、医薬メーカー子会社で社内報の編集を手伝っていたとき、「広辞苑に載っていない言葉を使っている」という指摘を受けたことがある。
そのときは私が調査して、「厚生労働省の文書に出てくる用語です。リンクは次の通り」と、実験の合間に説明をすることになった。

今回の「被毛」も、似たような指摘を受けるかもしれないが、常に根拠を示すことができるように、ブログ記事にすることも含めて、資料を残しておこうと思う。

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クランツとリース

会話をしたり文章を書くときに、自分が把握している言葉の定義を、相手も知っていると思い込んでいることが多い。

それで話を続けているうちに、どこかで違和感が生じ始めることになり、そこでようやく「〇〇という意味ですよね」などと確認することになる。

最近は、教会でクリスマスの準備をしているときに経験した。
私はクランツもリースも同じもので、ドイツ語由来と英語由来で違う呼び名になっているという認識だった。

しかし、飾り付けの準備を担当するベテラン会員の話では、以下の写真と一緒に示すように、吊り下げるものをリースと呼び、4本のろうそくを立ててテーブルや台の上に置くものをクランツと呼んで区別しているそうだ。


リース      アドベントクランツア
 クランツ/リース = リース     アドベントクランツ/アドベントリース = クランツ

アドベントクランツの略称としてクランツと呼んでもかまわないと思うが、クランツとリースが元々同じものなので、責任者である伝道委員長の私は困ってしまった。

この教会ではそういう区別をするのがしきたりなのだと、辞書的な定義を持ち出さずに、教会にいるときには頭の中で変換して使うことにした。

それでも委員会で配布する文書では、今年は「アドベントクランツ(クランツ)」と書いてみて、後で意見を聞いてみようと思っている。

話題にしたついでに、Adventskranz(アドベントクランツ)について、独和辞典がどのように説明しているのか引用しておこう。
特に、2) の三修社アクセス独和辞典では、「待降節のリース」という説明なので、クランツとリースは同じものという認識だ。

1) 小学館独和大辞典第2版8刷
  待降節の飾り環(モミやドイツトウヒの枝を環状に編んだもの.これに4本のろうそくを立てて,Adventssonntagごとにその一つに火をともしてクリスマスを待つ).

2) 三修社アクセス独和辞典3版9刷
  (モミの小枝で作った)待降節のリース

3) 三修社新現代独和辞典新装版第1刷
  アドヴェントクランツ(待降節に飾るモミの小枝を編んだ環.それにろうそくを四本立てる).

4) 大修館書店マイスター独和辞典3版
  待降節のモミの円形飾り.

5) 郁文堂独和辞典第2版第13刷
  アドヴェントクランツ(樅の小枝で編んだ環で待降節の日曜日ごとに1本ずつ蝋燭の数をふやしてともす).

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ヴィエンナにはやはり違和感がある

今週はノーベルウィークで、ノーベル賞受賞者の受賞記念講演がオンラインで配信されている。
特に興味がある化学賞の CRISPR-Cas9 について、特許紛争の話を探していたところ、ある学会誌の記事を見つけた。

読み始めたものの、特許紛争の話よりも、受賞者の所属大学の名前に違和感があった。

その記事中ではヴィエンナ大学」と紹介されていた。
これは英語名の 
University of Vienna に由来するが、一般的にはウィーン大学」と書くのではないだろうか。

まあ、標準ドイツ語表記の Wien は、濁音のヴィーン([viːn])
だから、ウィーンと書くのも現地音を反映していないことになるが。

外国の地名を日本語表記するとき、できるだけ現地の発音に近づけるという原則がある。
ただし、ウィーンのように、昔から使っていて今更変えられないものもある。

それでも英語由来のヴィエンナを使うよりはよいかもしれない。
国名や首都名で迷ったときには、外務省ウェブサイトで確認することにしよう。

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古英語でドイツ語の仲間だと実感した

私のドイツ語能力は、まだ上級とは言えないが、ドイツ語圏に旅行に行きたい人や、神学生など参考資料を読むために必要な人から、ドイツ語を教えてほしいと頼まれることがある。

英語が得意な人ならば同じゲルマン語派のドイツ語もすぐに覚えられるだろうと、たいていの人は思っているかもしれない。

大学院生のとき、化学者はドイツ語論文も読めた方がよいと主張して、ドイツ語を習得する必要性を説いていたが、英語だけでも大変だという意見の他に、ドイツ語は英語に似ているから辞書を調べるだけで読めると言う人までいた。

運よくドイツ語を勉強したいという人に出会っても、ドイツ語には、現代英語ではなくなった名詞の性別と格変化が残っていて、冠詞と形容詞まで語尾変化するので、どうしても覚えられないと文句を言われてしまう。

もしかすると、日本人で英語が得意な人は、脳に英語の回路ができあがっていて、ドイツ語の回路を追加して作るのが困難なのだろうか。

私の場合、高校2年生のときに中国語を始め、高校3年生のときにドイツ語を始めたため、英語の回路が中程度の段階で互いに邪魔せずに、うまく切り替えて共存する回路ができたのかもしれない。

それで、ドイツ語文法が面倒だと文句を言われたときには、「英語の方が変わりすぎたのです」と言うようにしている。
また、面倒な語尾変化のおかげで、主語なのか直接目的語なのか、関係代名詞の先行詞はどれかなどの判別が楽だと説明している。

ただし私は語学の専門家ではないので、もう少し説得力のある説明をしたいと思っていた。

すると、今月発売の英語教育
2020年11月号の第2特集(トリビアで英語を楽しむ 語源・慣用表現・英語の歴史)に、最適な記事が掲載されていた。
www.taishukan.co.jp/book/b534365.html

「英語には思春期があった?! 言語は変わる,文法も変わる(藤井 香子・大阪大学外国語学部)だ。

英語が屈折言語であると説明するために、古英語の名詞の例を示している。
男性・女性・中性の3つの文法上の性を持っていたこと、そして格語尾変化があること、これはドイツ語と同じだ。
そして、格語尾変化のおかげで、文中の語順も比較的自由だったのも、ドイツ語と同じだ。

例示された古英語の名詞は、stān
(現代英語 stone、現代ドイツ語 Stein、現代アイスランド語 steinn
古英語のつづりで ā は長母音を表す。

記事では古英語と現代英語との比較のみだが、ここでは語尾変化が残っているゲルマン語派の例として、現代ドイツ語と現代アイスランド語と比較したい。

stān
Stein そして steinn は、これは偶然だろうが、どれも男性強変化名詞。
母音の文字だけ違うので、最初の子音 st の発音が異なっても仲間だと実感できる。

では、格変化を並べて、語尾に注目して比べてみよう(ここでは現代英語は省略)。

     古英語       現代ドイツ語    現代アイスランド語
     stān        Stein              steinn
   単数    複数   単数    複数    単数   複数
主格 stān      stānas     Stein     Steine      steinn    steinar
属格 stānes   stāna      Steins    Steine      steins    steina
              Steines
与格 stāne    stānum    Stein     Steinen    steini     steinum
                                          Steine
対格 stān      stānas     Stein     Steine       stein     steina

ここで現代アイスランド語を並べたのは、現代ドイツ語と比較して、語尾変化が古英語により似ているから。
特に注目したいのは属格と与格だ。

ドイツ語の単数属格語尾は、-es-s の両方が使われている。
どちらかと言えば -es を使うことが多いが、両方あるので、古英語とアイスランド語の仲間だとわかる。

ドイツ語の単数与格語尾は、今ではなくなって Stein を使うことが多いが、慣用句など古い表現では -e が付くので古英語と同じだ。
そして複数与格語尾では、古英語とアイスランド語が同じだ。

アイスランド語の学習はほとんど進んでいないが、ゲルマン語派の比較をするときに理解できるので、ノルウェー語と共にこれからも趣味で続けていこう。

記事では、動詞 singan(現代英語 sing、現代ドイツ語 singen、現代アイスランド語 syngja)の説明もある。
過去、過去分詞、そして接続法の語尾変化が示されていて、現代英語が語尾変化を失ったことを説明している。
ここに書くには分量が多いので、図書館などで読んでほしい。

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「理系留学生のための自然科学の日本語」

翻訳の仕事に直接関係するものではないが、今月購入した語学関係の書籍を紹介しよう。

理系留学生のための自然科学の日本語(細井和雄 編著、スリーエーネットワーク)である。
www.3anet.co.jp/np/books/4046/

自然科学の日本語 

重要語句のリストがあり、中国語と英語が載っているのは一般的だが、この本にはベトナム語も載っている。
日本語教師になる予定はないのだが、資料として持っていてもよいと思った。

大学の研究室ではドイツ人と中国人と一緒の実験室にいたし、留学中にも日本語について質問されたこともあるので、今後も似たようなことがあるかもしれない。

この本を参考にして、読みやすい日本語、やさしい日本語についても考えてみたい。

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ジャンル : 学問・文化・芸術

情報収集のためにも外国語を学ぼう

新型コロナウイルス感染症 COVID-19 だけではなく、日本語による情報だけでは偏っているのではないかと心配になる。
政府が嘘をつくという前提で考えると、別の視点からの情報が必要になる。

これは東日本大震災のときの原発事故に関する政府発表や報道でも感じたことだ。
当時も国内の報道では得られなかった事実を、外国の報道で知るということもあった。

情報量から言えば、やはり英語が第一選択となり、英語を読んで理解する基本的な知識が必要となるだろう。

今回は、内藤正典・同志社大学教授のツイートを引用しよう。
なお、教授の紹介ページは次のリンクから。
global-studies.doshisha.ac.jp/teacher/teacher/naito.html

英語での情報を調べることも大切だが、決して外国での報道が全て正しいというわけではない。
それでも、日本メディアの報道が政府広報のようになってしまう場合があるので、ジャーナリズムとしての外国報道を読むのは意味がある。

大量の英語を読むことに慣れていないならば、機械翻訳で概要を確認してもよいだろう。
ただし、誤訳が含まれているという前提で読むことになる。
したがって、疑問点があるときに原文の英語を読む力は必要になるから、できれば高校英語のレベルをしっかり身につけておきたいものだ。

そして、内藤教授が書いているように、英語以外にもう1つ、外国語を知っていると有利だろう。

私は化学を専攻したので、英語の他にドイツ語を学んだ。
研究のために学んだわけだが、日本では報道されない様々な情報を得ることもできた。
また、少しかじっているノルウェー語では、捕鯨や環境問題について情報が得られた。

興味のある話題から、新たに学ぶ第二外国語を選んでもよいだろう。
それをきっかけにして学習を継続していれば、今回のように感染症が流行したときに、日本語以外の情報源を複数持てることになる。

日本政府を信頼している人はそのままでもかまわないが、私は多様な情報にアクセスしたいので、翻訳の仕事とは別に、外国語の勉強は一生続けたい。

テーマ : ことば
ジャンル : 学問・文化・芸術

「外国語 知らない奴ほど 口を出す」(黒田龍之助、英語教育2020年3月号)

「英語教育」という雑誌は、副業翻訳を始めた頃から、特集記事に興味があるときに購入していた。
そして今年度は、連載記事を読みたいので定期購読をした。
来年度も面白そうな連載があるので、そのまま継続することにした。

今年度最後の3月号で面白かった記事の1つは、「英語史のツボ なぜアメリカ英語とイギリス英語は異なっているのか」。
これまでの連載も含めて、知っていたからといって翻訳の仕事が増えるわけでもないが、素朴な疑問について、「ああ、そうだったのか」と納得して、知識が増えるのは単純に楽しいことだ。

もう1つ、定期購読を決めた連載があり、それは「黒田龍之助先生の鳩が出ますよ!」だ。
「英語教育」という雑誌なのに、英語以外の話題が出てくることも面白い。

そして、コラムの内容を反映した「今月の標語」は、外国語 知らない奴ほど 口を出すだ。

これは、翻訳業界の一部で話題の、自称1000万円翻訳者の話ではなく、英語の早期教育だとか、文法が重要だとか、世間が英語そのものではなく、英語教育の話が好きなことを揶揄している。

その標語の下には、次のように書いてある。

【〇〇語は難しいらしいとか、xx語は就職に有利などと、外国語について根拠不明なデマが飛び交う。そんなデマに迷ってしまう生徒に、いろんな外国語を学ぶのはいいことなんだと、教師は自信を持って伝えてほしい。】

今回の記事では、高校の英語教師の話が紹介されている。
大学への進学を希望する生徒に、もっといろんな外国語を勉強してほしいと伝えているそうだ。
私も英語以外の外国語を学ぶ楽しさを知ってほしいので、黒田教授や、この英語教師の主張を支持したい。

【ロシア語教師でも、英語教師でも、どんな外国語の教師でもいいんだけど、いろんな方向に興味の広がる生徒を応援したい。自分の専門を押し付けるんじゃなくて、世の中にはいろんな言語があって、英語のほかにもすばらしい世界があることを伝えるのも、外国語教師の務めじゃないかな。】

以前にも書いたが、英語圏への留学を目指していた人にも、「英語が完璧でもないのに、どうして他の言語を学ぶ暇があるのか」と言われたことがある。

また、研究室でも、「今は論文はほとんど英語だ。英語だけ勉強すればいい。ドイツ語は英語に似ているから辞書を見ればわかる」という反論まであった。

英語以外に勉強した外国語で、仕事で使っているのはドイツ語だけなのだが、挨拶表現だけでも覚えている外国語があると、パーティーなどで外国の研究者や留学生との会話も楽しめるだろう。

ドイツ留学の面接のとき、申請書類に記入した外国語知識について質問があった。
指導教授から、「かじった程度でもいいから全部書け」と言われたので、「英語・ドイツ語・中国語・スペイン語」と書いたが、予想外の質問に困惑した。

それでも、とっさに、「日本に留学する研究者とは英語だけで会話してもよいが、家族も含めて受け入れる姿勢を示すためには、相手の言語を知っていた方が良い」と答えた。
その後、審査員から指導教授に連絡があり、国際交流の推進に貢献できる人材と判断されたため、ドイツ留学が決まったそうだ。

数年前に始めたノルウェー語では、どうしても確認したかったニュースの詳細について、ノルウェーの新聞で確認できたし、ノルウェーマイルという距離の表現を知ったり、雑学も増えて楽しい。

これからも英語至上主義の人から反論されることがあっても、いろいろな外国語を知っていることが純粋に楽しいと主張していきたい。


ニューズウィーク日本版3月3日号の特集は、「AI時代の英語学習」。www.newsweekjapan.jp/magazine/264408.php機械翻訳・自動翻訳には、賛否両論があり、最近も新型コロナウイルス関係で厚生労働省の英訳が使えないということが話題になっている。使えるかどうか、仕事の効率を上げるために何に注意すべきか、などの議論は、既に各方面で行われているので、今回は取り上げない。今回の特集記事で興味を持ったのは、23ページ後...
「英語しかできない人のリスク」(AI時代の英語学習、ニューズウィーク日本版3月3日号)

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ベンゼンをベンゾールと呼ぶのはもうやめよう

(最終チェック・修正日 2021年01月23日)

有機化学を勉強すると、芳香族化合物で必ずベンゼンを学ぶ。
6個の炭素原子が六角形の環を作るように互いに結合しているのが特徴だ。

化合物の名前は、昔から使われている慣用名や通称、別名などがたくさんあるので、混乱することもある。
ベンゼンでも、ドイツ語の Benzol に由来すると言われる「ベンゾール」を使う人がまだいる。

独和辞典で Benzol の訳語に 「ベンゾール、ベンゼン」と掲載しているためか、ドイツ語特許の和訳でも、「ベンゾール」と書いているものを見かける。

------------
追記(9月6日):
「ベンゾール」を使わないということについて、私が最近知ったと決めつけて非難する変なコメントがあったため、一応追記しておこう。
その勘違いのコメントは、「エンゾール」という誤記で始まり、漢字変換ミスも多いので、投稿者の名誉のために非公開とする。

化学の研究を始めてから約30年になるが、論文を読むだけではなく、自分で発表するためにも英語での命名法、そして日本語表記も、その変更も含めて学んできた。

この記事で指摘しているのは、「ベンゾール」は化合物名ではないのに、まだ使っている人がいること、そして化学論文では使われないのに、特許ではいまだに通用していることを指摘したものだ。

では実例として、ドイツ語特許(DE 10 2006 016 258 A)の和訳(特開2016-41813)を引用しておこう。
請求項4で、反応に使用する溶媒を列挙しているところで、ドイツ語オリジナルの Benzol が、和訳で「ベンゾール」になっている。

ドイツ語オリジナル: ... als Lösungsmittel ... BenzolToluolXylole ...

和訳:…溶媒として、…ベンゾール、トルエン、キシロール

------------


50年前ならばベンゾールでも我慢するが、21世紀になっても「ベンゾール」と呼ぶのはやめてほしい。
現在、「ベンゾール」は、「粗製ベンゼン(ベンゼンを主成分とする芳香族炭化水素混合物)」を指す。
化学と工業化学で用語が違うという意見もあるが、統一しないと混乱を招くだけである。

IUPAC 2013 勧告では、「ベンゼン(benzene)」のみが、優先IUPAC名(PIN、preferred IUPAC name)として使用できる。

慣用的に使われてきた名称のうち、benzene などは、変えない方が混乱が少ないため、保存名(retained name)となり、そして PIN になっている。

無置換の母体ベンゼンは、CnHn の分子式を持つ非置換単環炭化水素のポリエン(アンヌレン、annulene)ではあるが、[6]アンヌレン([6]annulene)とは呼ばないことになっている。

そして、「ベンゾール」は、別名としても出てくることはないから、日本だけの特殊な現象かもしれない。

日本の有名企業が出願した日本語での特許でも、未だに「ベンゾール」を使っている。
置換したベンゼン誘導体も、「〇〇ベンゾール」と書いていることもある。

例えば、ブロモベンゼン(Bromobenzene)が「ブロムベンゾール」(特開2009-242824、請求項4)。

また、あるグローバル企業は、「ベンゾール」を使っているうえに、置換基の位置番号があり得ないものになっている。

特開2017-78047 の段落番号【0093】に出てくる化合物 「1,8-ジメチルベンゾール-2,4-ジイソシアネート」は、「1,3-ジメチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート」ではないだろうか。

過去の出願を参考にしているうちに、誰かが「3」を「8」とタイプミスして、そのままコピーして使いまわしているのかもしれない。

また、その企業は、英語で出願した US4,431,700 で、benzol を使っている(2番目のカラムの最後)。
... 1-methylbenzol-2,4-diisocyanate, 1,3-dimethylbenzol-2,4-diisocyanate, ...

以前の出願と同じ表現にしたのかもしれないが、化学系・薬学系学会が共同して特許庁に申し出て、「ベンゾール」を追放してもよいのではないか。

特許は学術論文とは違うと言われそうだが、混乱が生じないように考えてほしいものだ。

(最終チェック・修正日 2017年08月21日)私がこれまで利用してきた独和辞典は3種類である。小学館独和大辞典第2版と大修館書店マイスター独和辞典3版は、紙の辞書である。三省堂クラウン独和辞典は、三省堂ウェブディクショナリーの有料会員で利用しているが、検索結果を見ると、改革以前の正書法であったため、最新版ではないと思われる。辞書によって編集方針が異なることと、新正書法を採用するかどうかも分かれるため、訳...
訳語などの比較のために独和辞典を追加購入


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プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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