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機械翻訳の導入と同時に翻訳者の養成も必要ではないか

ニューラル機械翻訳(NMT)では、人間と同じ種類の「原文内容の歪曲」というエラーに加えて、「不適切/一致しない訳語」というエラーが同程度発生するという特徴がある。

NMTでは原文全体の文脈は無視しているため、複数の訳語がランダムに出現することが多く、ポストエディット(PE)という独特の後処理工程が必須である。
このPEにどれだけ手間がかかるのか、PEをすれば人手翻訳と同等の品質が保証できるのか、などの課題がある。

NMTの出力結果に対するPEは、人手翻訳に対するチェックとは異なる作業なので、翻訳とは異なるという意識で行う必要がある。
そのため、PE作業を専門とするポストエディターの養成カリキュラムを開発しなければならない。
そのカリキュラムを利用して、人手翻訳をしている翻訳者がポストエディターという新業態に移行できるように教育したり、外国語大学などの学生を翻訳者兼ポストエディターとして育成することになるだろう。

現在、翻訳者として働いている人たちは、私も含めて、このPEに対応できるかどうか、あるいは、PEを受け入れるかどうかを決断する日が来る。
ただ、優秀な翻訳者であっても、PEは翻訳とは異なる作業なので、誰でも向いているわけではない。
PEに向いていない人、そしてNMTを受け入れたくない人は、人手翻訳が必要な高度な題材に取り組むことになるだろう。

ただ、ポストエディターを養成するとしても、翻訳者としてのトレーニングが不要になることはないだろう。

ある実験では、NMTの出力結果に引きずられて、適切な訳が思い浮かばなくなった被験者もいた。
また、知らない単語の意味を調べる必要がなくなって楽だ、と感じた被験者もおり、安易な作業という先入観が生まれると危険だ。

だから、NMTの出力結果は翻訳ではなく、計算結果が並んでいるだけだと、健全に疑う意識を持って、自ら正しい翻訳を生み出す力を持っている必要がある。

PEもできる優秀な特許翻訳者が望まれているが、国家レベルで養成しているわけでもなく、外国語を専攻した大学生が特許翻訳者を目指しているという話もあまり聞かない。

外国語関連の大学や学部で説明会をしている翻訳会社もあるが、文系学生にとっては、特許の技術内容が理解できないのか、あまり興味を持ってもらえないそうだ。

大学や企業の研究者の第二の人生として、特許翻訳者という道もあることを宣伝してもいるようだが、英語翻訳者ばかりのようで、ドイツ語はヨーロッパで主要言語なのに人気がない。

私の会社でも、ドイツ語特許翻訳者としての経歴がある人材を募集しているが、元々人数が少ないのか、既に他社の専属となっているのか、ほとんど集まらない。

私はドイツ語特許翻訳のセミナーにも参加しているが、参加者の中で実際にドイツ語特許翻訳をしている人はわずかである。

特許翻訳者の人数が少ないから、養成にも時間と手間がかかるから、その代わりにNMTを導入するというのは、危険な選択だろう。
翻訳者が足りないということは、PEもできる人材もまた足りなくなり、チェックをすり抜けた低品質翻訳を大量に生み出してしまうという、負のスパイラルを加速することになるのかもしれない。

社内で独日担当が私1人なので、ドイツ語NMTを導入して生産性を上げたいと思っているが、できればフリーランス登録をしている翻訳者にも参加してほしい。
しかし、依頼できそうなのは1人か2人しかいないのが現状だ。

頼めないレベルの人というのは、実はNMTと同じくらいの頻度でエラーを発生させて、しかも推敲せずに納品してしまう人だ。
このレベルの人をポストエディターとして育成しようとしても、人手翻訳を頼んだときに、原文の文脈を考慮しない誤訳、訳語の不統一、数字の転記ミス、請求項で「前記」が漏れている、などを多発しているのだから、NMTの出力結果を修正できないだろう。

つまり、NMTを導入するには、優秀な翻訳者の確保とポストエディターの養成が同時進行で必要ということだ。

そして、ドイツ語特許翻訳者が確保できない場合、ドイツ語NMTを導入してもPEができないので、英訳ができてから英語翻訳者が和訳するという、現在でも問題と思われる重訳が増えるのではないだろうか。

オリジナルがドイツ語特許であっても、英語の方が単価が安いことに加えて、クライアント側にドイツ語を知っている人材がいない場合、納品物の検品ができないので、英訳の使用を希望するかもしれない。

その英訳が人手翻訳であっても、NMT+PEであっても、誤訳・誤記などが残っているリスクがある。
先日も、英訳された特許を和訳していて、どうしても内容が理解できないという部分があった。
それでオリジナルのドイツ語特許を調べてみると、英訳時に誤訳していたり、化合物名が間違っていたことが判明した。

NMTでは原文の文脈を無視しているので、誤記にも対応できない。
人間のように、「この表現は何だか変だな」という違和感を持つこともない。
だから、特許の内容を反映していない表現に出会っても、人間のように、「オリジナルのドイツ語を調べてみよう」という反応はしない。

大学で研究しているとき、「化学者は英語だけではなく、最低もう1つ別の外国語で論文を読めた方がよい」と主張していたが、賛同する人はごくわずかであった。
英語だけ勉強すればよいと思っている人が多いため、今後もドイツ語など非英語人材を確保することは困難であろう。
その少ない非英語人材の中から、特許翻訳を目指す人がどれだけ生まれるであろうか。
日本語がわかるドイツ語ネイティブに期待することになるのだろうか。

翻訳業界全体で協力して人材育成をしなければ、NMTが発達しても、日本では導入不可能ということになるかもしれない。


ニューラル機械翻訳(NMT)が登場してから、翻訳者の仕事がなくなると言う人が現れるようになった。実際には、人手翻訳と同様に、NMTでも誤訳や訳抜けが発生するため、ポストエディット(PE)という後処理作業が必須である。どのような種類のエラーが発生するのか、「通訳翻訳ジャーナル」2018年春号の40ページに掲載された記事を参照してほしい。山田優・関西大学教授の報告では、人手翻訳で一番多かったエラーは、...
機械翻訳とポストエディット(PE)


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機械翻訳とポストエディット(PE)

ニューラル機械翻訳(NMT)が登場してから、翻訳者の仕事がなくなると言う人が現れるようになった。
実際には、人手翻訳と同様に、NMTでも誤訳や訳抜けが発生するため、ポストエディット(PE)という後処理作業が必須である。

どのような種類のエラーが発生するのか、「通訳翻訳ジャーナル」2018年春号の40ページに掲載された記事を参照してほしい。
山田優・関西大学教授の報告では、人手翻訳で一番多かったエラーは、「原文内容の歪曲」であった。

この歪曲では、単なる不注意による誤訳もあるが、原文内容を理解しているのに、より適切な訳を求めて修正するときに、言外の意味などを推測して、結果的に改悪してしまうものも含んでいる。

NMTでは、この「原文内容の歪曲」に加えて、「不適切/一致しない訳語」が同程度出現するという。
NMTでは、原文全体を見ていないし、単語相互の関連性を計算しているだけなので、セグメントごとに訳語が変わることも多い。

また、最近出版された「翻訳事典2019-2020」の機械翻訳批判記事? でも、NMTの問題点として、この種のエラー発生を強調しているようだ。

私は業務で、英日特許翻訳の案件で機械翻訳を利用して、PEを毎日している。
確かに、長文での訳抜けや重訳の出現、数字があちこちに移動したり、PE作業の負担は予想よりも多いという印象だ。

それでも平均すると、最初から人手翻訳をしてタイピングするよりは、10~20%の時間短縮が実現されていると感じている。
この作業負担感についての論文数は、まだ少ないものの、機械翻訳+PEでの効率改善が10~20%のレベルであることは、多くの翻訳者に同意してもらえることだろう。

人手翻訳とは異なるNMTのエラーの癖があるため、PEに向く人材についての検討や、どのような点に注意してPEを行うべきなのかという研究も行われている。
www.fellow-academy.com/fellow/pages/tramaga/backnumber/388.jsp
honyakukenkyu.sakura.ne.jp/shotai_vol10/No_10-004-Yamada.pdf

ただ、PEという作業自体は、これまでの翻訳とは全く異なる業務内容となるため、PEをいくらこなしたとしても、翻訳者にはなれないとも言われている。
PEの作業に関する研究では、NMTの出力結果に引きずられて適訳が思い浮かばなくなったという、被験者の感想も明らかになっている。

それで、通訳翻訳ジャーナルでも、翻訳事典でも指摘されていることだが、これから人間がどのように翻訳に関わるのかというと、NMTでは対応できない部分である。
つまり、原文全体を読んで内容を把握し、筆者の意図をくみ取り、読者が理解しやすい適切な訳文を考えることだ。

また、NMTは原文の誤記に対応できない。
翻訳不能として原文ママで単語を残してしまったり、無理やり似たような単語に置き換えたとしても、それが誤訳だとはNMT自体は認識しない。

PEで全てのエラーを修正するとしても、正確な翻訳ができる翻訳者が参加して、正しい訳例としてフィードバックして、NMTに再学習させなければならないだろう。

しかし、機械翻訳+PEをコスト削減の口実に使おうという依頼者がいるのも事実であり、単価切り下げに加担したくない翻訳者が多く、協力が得られない恐れがある。
そのため、実力のない人がPEを受注して、低品質の翻訳が出回る恐れもある。

機械翻訳+PEという新しい業務形態の導入を阻止したい人もいるかもしれないが、どのようにすれば業務の改善ができるのかという視点でも検証を重ねて、PEに対応したカリキュラムを開発し、それと同時に多言語の翻訳者を養成する具体策も検討してほしいものだ。

ところで、翻訳事典2019-2020の40ページ、下から7行目に、「エントロビー」とある。
これは、正しくは、「エントロピー」である。

トップクラスの翻訳者が書いた原稿に誤記があったのか、編集作業による誤植なのかは不明だが、校正作業でも見落とされ、人間がいくら努力してもミスをしてしまう存在であることを再認識した。

今後は他者の翻訳者の協力も得て、独日の機械翻訳を検証したいものだ。

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特許翻訳者の人数は不明?

小泉純一郎・元首相が「知的財産立国」を宣言したのは、2002年であり、もうすぐ20年になろうとしている。
その間、知的財産推進計画などが策定され、人材の育成も行われたそうだ。

育成すべき知的財産関連の人材の中には、特許専門の翻訳者も入っている。
それで関連する審議会では、人材の現状について把握しているのかどうか探してみた。

すると、以下のリンクで公開されている資料では、特許翻訳者の人数は不明とあった。
www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kenrihogo/dai9/9bessi5.pdf

別の資料でも人数は不明とあるが、この場合は「数百名規模」という概算が載っている。
www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/ip/haihu18/siryo6.pdf

日本知的財産翻訳協会の検定試験の概要には、10,000人を超えるとあり、次のリンク先の論文では6,000人前後と推定している。
www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/50/11/50_11_727/_pdf

しかし、他に信頼できる統計が見つからないので、人数についてなんとも言えない。

「数百名規模」というのが知財関係の専門家の共通認識ならば、特許翻訳者が足りないという私の感想も間違っていないのかもしれない。

優秀な翻訳者の確保が必要と言われてきたが、実際に特許翻訳者の養成がどのように行われているのか、その具体例はほとんど聞いたことがない。

特許事務所や翻訳会社でのOJTが一番多いのかもしれないが、私のように、メーカー研究者がリストラ後に特許翻訳者に転職するような、異業種からの参入については、どのように把握されているのだろうか。

セミナーを開催したり、翻訳学校で指導しても、特許翻訳者が増えないだとか、特許翻訳者を募集しても集まらないとか、特許翻訳者が足りないから機械翻訳を導入しようとか、そのような話をする前に、実際に特許翻訳者が何人働いているのか、言語別にデータを集めて議論したいものだ。

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豪ドル建て債券を久しぶりに購入した

奨学金返済が終わり、1月末にPaypal残高が$2000を超えたので、外貨建て債券の投資を再開することにした。

当初は、2018年12月に三井住友銀行グリーンボンド(豪ドル)を購入する予定であったが、SMBC日興証券でも、三井住友銀行でも、すぐに完売してしまった。

SMBC日興証券で豪ドル外貨MMFを購入して準備していたが、次の債券が出るまで、そのまま残すことになった。

そして本日2月8日から、クレディ・アグリコルCIBグリーンボンドが販売されることになった。
販売用資料は次のリンク。
www.smbc.co.jp/kojin/saiken/resources/pdf/saikenTF01_20190206.pdf

今回は即完売ということはなく、SMBC日興証券で豪ドル建て$1000を購入できた。
昼休みにログインして約定を確認したついでに、取引画面を見たところ、オンライントレード販売分は、この時点で完売していた。

今回のグリーンボンドにはニュージーランドドル建てもあり、現時点でまだ購入可能だが、同一発行体では分散したことにならないので、見送ることにした。

それに加えて、3月末までに予想される支出として、弟のアパート契約更新に関する費用の他、花粉対策の空気清浄機の買い替え、教会の役員に選出された場合にスーツの新調などがあるため、外貨投資を急がない方がよい。

次回は、Paypal残高が$600程度になってから、7月頃に検討しようと思う。
それまでは少額の積立を続けて、外貨MMFをある程度増やしておこう。


弟への仕送りがまだ続くが、日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金返済が今月で終わることもあり、投資金額を少しずつ増やすことを計画している。世間では、冬のボーナスの話が出ているようだが、私の勤務先の賞与支給月は12月ではないので、金融機関がいろいろなキャンペーンを実施しても、あまり関係ない。それでも、年末調整でいくらか戻ってくるし、来年1月末までに PayPal の残高がUS$2000を超える予定なので、...
三井住友銀行グリーンボンドはすぐに完売してしまった

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e-Taxで初めて確定申告をした

2018年分の確定申告を、今回はe-Taxを利用して、本日2月1日の夜に提出した。
所得は、給与と事業を合わせて約623万円で、還付予定額は19,599円。

NPO法人の寄付金額は81,000円あって、たくさん還付されると期待したが、税額控除は、課税される所得税の25%までなので、上限の22,400円となった。

豪ドル建て投資信託の売却が損失扱いとなったので、これを繰越申告して、今後の特定口座で売却益の相殺に利用する。

使用前の設定で苦労したが、これまでと違い、紙の領収書や支払調書を添付する作業がないだけでも、非常に楽になったと感じた。

確定申告は、ドイツ留学から帰国した年の分から、20年近く行っている。

非常勤研究員の年末調整では、自己負担の社会保険料控除が入っていなかったし、WWFジャパンの年会費は寄付金控除になるので、その申告と、不動産収入を申告するためだった。

留学中に父が他界し、阪神淡路大震災の後に建て直した一戸建てを、私が管理することになった。
私の帰国後の勤務先は、その一戸建ての所在地からは遠かったため、父の友人に依頼して、借りてくれる人を探した。
家賃収入の他に、減価償却や火災保険を経費にしたり、面倒だったので税務署窓口で指導を受けながら記入した。

その後も毎年、不動産収入の他に、副業翻訳を雑所得、株式売買損益を分離課税、など、いろいろと勉強した。
最初の10年くらいは手書きで、計算も面倒だったが、国税庁HPで作成コーナーができてからは、自動計算になって楽になった。

そして今回は、青色申告もあるので、e-Taxでの申告に切り替えることにした。
青色申告の控除65万円を使うためには、数年後にはe-Taxが必須になるそうなので、今から対応しておこうと思ったからだ。

過去記事に書いたのだが、スマートフォンをICカードリードライタとして使うためには、国税庁HPに書いてある準備だけでは足りなかった。

e-Taxで申告するために国税庁から取得した利用者登録番号と、マイナンバーカードとを関連付けするのだが、何度やっても「券面事項入力補助用」のパスワードが入力できずに、手続きが中断してしまうのだ。

解決策としては、次のサイトで紹介されているように、マイナポータルで利用者登録すると、e-Taxで利用できるようになるとのことだ。
naoyu.net/problem-solving-of-mynumber-at-e-tax/

マイナポータルで登録して、e-Taxの利用者登録番号の関連付けもすぐに終わり、確定申告書の作成もすぐに終わった。
e-Taxヘルプデスクに電話しても何も解決しなかった3時間を、返してほしいと思った。

国税庁は、e-Taxでどのように確定申告書を作成するのかを教えてくれるが、スマートフォンの設定までは教えてくれない。
マイナンバーカードを活用しようとしているのに、マイナポータルは所轄外ということなのか、教えてくれない。
だから、過去記事に書いたように、税理士による代理送信の機能を使うという、臨時の代替策を提案することなるわけだ。

2万円弱の少額ではあるが、今月中に還付されることを期待しよう。

テーマ : 税金
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プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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