ケイ素・シリコン・シリシウム
そのため、元素名や化合物名では原則としてIUPAC名を使う。
そして日本語名称の付け方のルールは、日本化学会命名法専門委員会が作成した日本語名称のつくり方を用いる。
それでも、専門家が読んで理解できればよいという理由で、慣用名や製品名などが使われることもある。
さらには、「酢酸エチル」の略称である「酢エチ」が使われている特許もあるくらいだ。
外国語特許を和訳する場合も、元素名や化合物名の問題が生じる場合もある。
つまり、原文が命名法に従っていない場合、原文ママで和訳するのか、それとも正しい名称に書き換えてもよいのかだ。
データベース検索のことも考慮すると、正式な名称に書き換えてもよいのではないかと思う。
不定期に調べている名称の1つに、元素名の「ケイ素」がある。
14番元素のIUPAC名は silicon で、カタカナ表記の「シリコン」を使いたくなるが、日本語での元素名は「ケイ素」のみ。
元素を紹介するある本では、「シリコンは高純度ケイ素を意味する」という主旨の注意書きがあった。
また、衒学的と批判されそうだが、「けい素」も「珪素」も「硅素」も使わない。
英語名にはIUPAC名と同じ silicon の他に silicium がある。
この silicium(シリシウム)は、例えば、時計部品の材料の説明で目にすることが多い。
学術用語としては使わないと思っていたら、21世紀になってもまだ silicium を使っている論文や特許があった。
例えば、無機化合物の silicon dioxide(二酸化ケイ素)を silicium dioxide と書いている特許をメモしておこう。
WO2018/188909 の請求項3には、以下のように記載されている。
"..., inorganic dielectric materials such as silicium dioxide, ..."
原文の英語ではこのように書いてあっても、「二酸化ケイ素」と和訳するものだと思っていた。
しかし、この特許の和訳、特表2020-516884では、「シリシウムジオキシド」となっていた。
クライアントから指定されていたのか、それとも判断せずに原文ママでカタカナ表記にした方が安全ということなのか。
その理由はわからないが、違和感を持ってしまった。
専門家が読めば理解できるわけだが、「1つの化合物には1つの名称」という原則を優先したいので、「二酸化ケイ素」にしてほしかったと思う。