「校正」と「較正」
これまで "calibration" の訳語は 「較正」 だと思っていたが、「校正」 を使っていることもあり、広辞苑(第五版)で調べてみた。
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【校正】こう‐せい(1) 文字の誤りをくらべ正すこと。
(2) 校正刷を原稿と引き合せて、文字の誤りや不備を調べ正すこと。「厳密な校正」
(3) →こうせい(較正)。
【較正・校正】こう‐せい
(calibration) 実験に先立って、測定器の狂い・精度を、基準量を用いて正すこと。
(第六版では、「実験に先立って」が削除されている。)
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私は、測定器の補正のことを「較正」と書いていたが、「校正」でも誤りではなかったのだ。
学習の負担を軽くするため、意味が似ている簡単な漢字に置 き換えているからだろう。
ただし、誤りではなくても、「較正」ならば "calibration" と一義的に対応するので、科学・技術関係の専門文書や特許を翻訳するのであれば、「較正」に統一した方がよいと思 う。
独立行政法人 情報通信研究機構の計測サービスの案内では、次のように混在している。
http://www2.nict.go.jp/dk/c253/kousei/index.html
【「登録点検事業者用測定器の較正」、「委託による測定器の較正」及び「計量法に基づく周波数標準器の校正」 を行っています。】
次に、計量法を調べてみると、
「第八章 計量器の校正等 第一節 特定標準器による校正等」 とある。
いでにある条文を引用する。「校正」であり、「較正」ではない。
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(特定標準器による校正等) 第百三十五条 特定標準器若しくは前条第二項の規定による指定に係る計量器(以下「特定標準器等」という。)又は特定標準物質を用いて行う計量器の校正又は標準物質の 値付け(以下「特定標準器による校正等」という。)は、経済産業大臣、日本電気計器検定所又は経済産業大臣が指定した者(以下「指定校正機関」という。) が行う。
2 経済産業大臣は、前項の規定により経済産業大臣、日本電気計器検定所又は指定校正機関が特定標準器による校正等を行うときは、次の事項を公示するものと する。
一 特定標準器による校正等を行う者
二 特定標準器による校正等を行う計量器又は標準物質
三 特定標準器による校正等に用いる特定標準器等又は特定標準物質
3 経済産業大臣は、前項の規定による公示に係る特定標準器による校正等をすることができなくなったときは、その旨を公示するものとする。
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「計量法に基づく…」と書いた場合には、法律にある「校正」を使わねばならないのだろう。
「較」と「校」は、どちらにも 「くらべること」 という意味がある。
「較」は「二つのものの違いをくらべる」 という意味から、「校」は「正しいものとくらべる」 という意味から、同様に、基準物質の測定をして、測定器の目盛りや出力数値を補正するという意味に使える。
だから一般的には 「較正」 も 「校正」 も区別しなくてかまわないのかもしれない。
それでも、漢字が違うならば、語学で飯を食う翻訳家は、こだわりを持つべきではないだろうか。
「校」では、「調べる・考え合わせる・知識が交差する」というニュアンスが加わる。
「校閲」では、 「文書・原稿などに目をとおして正誤・適否を確かめること」となる。
すると、測定器の補正は、基準物質との比較をするルーチン作業ではあっても、測定器としての信頼性を判断・判定することになるから、「校正」でもいいのかもしれない。
言葉の勉強は終わりがないものだと実感した。
英語ばかり注目されているが、日本人ならば漢字の勉強の方が大切ではないだろうか。
(最終チェック・修正日 2010年04月04日)