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ppmを使う濃度表示は誤解を招くことがある

環境問題が注目されている最近では、濃度表示の ppm を目にすることが多くなっている。
大気中の二酸化酸素濃度が 380 ppm を超えただとか、イルカ肝臓の総水銀量が 1980 ppmなど。

新聞記事でも、例えば日経産業新聞で、レアメタルの存在比を比較するために使用されている。

1トンの鉱石から、目的の金属が何グラム生産可能なのか、という目安にもなる。

【地殻に含まれるチタンの存在比は5400ppm(ppmは100万分の1)で、銅の75ppmの約70倍にも達する。】


ただ、学校で学ぶ機会のないppm表示は、誤解を招くことがあるようだ。

質量比(重量比)として表示しているのに、体積比(容積比)だと勘違いしている人もいる。

まずppmは、「100万分のいくつかという比率」 を示す表示法であることを、再度確認しておこう。
パーセントと同様、全体に占める割合なので、具体的な物理量を示す単位は消えていることに注意してほしい。
体積比を示すのか、それとも質量比なのか、比較している元の数値の単位まで考慮する必要がある。

大気中の二酸化炭素濃度の場合、これは体積比と考えてよい。

380 ppm となる体積比を元に戻すと、380 cm3/m3 となる(1 cm3 は 1 m3 の100万分の1)。

体積比のイメージとしては、例えば次の説明を参考にしてほしい。

http://www.sepiojapan.com/page030.html


次に重量比だが、以下のPPM換算表が便利なので参照してほしい。

http://www.nacalai.co.jp/yakudati/PPM-kansanhyou.html

地殻のチタン存在比 5400 ppm は、5400 μg/g または、5400 mg/kg が元だ。

μg は g の100万分の1、同様に mg は kg の100万分の1。
この比率を使って1トンの岩石に当てはめて計算すれば、含有チタン量が判明する。

水溶液中の不純物量も重量比のppm表示が多用され、化学で一般的に使用するモル濃度でなくてもよい。

ここで1ppmは、1 mg/kg が元になっている。
ただ、希薄な水溶液では、水溶液1kgの体積を1Lと近似できるとし、1 mg/L を1ppmとする。
検量線を引くための標準溶液はメスフラスコで調製するので、水溶液の量は体積表示が便利だから。

イルカ内臓などの生体試料では、湿重量(ウェット)と乾重量(ドライ)の区別も併せて必要だ。

試料の状態に2種類あるが、ここでも重量比を使うので、総水銀 1980 ppm は 1980 μg/g となる。

この場合は桁が大きいので、1.980 mg/g とした方が実感しやすいかもしれない。

そして実際に食べる量が 50 g であれば、1.980 mg/g x 50 g = 99 mg と計算すれば摂取量が判明する。

このように同じppm表示でも、対象によって元の単位が違うので、勘違いしないように注意が必要だ。

学術論文では重量比であることを明確にするため、1980 ppm ではなく 1980 μg/g とする方が望ましい。


そして、外国語報道で誤訳を探すように、ppm表示の誤解の例を集めようと思った。


私は中学と高校の理科教員免許も持っており、ある私立高校での非常勤講師の経験が約半年ある。

今後は教員にはならなくても、博物館などで働くかもしれないから、理科教育の資料として収集する意義はある。


ネット検索をしたところ、ある
捕鯨賛成派の人が、イルカ肝臓の総水銀量について言及していた(リンクは省略)。

そこでは、ある学術論文の数値、1980 μg/g をそのまま引用しており、重量比は明白である。
しかし、何を勘違いしたのか
「肝臓容積の0.2%」 と、ppm表示が体積比(容積比)だと思い込んで計算をしている。
「水銀の比重が肝細胞の数倍は高い事を考えれば、例えば10kgの肝臓に100㌘以上の水銀が有」ると。

肝臓の比重をほぼ1と仮定すると、10 kg の肝臓の体積は 10 L で、その 0.2% は 20 mL になる。

水銀の比重 13.5 を掛けると 270 g となるが、これは大きすぎると思ったのか、半分以下に減らしたようだ。

重量比という正しい解釈をしていれば、2000 ppm = 2 mg/g を元に、10 kg の肝臓の含有量に換算していたはずだ。

正しい計算は 2 mg/g x 10 kg (10000 g) = 20000 mg = 20 g となるはず。


この間違いは、理系専門教育を受けたかどうかの問題ではなく、定義を調べたかどうかに加えて、
その定義の説明を理解したかどうかという、リテラシーの問題だろう。

他にも勘違いしている事例がないかどうか、時間があるときに調べて追記し、資料としておこう。

追記(3月30日):
この人は、指摘を受けてやっと、ppmが重量比を示す場合があることを知ったという。
ただ、定義を知ったはずなのに、
「特記が無ければ主に濃度表示として使われる体積ppmだとしか思いません。」と自己流解釈のままである。
本人が体積比の方を主流だと思っていることと、ppm表示の定義とは別の話である。
科学啓蒙活動や理科教育の問題でもあるが、このようにリテラシーのない人との話は、すれ違いになる。

この人は、他人のクジラ・捕鯨関係の知識レベルをけなしているが、その前に、基本的なppmの定義を理解してほしいものだ。
ppmの定義を知らない者が海洋生態学の話をしていても、誰も信用しないだろうから。

(最終チェック・修正日 2010年03月30日)

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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