112番元素の名称として「Copernicium(コペルニシウム)」が提案された
翻訳の仕事を始める前に、気になった科学関連ニュースをメモしておきたい。
今年6月、112番元素が正式に周期表に掲載されることになった。
仮名称は 「ウンウンビウム」 だが、正式登録となり、発見者のホーフマン教授に命名権がある。
今年6月、112番元素が正式に周期表に掲載されることになった。
仮名称は 「ウンウンビウム」 だが、正式登録となり、発見者のホーフマン教授に命名権がある。
所属先の GSI Helmholtzzentrum für Schwerionenforschung のプレスリリースによると、「Copernicium(コペルニシウム)」 という名称を提案したそうだ。
http://www.gsi.de/portrait/Pressemeldungen/14072009.html (ドイツ語)
http://www.gsi.de/portrait/Pressemeldungen/14072009_e.html (英語)
ドイツ語の報道は、例えば次の通り。
http://www.sueddeutsche.de/y5738w/2968950/Schweres-Teilchen.html
http://www.wissenschaft-aktuell.de/artikel/Element_112_soll_auf_Copernicium_getauft_werden1771015586166.html
英語報道としてBBCは次の通り。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8153596.stm
また、BBCのインタビューを受けたケンブリッジ大学の John Emsley 博士は、 ドイツの理論物理学者 「Heisenberg(ハイゼンベルク)」 にちなんだ名前になると予想していた。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/video_and_audio/8095166.stm
日本語報道は少ないが、天文学者コペルニクスにちなんだ名称のためか、アストロニュースで取り上げている。
http://www.astroarts.co.jp/news/2009/07/16copernicium/index-j.shtml
【112番元素の合成に成功した研究チームでは、元素名にポーランドの天文学者で地動説を唱えた コペルニクスに因んだ「Copernicium(コペルニシウム)」を提案した。
研究チームのSigurd Hofman教授は、「新元素の認定を受けて、私たち研究に携わった研究者は、 112番元素の名称をCoperniciumとすることで意見が一致しました。人類の世界観を変えた傑出した学者に敬意を表したいのです」と話している。なお、IUPACでは、約6か月以内に正式な元素名を決定する。】
今年は世界天文年だから、コペルニクスにちなんだ名称になっても、まあ理解できるだろう。
ただ、ヨーロッパ人研究者は、やはりヨーロッパのことを優先して考えるのだなと感じた。
コペルニクスの出生地はポーランドなのに、どうしてドイツ人が選んだのか疑問を持つ人もいるようだ。
ただ、ポーランド式の Kopernik ではなく、ラテン式の Copernicus 由来なので、中立的かも。
まあ、母親はドイツ人ということで、ドイツに無関係というわけではなさそうだが。
また記事中の和名 「コペルニシウム」 だが、これもまだ正式名称ではない。
IUPAC で112番元素の名称が決まってから、慣例で日本化学会が決めることになっている。
正式決定までは時間差があるので、ダームスタチウムと同様に、仮和名が先に定着してしまうかも。
英語の発音を聞いたままカタカナ表記すると、「 コーパニーシアム」 となる。
しかし発音を無視して字訳すると、「コパーニシウム」 にもできそうだ。
この表記の問題も、これから注目しておこう。
まだ正式決定はしていないが、コペルニシウムの元素記号が Cp になることに、問題点があるそうだ。
Frankfurter Allgemeine Zeitung のブログでは、過去に使われた Cassiopeium(Cp) について述べている。
http://faz-community.faz.net/blogs/planckton/archive/2009/07/14/copernicium-und-cassiopeium.aspx
命名規則によると、過去に非公式に使われた元素名であっても、重複してはならないとのことだ。
Copernicium は一度も使われていないが、元素記号を Cp にすると Cassiopeium と重複して不可かも。
Cassiopeium という元素名は、現在は使用されず、Lutetium(ルテチウム)に統一されている。
フランスとオーストリアで、同じ元素がほぼ同時に発見され、1949年までは名前が二つあったそうだ。
フランス、ロシア、英語圏では Lutetium、ドイツとオーストリアでは Cassiopeium と呼んでいた。
Lutetium はパリの古名 Lutecia に由来するため、ドイツ民族が認めるはずがなかった。
しかし第二次大戦でのナチスドイツの敗北で、独自の元素名も使用できなくなった。
Cp が使えないとしても、Copernicium は Cn と略すこともできるから大丈夫なようだ。
ちなみに Co は、既にコバルト(Cobalt)の元素記号なので使えない。
自然科学の話だが、裏には様々な人間模様があるので、こちらの方が面白いかもしれない。
追記(8月5日):
IUPACのプレスリリースが7月20日に出ていた。
http://www.iupac.org/web/nt/2009-07-21_Naming_Element_112
Copernicium という名称と Cp という元素記号について、無機化学部会が検討して素案を提出する。
その素案を発見者と協議した後、パブリックコメントを5か月間募るそうだ。
正式決定は来年になるのだろう。
追記(12月19日):
正式なプレスリリースは出ていないが、既に周期表と原子量表に追加されていた。
元素記号は 「Cn」 であり、ホーフマン教授が提案した 「Cp」 ではなかった。
http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/AtWt/table.html (周期表)
http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/AtWt/ (原子量表)
一応、「112番元素」 としては確認済みなので、登録されていると言ってもよい。
ただ、「Copernicium」 という元素名がまだ登録されていない。
2010年1月のプレスリリースを待ちたい。
最初に提案された元素記号 「Cp」 は、Cassiopeium で使われていたから避けた。
有機金属化学ではシクロペンタジエニル(cyclopentadienyl)を Cp と略記するが、これは無関係だ。
こういった背景説明も、プレスリリースには出ることだろう。
追記(2010年02月07日):
Nature Chemistry に、ホーフマン教授が記事を書いている。
有料記事なので、会社でダウンロードして読んだ。
http://www.nature.com/nchem/journal/v2/n2/full/nchem.533.html
(最終チェック・修正日 2010年02月07日)
http://www.gsi.de/portrait/Pressemeldungen/14072009.html (ドイツ語)
http://www.gsi.de/portrait/Pressemeldungen/14072009_e.html (英語)
ドイツ語の報道は、例えば次の通り。
http://www.sueddeutsche.de/y5738w/2968950/Schweres-Teilchen.html
http://www.wissenschaft-aktuell.de/artikel/Element_112_soll_auf_Copernicium_getauft_werden1771015586166.html
英語報道としてBBCは次の通り。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8153596.stm
また、BBCのインタビューを受けたケンブリッジ大学の John Emsley 博士は、 ドイツの理論物理学者 「Heisenberg(ハイゼンベルク)」 にちなんだ名前になると予想していた。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/video_and_audio/8095166.stm
日本語報道は少ないが、天文学者コペルニクスにちなんだ名称のためか、アストロニュースで取り上げている。
http://www.astroarts.co.jp/news/2009/07/16copernicium/index-j.shtml
【112番元素の合成に成功した研究チームでは、元素名にポーランドの天文学者で地動説を唱えた コペルニクスに因んだ「Copernicium(コペルニシウム)」を提案した。
研究チームのSigurd Hofman教授は、「新元素の認定を受けて、私たち研究に携わった研究者は、 112番元素の名称をCoperniciumとすることで意見が一致しました。人類の世界観を変えた傑出した学者に敬意を表したいのです」と話している。なお、IUPACでは、約6か月以内に正式な元素名を決定する。】
今年は世界天文年だから、コペルニクスにちなんだ名称になっても、まあ理解できるだろう。
ただ、ヨーロッパ人研究者は、やはりヨーロッパのことを優先して考えるのだなと感じた。
コペルニクスの出生地はポーランドなのに、どうしてドイツ人が選んだのか疑問を持つ人もいるようだ。
ただ、ポーランド式の Kopernik ではなく、ラテン式の Copernicus 由来なので、中立的かも。
まあ、母親はドイツ人ということで、ドイツに無関係というわけではなさそうだが。
また記事中の和名 「コペルニシウム」 だが、これもまだ正式名称ではない。
IUPAC で112番元素の名称が決まってから、慣例で日本化学会が決めることになっている。
正式決定までは時間差があるので、ダームスタチウムと同様に、仮和名が先に定着してしまうかも。
英語の発音を聞いたままカタカナ表記すると、「 コーパニーシアム」 となる。
しかし発音を無視して字訳すると、「コパーニシウム」 にもできそうだ。
この表記の問題も、これから注目しておこう。
まだ正式決定はしていないが、コペルニシウムの元素記号が Cp になることに、問題点があるそうだ。
Frankfurter Allgemeine Zeitung のブログでは、過去に使われた Cassiopeium(Cp) について述べている。
http://faz-community.faz.net/blogs/planckton/archive/2009/07/14/copernicium-und-cassiopeium.aspx
命名規則によると、過去に非公式に使われた元素名であっても、重複してはならないとのことだ。
Copernicium は一度も使われていないが、元素記号を Cp にすると Cassiopeium と重複して不可かも。
Cassiopeium という元素名は、現在は使用されず、Lutetium(ルテチウム)に統一されている。
フランスとオーストリアで、同じ元素がほぼ同時に発見され、1949年までは名前が二つあったそうだ。
フランス、ロシア、英語圏では Lutetium、ドイツとオーストリアでは Cassiopeium と呼んでいた。
Lutetium はパリの古名 Lutecia に由来するため、ドイツ民族が認めるはずがなかった。
しかし第二次大戦でのナチスドイツの敗北で、独自の元素名も使用できなくなった。
Cp が使えないとしても、Copernicium は Cn と略すこともできるから大丈夫なようだ。
ちなみに Co は、既にコバルト(Cobalt)の元素記号なので使えない。
自然科学の話だが、裏には様々な人間模様があるので、こちらの方が面白いかもしれない。
追記(8月5日):
IUPACのプレスリリースが7月20日に出ていた。
http://www.iupac.org/web/nt/2009-07-21_Naming_Element_112
Copernicium という名称と Cp という元素記号について、無機化学部会が検討して素案を提出する。
その素案を発見者と協議した後、パブリックコメントを5か月間募るそうだ。
正式決定は来年になるのだろう。
追記(12月19日):
正式なプレスリリースは出ていないが、既に周期表と原子量表に追加されていた。
元素記号は 「Cn」 であり、ホーフマン教授が提案した 「Cp」 ではなかった。
http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/AtWt/table.html (周期表)
http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/AtWt/ (原子量表)
一応、「112番元素」 としては確認済みなので、登録されていると言ってもよい。
ただ、「Copernicium」 という元素名がまだ登録されていない。
2010年1月のプレスリリースを待ちたい。
最初に提案された元素記号 「Cp」 は、Cassiopeium で使われていたから避けた。
有機金属化学ではシクロペンタジエニル(cyclopentadienyl)を Cp と略記するが、これは無関係だ。
こういった背景説明も、プレスリリースには出ることだろう。
追記(2010年02月07日):
Nature Chemistry に、ホーフマン教授が記事を書いている。
有料記事なので、会社でダウンロードして読んだ。
http://www.nature.com/nchem/journal/v2/n2/full/nchem.533.html
(最終チェック・修正日 2010年02月07日)