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赤松農相会見:「ノルウェーとアイスランドは鯨肉輸出で利益を上げている」とは本当か?

国際捕鯨委員会(IWC)の将来に関する小作業部会から、商業捕鯨を限定的に認める議長提案が提出された。
4月22日のプレスリリースと、レポートは次の通り。
www.iwcoffice.org/_documents/commission/IWC62docs/press%20release%2022-04-10.pdf
www.iwcoffice.org/_documents/commission/IWC62docs/62-7.pdf
(話題となっている捕獲枠は、15ページの Table 4 を参照。)

日本に関する部分や、反捕鯨団体の声明については、報道がたくさん出ているので、ここでは補足しない。
(追記:議長提案への批判に対して、提案内容を再度説明するプレスリリースが出ている。
www.iwcoffice.org/_documents/commission/future/RevisedPressReleaseMay10.pdf

私の立場は、「科学研究を隠れ蓑にした調査捕鯨に反対」であって、「管理された商業捕鯨」は容認する。
私が会員のWWFジャパンは、WWFインターナショナルとは少し異なり、持続可能な捕鯨は容認している。

とにかく、クジラを殺すために条約の恣意的解釈をしている調査捕鯨は、決してまともな科学研究ではない。
調査捕鯨に毎年12億円も使うのではなく、沿岸小規模捕鯨やアイヌの伝統文化の保護に使ってほしい。
そして他の海産物産地の真似でもいいから、鯨料理を食べるツアーなどを企画すればいいし。
今回の提案では、新規に商業捕鯨を始められないから、韓国から観光客も来るだろう。


海外報道も多数あるが、ここではまず、ドイツの SPIEGEL ONLINE の記事を主体にメモしておこう。
www.spiegel.de/wissenschaft/natur/0,1518,690932,00.html

ノルウェーには年600頭のミンククジラ捕獲枠を認めるが、これは最近10年間の平均捕獲数より多い。
ノルウェー政府が決めた今年の捕獲枠は、昨年の未消化分を繰り越した 1,286 頭となっているが、昨年の捕獲実績は 485 頭と 600 頭に満たないため、ノルウェーにしてみれば、現実的な数字を確保できたと言える。

日本の捕獲枠合計がほぼ半減、ナガスクジラにいたっては5分の1なのに、ノルウェーは優遇されたのか。
日本は5年後にさらに半分にまで減らされるのに、ノルウェーは10年間同じ捕獲枠だ。
ただ、5年後には同様に中間評価をするので、ここで減るという可能性は否定できないが。
この捕獲枠設定の根拠について、南極海と異なり北大西洋では、クジラの資源量の推定精度が高いためであると説明されている。
しばらくすれば、より詳細な情報が出てくるかもしれない。

まあ提案には、南極海サンクチュアリの設定も入っているので、最終的に南極海捕鯨を禁止することは覚悟することになる。
突然ゼロにするのではなく、希望より少ない頭数ではあっても10年間維持できるのだから、妥協可能な数かもしれない。
国際的合意を目指すならば、二歩下がって一歩進む、という姿勢も必要な場合がある。

ただしノルウェー側は慎重な姿勢で、「これはあくまで提案であって決定事項ではない」、としている。
それは、IWC加盟国のどの国も、この提案を好まないから。


アイスランドにも10年間、ミンククジラ80頭、ナガスクジラ80頭の捕獲枠が認められるという。
アイスランドの報道は、例えば次の通り。
www.mbl.is/mm/frettir/erlent/2010/04/23/ny_tillaga_um_hvalveidar_vekur_hord_vidbrogd/

去年の実績はミンククジラ79頭、ナガスクジラ125頭。
ただし今年はどちらも増やすので、この提案では半分未満になる。

しかも、ナガスクジラはアイスランド国内では需要がないそうで、全て日本への輸出用である。
議長提案によって国際取引の禁止が実現すると、ナガスクジラの捕獲枠を設定する意味はなくなる。
そしてミンククジラ80頭は、国内需要をまかなえる程度の量なので、日本への輸出は無理かもしれない。
ノルウェーの業者も、鯨肉が余ったら日本に輸出しようと考えているが、これも無理だろう。
アイスランドから日本にナガスクジラ肉が入らないと、高級料亭などでは開店休業になるかもしれない。

すると議長提案とは、先住民生存捕鯨と区別しない管理で、国内・地域内流通のみに統一しようということか。
あるいは、商業捕鯨の限定的容認ではなく、国際取引禁止で捕鯨国をじわじわ弱体化させようということか。


ところで日本語報道では、ノルウェーやアイスランドの捕獲枠について、おおざっぱな記載しかない。
特にアイスランドに関しては、二種類のクジラを捕獲するのに、合計数のみの報道が多い。
それに、日本は5年後に減らされるのに対して、両国は10年間同じという記載もまだ見ていない。

加えてザトウクジラについての説明がない。
日本が要求している南極海でのザトウクジラ捕獲枠は認められていない。
ただ、グリーンランドは毎年10頭の捕獲枠が認められている。
IWC科学委員会がザトウクジラの捕獲を認める報告書を出したので、これを反映したわけだ。

グリーンランドの報道では、外交を代行するデンマークが、議長提案を支持するとあった。
デンマークはこれまでも、グリーンランドの先住民生存捕鯨の拡大を支持してきた。
(注:記事の写真は日本の南極海調査捕鯨のものだが、写真の提供がノルウェーの通信社のためか、キャプションでは「ノルウェーは捕鯨国の一つ」とある。捕鯨の様子が写っていればどうでもいいのか。)
sermitsiaq.gl/indland/article115943.ece

このグリーンランドの捕獲枠を認めたくない反捕鯨国は、この点で同意できずに提案を潰すだろう。
つまり、日本側が提案を受け入れるかどうか意思決定しなくても、そのまま採決保留になるだろう。


関連して、赤松農林水産大臣が会見で、ノルウェーとアイスランドが輸出で利益を上げていると言っていた。
www.maff.go.jp/j/press-conf/min/100423.html
------------------------------
【ただ、アイスランドやノルウェーは、ポイントのところは、捕獲されたクジラ製品については、国内消費に限るというのも、実は、条件についてまして、今の提案ではですよ、だから、ノルウェーとかアイスランドというのは、主に国内消費よりも、輸出をして利益を上げている国なものですから、そういうところは、たぶん、非常に厳しく対応してくるんじゃないのかなと、同じ捕鯨国であってもですね。日本は、それで構わないと思いますが、そういう二国については、そういうこともあるだろうと。】
------------------------------
流通量が減ることを心配しているのに、日本に既に輸出している国、または輸出を拡大しようとしている国に対して、
「日本はそれで構わない」 ということは、「輸入鯨肉はいらない」 という意味なのだろうか。

それに、「輸出をして利益を上げている」 と言っているが、それは本当だろうか。

確かにアイスランド政府は、捕鯨が経済活性化に効果があるという報告書を出しているが、輸出で利益を上げているという話は聞いていない。
日本に輸出したいという業者の発言はあるものの、現時点でミンククジラは国内消費のみで、2008年のナガスクジラ肉の日本への輸出は赤字だったという報告もある(これは反捕鯨の立場の人の計算であるが)。

ノルウェーも国内消費が中心だが、国内の鯨肉需要が停滞しているとのことで、フェロー諸島に輸出しようとしていた。
しかし、冷凍鯨肉がペットフード工場の倉庫に保管されていることが発覚して、食肉用としての輸出が認可されなかったことがある。
それに、2008年に日本に輸出した鯨肉は、細菌検査で不合格となり、流通しなかったと言われている(生食用として不合格で、加熱用として出荷された可能性は残っているが)。

農相の発言は、「両国は水産物の輸出が多い」 ということを言いたかったのかもしれないが、鯨肉の話をしているときに 「輸出をして利益を上げている」 とするのは、誤解を招くのではないだろうか。


次に、ノルウェーの鯨肉価格について考えてみよう。
ノルウェーの今年の鯨肉価格(入札価格)は、1kg当たり最低価格が 31.50 クローネ(約504円)に設定された。
www.rafisklaget.no/portal/page/portal/Rafisklaget

国内市場価格は約 100 クローネ(約 1,600円)になるようだから、日本での調査副産物卸売価格とあまり変わらない。

価格面では競合しないと思われるが、輸出仲介業者が国内販売価格よりも安値で日本に輸出することはないだろうし、輸送費や冷凍保管費などがかかる分、あまり儲からないように思える。

どういった統計資料を元に発言したのか、それにノルウェーとアイスランドの捕獲枠について言及がないことなど、疑問点をまとめて、農林水産省に問い合わせ中である。
(追記:5月14日までに何も回答はなかった。)


赤松大臣の発言でもう一つ残念なのは、アイヌの捕鯨復活について全く言及していないことである。
国立民族学博物館での共同研究で取り上げられているのに、ヤマトの商業捕鯨しか頭にないようだ。
先住民生存捕鯨として認めていれば、今回の議長提案でも捕獲枠の設定ができたはずなのに。
南極海サンクチュアリに同意する代わりに、アイヌの捕鯨を復活させてほしいものだ。


もしかすると水産庁・日本鯨類研究所は、議長提案が合意できないことを願っているかもしれない。
調査捕鯨ならば日本政府の許可だけで、クジラの種類も決められるし、いくらでも捕獲枠を上乗せできるから。
小規模沿岸捕鯨の復活を願っている零細捕鯨業者は、いつまで待てばいいのだろうか。

(最終チェック・修正日 2010年05月15日)

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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