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貴族出身議員のツー・グッテンベルク独国防大臣でもドクターの称号が欲しかったのか

ドイツ人が欲しがる肩書の一つに 「Dr.(ドクター・博士)」 がある。

ドイツ留学中、テレビニュースに出てくる政治家はほとんど 「Dr. ○○」 だったので、同僚
のドイツ人に質問すると、「政治学や歴史学などのドクターは、何か物語を少し書いて、楽してもらったものだ」 と、半分ばかにしていた。

引用したAFP日本語記事のように、貴族出身で人気のあるドイツのツー・グッテンベルク国防大臣もドクターの称号が欲しかったようだ。
www.afpbb.com/article/politics/2786250/6837159

【ドイツで最も人気の閣僚、カールテオドル・グッテンベルク(Karl-Theodor zu Guttenberg)国防相(39)は18日、2006年に執筆した博士論文の大半が盗用だったとの疑惑が報じられたことを受けて、一時的に博士号を返上すると発表した。

グッテンベルク国防相は記者団に対し、大学当局が盗用疑惑の調査を終えるまで、「一時的な、くりかえすが一時的な措置として」博士号を返上すると語った。

グッテンベルク氏は、「わたしの論文は盗作ではない」ものの「疑いなく、間違いが存在している」と認め、母校バイロイト大学による調査に積極的に協力することを約束した。…】

今のところ、博士論文盗用疑惑ということだが、ZDFのニュース番組 heute では、他人の記述とほぼ一致している部分を紹介し、単語を1つか2つほど変えているだけであることを明示していた。
自説の展開上必要であれば、引用文献として紹介し、それに反論したり、自説の補強をすればいいはずだ。
ところが、引用元をほとんど明記していないことが、他人の著作や論文を盗用して博士論文審査を受けた、という疑惑を呼んだ。
それに、連邦議会の学術関連の委員をしていたので、議会委託研究の報告書からも盗用していると指摘されている。

国防省の記者会見に現れなかったため、記者が全員退席してしまい、結局は数台のカメラに向かって声明を読むことになった。
国防省のサイトに掲載された大臣の声明文は次の通りで、YouTube の画像もついている。
www.bmvg.de/portal/a/bmvg/kcxml/04_Sj9SPykssy0xPLMnMz0vM0Y_QjzKLd4k3cQsESUGY5vqRMLGglFR9b31fj_zcVP0A_YLciHJHR0VFAFBC9EY!/delta/base64xml/L2dJQSEvUUt3QS80SVVFLzZfRF80Skwy

ドイツのメディアは、アフガニスタンでのドイツ連邦軍兵士死亡のニュースと共に、国防相の学位スキャンダルも大きく取り上げている。
例えば、ZEIT Online の記事を引用しておこう。
www.zeit.de/politik/deutschland/2011-02/guttenberg-krisenmanagement

また、次の SPIEGEL Online では、オリジナル論文からの盗用疑惑部分を例示している。
赤い下向き三角形の下にあるカーソル部分を左右に移動すると、オリジナルから表現を変えた部分が徐々にハイライト表示されるので、比較しやすいだろう。
www.spiegel.de/flash/flash-25296.html

さらに 「GuttenPlag Wiki」 というサイトが出現し、盗用疑惑のある部分がページごとに、オリジナル論文と並べてリストアップされている。
de.guttenplag.wikia.com/wiki/Plagiate

ツー・グッテンベルク大臣の個人HPでは、この博士号一時返上宣言後は、名前の前から 「Dr.」 を消しているが、経歴では博士号を取得したという記載をそのままにしている。
「最優秀
成績 を意味するラテン語の "summa cum laude" を自慢げに載せているのも、一般家庭出身博士の私から見れば、貴族の嫌味に感じてしまう。
www.zuguttenberg.de/index.php

Biographie (bis 2002):

Studium der Rechts- und Politikwissenschaften, Prädikatsexamen, Promotion im Jahr 2007 zum jur. (summa cum laude)
…】

(追記1:2月21日に大臣は、バイロイト大学に博士号の返上を正式に申し出た。
バイロイト大学では22日付のプレスリリースで、その申し出を公表している。
www.uni-bayreuth.de/039-036-gutten.pdf

追記2:2月23日付でバイロイト大学は、正式に博士号はく奪を決定した。
www.uni-bayreuth.de/presse/info/2011/040-037-gutten.pdf (大学のプレスリリース:ドイツ語)
www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,747358,00.html (SPIEGEL Online)

そのため、ツー・グッテンベルク大臣の個人HPの経歴から、博士号取得の記載は消去されている。)


ドイツ連邦国防省のサイトでも、大臣の経歴紹介のところで、博士号取得について消し忘れている。
ただ、まだバイロイト大学での再審査中なので、消し忘れというのは言いすぎかもしれないが。
www.bmvg.de/portal/a/bmvg/kcxml/04_Sj9SPykssy0xPLMnMz0vM0Y_QjzKLd4k38TEGSYGZbub6kTCxoJRUfV-P_NxUfW_9AP2C3IhyR0dFRQAf14No/delta/base64xml/L3dJdyEvd0ZNQUFzQUMvNElVRS82X0RfNEw4

【… Anschließend studierte er Rechts- und Politikwissenschaften in Bayreuth und München und wurde 2007 zum Doktor der Rechtswissenschaft (Dr. jur.) promoviert.  …】

(追記(2月26日):上記と同様の理由で、博士号を取得したという部分が削除され、単にバイロイト大学とミュンヘン大学で法学と政治学を学んだだけになっている。)


他の政治家もたいてい博士号を持っており、アンゲラ・メルケル首相は物理学で博士号を取得した。
理系だから信用するというわけでもないが、政治家になる前に東ドイツ科学アカデミーの研究所研究員だったので信じたい。
www.bundeskanzlerin.de/Webs/BK/De/Angela-Merkel/Biografie/biografie.html

そうは言っても、「磁場中で立体選択合成が可能」 という再現不能な実験で博士号を取り、裁判沙汰になったドイツ人もいるので、実験系の理系博士だから大丈夫ということはない。

それにしても、姓に貴族出身を示す 「zu」 があり、「von」 と同様にドイツ人が欲しがるものを既に持っているのに、「Dr.」 までさらに付け加えようというのは欲張り過ぎだ。
または、一般家庭出身者でも博士号を持っているので、貴族の自分が持っていないのでは、くやしいと思っていたのかも。

ここは一度博士号をはく奪して、ドイツ基本法と連邦軍海外派遣の関係について、新たに博士論文を書けばいいと思う。


ところでドイツ語好きには気になるのだが、大臣の姓は zu も含めるので、できれば 「ツー・グッテンベルク」 と書いてほしい。
ただ、ドイツ政府の公式文書では 「zu Guttenberg」 としているが、メディアでは 「Guttenberg」 と略しただけだったり、両方混在している記事もある。
後で調べてみようと思うが、カラヤンやベートーベンと同様に、有名人なら略すのかもしれない。

追記:
zu Guttenberg 大臣(通称コピペ大臣)の本名は実に長いものである。
「Karl Theodor Maria Nikolaus Johann Jacob Philipp Franz Joseph Sylvester Freiherr von und zu Guttenberg

これを短くして 「Karl-Theodor zu Guttenberg」 にしているので、「zu」 を付けるかどうかは、どうでもよいのかもしれない。

(最終チェック・修正日 2011年02月26日)

テーマ : 政治家
ジャンル : 政治・経済

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ツー・グッテンベルク独国防相が正式に博士号返上

貴族出身のツー・グッテンベルク独国防相は、バイロイト大学で2007年に取得した博士号を正式に返上した。 次に引用したAFP記事にあるように、21日に大学に返上を申し出て、大学側も博士号はく奪を...

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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