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「日経サイエンス」2011年6月号の震災特集記事2本が無料公開中

「日経サイエンス」 は大学生になってから読み初め、奨学金がもらえた大学院生のときには定期購読していた。
ただし留学から帰国後は、家計が苦しい時期があるなど、定期購読雑誌の見直しをして、気になる記事があるときだけ購入する方針に変更した。

そして最新号の2011年6月号では、日本語版ということもあり、東日本大震災の特集 「マグニチュード9.0の衝撃」 を組んでいる。
給料日になったら買おうかと思っていたが、一番読みたい記事2本が無料でダウンロードできるので、得をした気分だ。
www.nikkei-science.com/

ダウンロードできる記事のタイトルは次の通りで、それぞれPDFファイルで提供されている。

・「東日本大震災 鳴らされていた警鐘」(中島林彦(編集部))
www.nikkei-science.com/pdf/201106_024.pdf

・「科学者の思考停止が惨事を生んだ」(滝 順一(日本経済新聞論説委員))
www.nikkei-science.com/pdf/201106_040.pdf

目次を見ると、他にも興味ある記事があるので、一度書店で立ち読みしてから、資料としての購入を考えよう。
「予測できない放射線リスク」
「余震はいつ止むのか?」
「立ち直る力のメカニズム」


一つ目の記事、「鳴らされていた警鐘」 では、平安時代の貞観地震など、過去の巨大地震と津波の痕跡に関する調査研究を紹介している。
そして論文や学会発表などで何度も警鐘を鳴らしたが、国の対策は今年4月に始める予定で、結局は間に合わなかったと説明している。
加えて、誘発地震や火山の噴火など、今後予測される災害についても、過去の事例を参考に解説している。

【…産総研による東北の太平洋沿岸各地の地質調査では,貞観津波を含め,古墳時代(400年頃)から室町時代(1500年頃)にかけて少なくとも4回,かなりの規模の津波が起きていたことも判明した。そうしたことから産総研の研究グループは,東北から関東にかけての沿岸を500 ~ 1000年の間隔で大津波が襲っていること,その周期性から考えれば,近い将来,同様の大地震と大津波が再来する恐れがあることを数年前から論文や学会で発表していた。東北大学や大阪市立大学の研究者も近い将来の大津波の再来に警鐘を鳴らしていた。

…政府の地震調査研究推進本部も今年4月,国が防災対策を立てるための基礎データである「地震活動の長期評価」に貞観地震の研究結果を反映する予定で,宮城県や福島県などへの連絡を進めていた。
 しかし,地震は待ってくれなかった。…

…今回の東日本大地震が貞観地震の再来だとすれば,貞観地震発生後の状況を知ることは,今後の推移を考える上で1つの手がかりになる。貞観地震が記された『日本三代実録』をひもとくと,貞観地震の9年後に関東で大地震が,そしてそのさらに9年後に南海地震が起きている。
 また貞観地震から2年後,東北地方の日本海側にある鳥海山が噴火した。火山活動は地下の応力バランスの変化とも関連するので,貞観地震が何らかの影響を及ぼした可能性がある。…】


二つ目の記事、「科学者の思考停止が惨事を生んだ」 では、福島第一原発事故は、「科学の失敗なのか?」 という問いから始まっている。

【…訓練は,送電線の故障で福島第1原発が外部電源を喪失したと想定,非常用ディーゼル発電機の駆動にも失敗して,冷却機能を失った原子炉内で核燃料棒が損傷し放射性物質が圧力容器から漏れ出すというシナリオで実施された。このことは,原発の全電源喪失という事態が関係者にとって,決して想定外ではなかったことを物語る。
 訓練のシナリオは,事故発生2日目に非常用ディーゼルの一部が復旧して原子炉への注水が再開,放射性物質も格納容器内からは漏れず,事故は収束することになっている

 停電や取水不能も想定外ではなかった。想定してはいたのだが,想定の程度が甘かった。停電や取水不能が長く続くとは考えていなかった。しかし,現実には,冷却不足の事態が連鎖的に爆発や火災などを引き起こし,事故が拡大,複雑化して手がつけられなくなったのだ。
 これは「想定内」か「想定外」かという単純な議論ではない。原発の設計や安全管理にかかわる人たちが自らの想定のうえにたって,どこまで深く考え抜いたか,危機への想像力の問題のように思える。あえていえば,危機感の乏しさの問題かもしれない。

 科学技術が誤るとき,2つのパターンがありそうだ。ひとつは,科学が政策推進の道具に利用され,科学的事実に基づく健全な議論ができない場合だ。日本の科学研究の多くは国家資金で支えられる。政策協力への圧力や偏りが人知れず研究の現場に浸透する。政策協力が一義的にいけないことだとは思わないが,健全な議論を阻んだり安全確保が甘くなったりしては,結果として国民の信頼を裏切ることになる。
 もうひとつは,扱うのが非常に困難で,不確実性がつきまとう問題について,科学技術が社会的なコミットメント(約束)をする場合だ。科学者の探求心は常に,未踏で不確実性が高い難問への挑戦を志向する。そうした心意気は後押ししたいが,成果の社会還元を安請け合いすると,不確実性の高い情報を社会に与え判断を誤らせかねない。これも結果的に国民の信任を失う。
 では不確実なことは何も公表しないのがよいのか。それも正しくない。社会と科学の情報伝達を工夫し,社会が科学研究を賢く利用する道を科学者と市民がともに模索する必要がある。震災であらわになった判断の誤りやおごりを,科学技術全体への不信にしてはならない。そのために科学者・技術者がいま何をするかが問われている。】


今回の特集では地震対策や原発事故について問うているが、私が関わる医薬品開発でも副作用問題など、不確実性や社会への情報提供という観点から、科学者の役割について再考すべきだと感じている。


また、岩波書店の雑誌 「世界」 5月号(4月8日発売)の特集は、「東日本大震災・原発災害 特別編集 生きよう!」 である。
6月号でも関連特集は続くので、1月号 「原子力復興という危険な夢」 と共に、資料として残しておきたい。

テーマ : 東北地方太平洋沖地震
ジャンル : ニュース

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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