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沿岸調査捕鯨の実施が被災地復興に役立つのか?

いつもなら4月下旬から6月上旬まで、宮城県鮎川沖での沿岸調査捕鯨(ミンククジラ捕獲)が行われている。
調査範囲は三陸沖とも呼ばれるが、「クジラ食害論」 を信じる漁業関係者の要望で仙台湾内で行うこともあった。
「ミンククジラが何を食べているか」 を、バカの一つ覚えのように、毎年継続実施している。

ただし今年は東日本大震災の影響で、基地となる鮎川が使えないため、釧路沖での調査に変更となった。
釧路沖の調査は秋にのみ行っていたため、今回の春の調査は初めてとなる。
水産庁のプレスリリースでは、春と秋の結果を比較することで新しいデータが得られ、科学的意義があることのように宣伝している。
www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/110419.html

【「第二期北西太平洋鯨類捕獲調査計画(JARPN II)」は、鯨類の接餌生態をより詳細に解明し、海洋生態系の総合的管理に貢献することを大きな目的としていますが、本調査では、鯨類による捕食が漁業資源に与える影響評価に関するデータを収集するため、3隻の標本採集船が釧路港を中心とした半径50マイル以内の海域でミンククジラの捕獲調査を行い、胃内容物の餌生物種の同定、内容物量の測定、生物学的情報の収集等が行われます。

調査結果からは、春季の釧路沖でのミンククジラの餌生物や餌の捕食量が明らかとなり、秋季の釧路沖での調査結果と比較することにより、季節によるミンククジラの食性の変化についての科学的知見が得られることが期待されます。】

突然このような科学的意義を宣伝するということは、今までは季節による食性変化を知りたかったわけではなかったわけだ。
単なる予算の消化のため、捕鯨文化を持つという地元に金を落とす公共事業というだけだ。

しかも報道によれば、鮎川地区の捕鯨関係者の雇用対策になるとまで言っているそうだ。
約3億円の予算を補正予算に奪われたくないために、そんな理由をあれこれと付けているだけだと、私は考えている。

例えば、釧路新聞の報道は次の通り。
www.news-kushiro.jp/news/20110421/201104213.html

【例年春に宮城県沖で実施されていた調査捕鯨が、東日本大震災の影響で今年は25日から釧路沖で行われる。被災した同県石巻市・鮎川地区の捕鯨業者も参加する予定で、釧路市の関係者も「少しでも被災者の支援になれば」と調査の実施を歓迎している。沿岸海域での調査捕鯨は、鯨類の捕食が漁業資源に与える影響を調べるもので、毎年4-6月に同鮎川沖、9、10月に釧路沖で実施されている。東日本震災で石巻市も大きな被害を受けたため、今年は同海域での調査を断念。秋に調査している釧路沖で春の調査も行うことになった。 】

北海道新聞の記事中では、鮎川地区の捕鯨関係者20人を雇用すると書かれている。
www.hokkaido-np.co.jp/news/agriculture/287221.html

【…鮎川地区は100年以上の歴史がある国内有数の捕鯨拠点だが、震災で処理場や加工施設、小型捕鯨船2隻も破損。このため、和歌山、千葉両県から捕鯨船3隻を回し、3隻の乗組員のほかに鮎川地区の捕鯨会社社員ら約20人を雇用する。海上での調査に携わるほか、釧路港で解体や加工を担う予定だ。】

確かに雇用される20人とその家族は安心し、そして調査捕鯨副産物の販売の他、鮎川地区でも鯨肉が配布されるだろうから、特定の人たちにとっては重要なことだとは理解できる。

しかし、この調査で使われる約3億円は、他の水産関係予算と同様に一度白紙に戻して、補正予算として付け替えるべきではないだろうか。
漁港の復旧工事と、通常の漁業の再開の方が、ミンククジラの食性研究よりも優先されるのではないか。
北西太平洋と南極海での両方の調査を3年くらい停止してでも、養殖も含めた一般的な漁業の復興が先ではないか。
それでもクジラを殺す調査が毎年不可欠で、なぜ優先すべきなのかを、三陸の漁業関係者に説明してほしいものだ。

追記(5月1日):
報道によると、この釧路沖での調査捕鯨には、鮎川のある石巻市から28人が派遣されている。
その中には、初めて捕鯨船に乗るという、震災で失業した人もいるそうだ。
毎日新聞の記事は次の通り。
mainichi.jp/hokkaido/shakai/news/20110426ddr041040003000c.html

【例年、宮城県石巻市の鮎川港を拠点にしていたミンククジラの沿岸調査捕鯨が、東日本大震災の影響で今春は北海道の釧路港に場所を移して始まる。捕獲と解体に携わる47人のうち、約6割の28人は古里の復興を期して働く石巻の関係者だ。震災で職を失い、捕鯨船乗組員として第二の人生をスタートさせる被災者もいる

そのうちの1隻「正和丸」(15・2トン)に乗り込む男性(41)は鮎川の元鮮魚店主。捕鯨は初めての仕事だ。被災で収入が断たれたところ、地元の「鮎川捕鯨」社員で今回の現場責任者を務める奧海良悦さん(70)から「うちで働いて、生活を立て直さないか」と声をかけられた。

40年以上、捕鯨船で世界の海を回っていた奧海さんは、今回の調査捕鯨について「技術の継承と陸上の生活を守ることが大切」と語る。鮎川捕鯨の伊藤信之営業課長(48)は「必ず再開する決意で捕鯨の一ページを作りたい。お父さんは、こういうふうに震災と闘ったんだぞ、と言えるように」と意気込む。】

あれ? 調査捕鯨の目的は、「クジラが何を食べているのか」 のはずだったのに、「技術の継承と陸上の生活を守る」 だなんて。
うっかり本音をしゃべったようだが、これでは疑似商業捕鯨と言われても仕方がない。


また、同じ石巻市では、カキの養殖再開を目指しているが、こちらはボランティアによる復旧作業に頼っている。
国策の調査捕鯨とは雲泥の差である。
朝日新聞の記事は次の通り。
www.asahi.com/national/update/0430/TKY201104300465.html

【津波の被害が大きかった宮城県・牡鹿半島にある小網倉浜、給分浜、小渕浜の3集落(石巻市)で30日、ボランティア約250人が内陸に散乱したカキ養殖用のブイなど漁具の回収にあたった。約4時間半でブイ2千個を集めた。

がれきが散乱するなか、ボランティアは一列に並んでブイをリレー方式で手渡しして運び、漁港近くの空き地に集めた。カキ生産者の亀山長作さん(58)は「未来が見えないから力が入らなかったが、浜が片付くとやる気が出てくる」と話した。】


追記(5月14日):
5月4日に捕獲したメスのミンククジラ1頭から、肉10kgのサンプルを取り、放射性物質検査を行った。
ヨウ素とセシウムの放射性同位体は、検出限界未満だったそうだ。
北海道新聞の記事は次の通り。
www.hokkaido-np.co.jp/news/agriculture/291339.html

【全国の捕鯨業者でつくる「地域捕鯨推進協会」は9日、釧路沖の調査捕鯨で今季初水揚げしたミンククジラの肉の放射性物質を検査した結果、放射性ヨウ素、同セシウムともに検出されなかったと発表した。

検体は4日に釧路港の南西29キロ沖で水揚げしたメス。約10キログラムの肉のサンプルを独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所(横浜市)に送り検査した。放射性物質が検出されなかったため、このクジラの肉は調査の副産物として市場に流通する。】

実施団体が異なるものの、結局は市場で販売するために、原発事故の影響が少ないと予想される釧路沖に変更して捕鯨をしたわけだ。
つまり、学術調査と言いながら、結局は鯨肉販売を主目的とする 「疑似商業捕鯨」 なのだ。

カツオやサンマなど様々な魚種については、放射性物質の影響調査を定期的に実施するのに対して、なぜか調査捕鯨だけは、異なる研究コンセプトで行われる。
ミンククジラも回遊性なのだから、宮城県沖や銚子沖での原発事故直後のデータが必要となる。
もう既に事故から2か月も経過しているが、今からでも遅くないので、比較データの欠落を埋めるためにも、捕獲計画の臨機応変な修正を望みたい。

(最終チェック・修正日 2011年05月14日)


テーマ : 東北地方太平洋沖地震
ジャンル : ニュース

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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