fc2ブログ

調査捕鯨の生鯨肉を拒否する石巻市はアイスランド産ナガスクジラ肉は受け入れていたのに

東日本大震災によって、捕鯨基地の一つである石巻市・鮎川地区も被害を受けた。
そのため、鮎川を拠点として今の時期に実施される三陸沖調査捕鯨は、今年は釧路沖へと場所を変えて行われている。

調査捕鯨の予算を復興補正予算に変更せず、当初の予定通りに使おうとすることが、鮎川の復興につながるのか疑問が残る。
捕鯨関係者の雇用維持の他、被災地から新規に数名が雇用されたが、この臨時の短期雇用に意味があるのだろうか。

そして、釧路沖で捕獲されたミンククジラ肉(生肉)を石巻市に救援物資として送ろうとしたら、昨年のような食中毒事故の再発を恐れた石巻市が受け取り拒否を決定した。
現在の衛生状態と避難住民の健康状態では、生刺身として食べた場合にリスクが高いそうだが、それなら加熱用にすればいいのに。

毎日新聞の記事は次の通り。
mainichi.jp/area/miyagi/news/20110529ddlk04040040000c.html

東日本大震災:救援物資、石巻市が鯨肉拒む 「食中毒になりかねない」 /宮城

東日本大震災で被災した石巻市牡鹿地区住民を励まそうと、日本小型捕鯨協会(東京)が同地区の避難所に生鯨肉を送ったところ、市が「食中毒の原因になりかねない」として、28日に配達をストップさせたことがわかった。昨年9月に市が同地区で生鯨肉を販売した際、集団食中毒が発生したこともあり、止めたらしい。一方、鯨肉を楽しみにしていた避難住民はがっかりした様子だった。

市産業部は「衛生面でも、避難所で生鯨肉を食べることは問題。長い避難所生活で抵抗力が弱っているお年寄りが食中毒になる恐れが高い」と配達を止めさせた理由を語った。

市牡鹿保健福祉センターに避難している土屋京子さん(57)は「送り主の善意を無視している」。自宅が津波で全壊した遠藤幸男さん(60)は「生食がだめなら加熱処理すればよいのに」と市の対応を疑問視する。

日本小型捕鯨協会の木村親生事務局長は「残念だが無理に押しつけるわけにはいかない。楽しみに待っていてくれた地域の人たちに心苦しい」と戸惑っていた。】

とは言いながら、5月の連休中に750kgのアイスランド産ナガスクジラ肉(冷凍)が炊き出しに使われた時は、煮込んだ鯨肉を使ったうま煮丼や竜田揚げ丼の他、生刺身も提供されていた。
この時は民間企業が自前で提供したから生刺身も黙認したが、今回は国の予算で行われる調査捕鯨の肉だから、行政側の責任が問われるかもしれないので、拒否したのかもしれない。
gendai.net/articles/view/kenko/130268
www.tweetdeck.com/twitter/nhk_kabun/~3Mowr

不定期ではあるがアイスランドの輸出統計で、冷凍鯨肉と、その他冷凍鯨肉製品について、日本への輸出状況を確認している。もし関心のある人は、まずは次のサイト(アイスランド語)にアクセスしてほしい。www.hagstofa.is/temp/Dialog/varval.asp一番左の品目番号では、 02084001 - Fryst hvalkjöt 「冷凍鯨肉」、02084002 - Aðrar frystar hvalaafur
アイスランドの今年初のナガスクジラ肉輸出は3月の震災後に約290トン



この矛盾については、どこのメディアも取り上げていないのは不思議だ。
まあ、アイスランド産ナガスクジラ肉は、輸入通関時点で細菌検査をしているので、生刺身にしても安心だったのだろう。

今回の調査捕鯨の場合、釧路で解体した直後に箱詰めされているし、食用ならば細菌検査をしているはずなので判断できるはずだが、毎日新聞の記事からはわからない。
石巻市の保健所などが事前にサンプルを入手して細菌検査を行い、合格した場合に救援物資として受け入れるという根回しをしておけば、このような残念な結果にはならなかっただろう。


話は変わるが、調査捕鯨の本来の目的を考えると、海の食物連鎖と放射性物質汚染の関係を調査する絶好の機会を逃している。
魚介類や海底土壌については、水産庁などが調査船を出して研究を始めたが、クジラでの蓄積状況のデータが欠落する。

三陸沖で捕獲後に鮎川で解体できないのであれば、臨時で救援物資を運んだ日新丸をそのまま使えばいいのに。
そして60頭の捕獲予定頭数にこだわらず、牡鹿半島から銚子沖までの範囲で、餌となる魚と共に分析することが、新しい研究につながるはずだ。

こういった非常事態には、臨機応変に研究テーマを変えるのが研究者としての役割を果たすことではないか。
「クジラが何を食べているのかな?」 という無意味な研究はすぐにやめて、新しいテーマに挑戦してほしい。

もしも仙台湾で捕獲して、鯨肉からセシウム137などが検出されると売れないから、調査費用の補充ができなくなる。
やはり調査捕鯨は科学ではなく、鯨肉を売ることを前提とした、疑似商業捕鯨なのだ。


追記(6月3日):
クジラ・イルカ保護団体のWDCSが、毎日新聞の記事を引用して、「汚染鯨肉の可能性に対する不安」 という表現をしている。
www.wdcs.org/news.php

この英訳記事は謝辞にあるように、Animal Welfare Institute が翻訳提供したとのことだ。
毎日新聞が翻訳して英字新聞に掲載しなくても、こういった団体が日本の情報も探し出して共有している。
この団体のHPと、捕鯨に関する解説ページは次の通りで、反捕鯨団体として認識してよさそうだ。。
www.awionline.org/
www.awionline.org/ht/d/sp/i/716/pid/716/cat_id/697/cids/697

追記(6月18日):
6月10日に終了した釧路沖沿岸での捕獲調査は、濃霧などの悪天候の影響もあり、捕獲頭数は17頭にとどまった。
去年に比べて今年は、5月に霧が多かったので、これは予定外だったのかもしれない。
疑似商業捕鯨をしている調査捕鯨としては、17頭での損益が気になるところだが、情報公開されるだろうか。
www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/110614.html
mainichi.jp/hokkaido/shakai/news/20110615ddlk01040246000c.html

セシウム137の検査は6頭で行われ、そのうち2頭から、それぞれ 31 Bq/kg と 24.3 Bq/kg の値が検出された
水産庁の発表は次の通りだが、6月分に 24.3 Bq/kg の記載がないため、今後追加発表されるのだろう。
www.jfa.maff.go.jp/e/inspection/index.html
www.jfa.maff.go.jp/e/inspection/pdf/201105_kekka_en.pdf

反捕鯨団体や反捕鯨国のメディアの一部には、「お茶の次はクジラの汚染だ」 や、「長生きするクジラの将来が心配」、「汚染鯨肉を食べてもいいのか」 などといった、センセーショナルな表現をしているところもあった。

ただし、通常の生活をしている人が食品から取り込む放射性物質の方が、鯨肉の 31 Bg/kg よりも多いという事実は、あまり報道されていない。
鯨肉を一度に1kgも食べる人はいないだろうし、この値を気にするよりも、今の季節は食中毒に注意した方が賢明だろう。

(最終チェック・修正日 2011年06月18日)

テーマ : 食に関するニュース
ジャンル : ニュース

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

FC2カウンター
カテゴリ
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR