細菌は3万年前に既に抗生物質耐性遺伝子を持っていた

1929年にフレミングが発見した新規物質ペニシリンは、約70年前に初の抗生物質として実用化された。
この功績を称えて、1945年のノーベル医学生理学賞が、フレミング、フローリー、チェインに授与された。
www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1945/

ペニシリンの実用化により、感染症は撲滅されるものと期待されたが、しばらくして耐性菌が出現した。
そして、この耐性菌と戦うために、新規構造の抗生物質が次々に開発され、臨床現場に大量投入された。
一時は耐性菌を食い止めることができても、その
細菌は新しい抗生物質に対しても、耐性をやがては獲得する。
そのため現在まで、新規化合物の開発と耐性菌の発生という、いたちごっこが続いている。

今ではMRSAなどの院内感染による死亡者が増えており、病院に入院したために、逆に命を落とすことになった患者が増えているくらいだ。

中学生のときに読んでいた「科学朝日」という雑誌で、安易な抗生物質の使い過ぎが耐性菌を増やしている、という警告記事を知った。
大学院時代に傷口が膿んだとき、その日の担当医師からは、細菌培養検査結果が出るまでは念のために高性能の新しい抗菌剤を服用する、という治療方針が説明された。
その抗生物質について調べてみると、抗菌スペクトルは幅広く、黄色ブドウ球菌などにも効果があることを知った。
数日後に出た検査結果では、危険な細菌がいないことが判明したが、その日の担当医師(皮膚科部長)は同じ処方箋を書いた。

安易な抗生物質の使用に反対の立場である私は、「検査結果から、これほど高性能の抗菌剤は不要ではないでしょうか。」と質問した。
医師は、「一体どういう意味なのか。」と聞いてきたので、「これほど幅広い抗菌スペクトルの薬はいらない。」と答えてやった。
すると
その医師は突然激怒して、「あんたは何を言っているんだ。」と怒鳴って、診察室から出て行ってしまった。
一人残された私は、それ以上何も説明を受けることもなく、皮膚科受付で受け取った書類を調剤室に提出した。
ところが、いつの間にか処方箋が書き換えられており、私の希望した一般的な抗菌剤になっていた。
学生の私の意見が気に入らなかったようだが、抗生物質の適正使用を実現できた。


そして昨日8月31日までは、人間が抗生物質を手にして大量使用したことが原因で、細菌が耐性を獲得したという説を信じていた。
しかし、Nature に掲載された論文では、
アラスカの約3万年前の永久凍土層から採取した細菌が、既に抗生物質耐性遺伝子を持っていたことが報告されている。
www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature10388.html

いつものように日本語報道がまだないため、英語報道として New York Times、ドイツ語報道として SPIEGEL Online と ZEIT Online の記事を引用しておく。
www.nytimes.com/2011/09/01/science/01gene.html
www.spiegel.de/wissenschaft/natur/0,1518,783155,00.html
www.zeit.de/wissen/2011-08/bakterien-resistenz-antibiotika

永久凍土層のボーリングコアサンプルは、アラスカ・ユーコン準州ドーソンシティの近くで採取された。
サンプルの採取時に、現在の耐性細菌が混入しないように、ボーリング装置を洗浄しながら実施している。

3万年前という年代の特定は、既に炭素14法で決まっているドーソンテフラという火山灰層の下から採取したことで確かだという。
また、洪水による撹乱の記録がないため、3万年前の細菌のDNAサンプルを取得する場所として適していた。

遺伝的多様性について検討したところ、現在使用されている抗菌剤のβ-ラクタムやテトラサイクリンに対する耐性遺伝子が既に存在していた。

解説記事でも指摘しているように、ペニシリンなどの抗生物質は、天然物として元々存在していたのだから、細菌やカビ類、そして植物との間で、昔から戦っていたわけで、耐性遺伝子を既に獲得していても不思議ではない。

つまり、人間が抗菌剤を使い始めてから細菌が突然変異したのではなく、元々持っていた遺伝子が目覚めたということになる。
この研究結果から、新規抗菌剤に対する耐性獲得が予想よりも速いことが説明できる。

耐性獲得が速いことに加えて、細菌同士がプラスミド交換を介して耐性遺伝子を拡散してしまうことも知られているのだから、この論文を読んだ研究者・医師たちが、抗菌剤の使い方をもう一度見直すきっかけとしてほしいものだ。

(最終チェック・修正日 2011年09月02日)

テーマ : 博物学・自然・生き物
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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