銀河系ハロー内で極端に金属量の少ない古い恒星がまた見つかった

現在の天体物理学の理論によると、宇宙誕生のビッグバンから数分後、宇宙に存在した元素の大半は水素とヘリウム、そして痕跡量のリチウムのみであった。
その後、大質量の恒星が誕生し、恒星内の核融合反応によって、リチウムより重い元素が次々と生成した。
ただし、安定な鉄が生成した時点で核融合反応は停止し、大質量星が超新星爆発をしたときに、それまでに恒星内で合成された元素が宇宙空間に飛び散り、同時に鉄よりも重い数多くの元素が生成する。

天文学では慣例として、水素とヘリウム以外の元素を「金属」と総称しており、炭素や窒素、酸素なども金属扱いとなる。
metallicity という英語の単語は、「(恒星の)金属含有量」という意味で使われる。

「金属」元素は恒星内の核融合反応と超新星爆発により生成したのだから、金属含有量が少ない恒星が見つかれば、それは逆に、初期宇宙の組成のまま誕生した古い星ということになる。

そんな古い星は、100億光年以上も離れている銀河でしか見つからないと思っていたが、我々の銀河系でもいくつか見つかっている。
2002年に発見された HE 0107-5240 の金属含有量は、太陽の20万分の1しかなく、しかも太陽よりも小さな低質量星であった。
www.astroarts.co.jp/news/2002/11/01metal_poor_star/index-j.shtml

ESO(ヨーロッパ南天天文台)では、このような金属をほとんど含まない候補天体(超金属欠乏星・低金属量星)の調査を継続しており、9月1日付けの科学誌 Nature に掲載された論文では、しし座で見つかった SDSS J102915+172927 の性質について報告している。

Nature のオンライン記事は有料なので、図書館などを利用してほしい(私は勤務先が電子ジャーナル契約をしているので読めた)。
または、ESOで論文の抜粋を公開しているので、以下のPDFファイルをダウンロードして参考にしてほしい。
www.nature.com/nature/journal/v477/n7362/full/nature10377.html (論文)
www.natureasia.com/japan/nature/updates/index.php (論文の紹介)
www.eso.org/public/news/eso1132/ (ESOのニュース)
www.eso.org/public/archives/releases/sciencepapers/eso1132/eso1132.pdf (論文の抜粋)

ESOが提供した画像の円グラフにあるように、恒星の元素構成は水素75%、ヘリウム25%で、リチウム以上の重い元素は痕跡量で、太陽の約20万分の1である。


この論文を紹介しているドイツ語記事2本と、英語のCBSニュースは次の通り(日本語報道は9月3日時点でもなし)。
www.spiegel.de/wissenschaft/weltall/0,1518,783820,00.html
www.astronews.com/news/artikel/2011/09/1109-001.shtml
www.cbsnews.com/stories/2011/08/31/scitech/main20100073.shtml

恒星の金属量 metallicity は記号 Z で示し、SDSS J102915+172927 では Z ≦6.9 x 10-7 である(上の円グラフでは%表示で < 0.00007%)。
この恒星が銀河ハロー内にあることは、スペクトル観測で CaII の吸収線から視線速度を決定して判明している。

大質量星は寿命が短く、初期宇宙の時期に既に超新星爆発をして消えてしまったと考えられている。
ただし、初期の元素構成を残している長寿命の低質量星が存在すれば、Z は 1.5 x 10-8 から 1.5 x 10-6 の範囲になると推測されていた(注:この論文で「低質量星」とは、太陽質量の 0.8 倍未満の恒星を指す)。

今回の低金属量星は理論上の範囲内にあり、炭素・窒素・酸素もほとんど蓄積されていない。
そして、リチウムが全く検出されないという、不可思議な恒星だと判明した。
リチウムが完全に消滅する条件について、金属量と温度との関係が理論的に指摘されており、今回の観測結果に合うそうだ。
また、ビックバン後のリチウム生成量について、理論の再検証も行われている最中である。

同様の低金属量の低質量星は、候補星の中から、5~50個程度見つかると予想されており、今後の観測結果が待たれる。
130億年ほどの年齢と推測されており、初期宇宙の状態を知るヒントになる天体だ。
暗い天体が多くて困難とは思われるが、なるべく多くの観測例を積み上げてほしいものだ。

テーマ : 星・宇宙
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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