妊娠10週目の妊婦血液検査で胎児がダウン症かどうか判別できる:障害者を排除する世界になるのか

何も隠すことではないので何度も書いているが、私の姉はダウン症で2級障害者と認定され、今年度は 788,900 円の障害年金を受給している。
障害認定の判断はダウン症だからであったが、実際にはこれに加えて、出産時の医療ミスによる軽度の小児麻痺様症状(はしを持ちにくいなど)も見られる。

戦争が終わって民主的憲法ができたが、農家に嫁いだ母は最初の妊娠が流産となり、「跡取りを産めない嫁はいらない」と責められ、父の両親から離婚するように言われたそうだ。
父と母は密かに家を出て、知人を頼って東北地方に移り住んだ。
しかし、その後も何度か流産し、やっと生まれた最初の子どもが障害を持っていたため、母は心中を考えたと言っていた。
そのとき本当に母が死を選んでいたら、私は生まれなかったのだ。


ドイツ留学での経験からも、日本では障害者への差別意識が強く残っていると再認識した。
姉が障害者という理由で小学校ではいじめに遭い、親戚からは姉が存在しないかのような扱いを受けた。
私が県内トップの進学校に入学したり、旧帝大に現役合格した後、ある人が母に、「障害者が生まれた家なのに無理しなくてもいいのに」と言ったそうだ。

10歳程度の知能・判断能力しかない姉だが、記憶力が良く、作業手順の遵守が確実で、リサイクルショップのレジ係を任されている。
姉が担当するレジは、閉店後の計算でこれまで一度も、1円の差異も発生していない。
独立行政法人高齢者・障害者雇用促進機構の面談では、正社員として勤務可能と言われ、体験就業を勧められたが断った。
今も日当1千円という低賃金で働いているが、好きな仕事場で働いていて楽しいのだから、このままにしておいてあげたい。


前置きが長くなったが、生まれてくる子どもがダウン症になるかどうかは、胎児の段階での出生前診断で判断可能だ。
また、体外受精の場合、受精卵がある程度分割した時点で染色体検査をして、異常の有無を判断できるのも事実だ。

先ほどは、ドイツの方が障害者への差別意識が日本よりも少ないことを書いたが、出生前診断で胎児の染色体異常が見つかり、ダウン症になると判明した場合、90%の妊婦が人工妊娠中絶を選択していることも事実だ。

羊水穿刺で胎児の細胞を採取する出生前診断が主に実施されているが、最近ドイツのバイオ会社 LifeCodexx社
親会社の GATC Biotech社と共に、、妊婦の血清DNAシークエンシング技術による診断方法を確立した。
www.lifecodexx.com/en/news.html
www.gatc-biotech.com/en/about-us/press/single-view/press-release/2011/06/28/article/successful-start-of-the-clinical-validation-study-of-the-non-invasive-prenatal-diagnostic-test-for.html

以下の論文で報告された手法を最新機器を利用して実用化し、胎児がダウン症になるかどうかを24時間以内に、簡単に判別できるそうだ。

www.bmj.com/content/342/bmj.c7401.full

そしてLifeCodexx社と GATC Biotech社は、早ければ今年末までに、このダウン症児簡便判定法で、出生前診断市場に参入することを決定した(ドイツの医師向け情報誌 Deutsches Ärzteblatt を参照)。
www.aerzteblatt.de/v4/archiv/artikel.asp

この出生前診断についてはドイツ国内でも意見が分かれており、母子にとっての前進と考える側と、障害者を排除するために利用されると懸念する側とが、倫理観の違いから論争を続けている。

8月22日の ZEIT Online で、このダウン症の出生前診断についての倫理論争が取り上げられている。
www.zeit.de/2011/34/M-Trisomie/komplettansicht

羊水穿刺は、羊水内に存在する胎児の細胞を直接採取できる利点はあるが、流産となるリスクがわずかだがある。
健康保険支払い記録によると、2009年にドイツでは3万1千件を超える羊水穿刺が行われ、そのうち100件が流産となった。
それに比べて、妊婦の血液から胎児のDNAを検出する新検査方法は、胎児に直接的影響がなく、より安全な検査方法だと宣伝されている。

ドイツ連邦教育研究省(BMBF)では過去に、ヒト21番染色体のゲノム解析プロジェクトを援助したことがある。
21番染色体の異常がダウン症と関連があるためか、今回の LifeCodexx社の研究に23万ユーロの助成金が投入された。
Frankfurter Rundschau の記事は次の通り。
www.fr-online.de/wissenschaft/medizin/umstrittener-bluttest/-/5024016/10797256/-/index.html

BMBF政務次官のトーマス・ラヒェルは、バイオ企業の研究を支援する側として、この簡便検出法は母子にとって前進であると評価している。
それに対して、同じ政党CDUに所属するフーベルト・ヒュッペは、議会の障害者委員会代表として反対している。
この診断法が普及することで、障害者を社会から消し去ろうという意識が強まることを懸念している。
そういった風潮がプレッシャーとなって、ダウン症と判明した時点で人工妊娠中絶を選択する妊婦が増えるかもしれない。

ダウン症児を対象とした教育プログラムも充実してきたし、ダウン症の人たちだけのカフェなど、雇用対策も行われている。
それでも、先に書いたように、現在の診断でもダウン症児だとわかると、90%の妊婦が中絶を選択している。
国民の大半がキリスト教徒のドイツであっても、子どもの将来の苦労や社会的プレッシャーなどを考えて、中絶を選択してしまうようだ。

私が付き合いのある日本人のキリスト教徒の人たちの多くは、障害者が生まれた意味は主が決めたことであり、命の選択に人間が関わってはならないと考えている。
障害者を受け入れて愛することができるかどうか、つまりイエスを通じて示された神の意思を実践しているかどうか、常に主に試されているというわけだ。

胎児のDNA全てを解析すると、その費用は数10万ドルかかるため、今はダウン症に関係する21番染色体にだけ注目している。
今後もし、他の病気に関係する検査コストが低減されることになれば、医療費がかかり保険財政を圧迫する障害者が生まれないようにする社会が出現するかもしれない。

そんなことはSF映画の世界だと、私の懸念を嘲笑する人もいるだろう。
しかし、過去に起きたように、障害者が民族の恥として強制収容所に閉じ込められる可能性はゼロではないと感じている。

姉が特殊学級の校舎に入って行くのを見たクラスメートが、「あんな気持ち悪いのを学校に連れてくるな」と私に言ったことを、まだ鮮明に覚えているから、私の懸念は消えないのだ。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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