ドイツ語の比喩表現:「das blaue Gold (青い黄金)= Wasser(水)」

日本語でも外国語でも毎日、文章を読むたびに、様々な比喩表現に出会う。
そして、その比喩が暗示している真の意味を正確に把握しないと、とんでもない勘違いのもとになることがある。

「日本人はウサギ小屋に住んでいる」という、フランスの政治家の発言は有名だが、「ウサギ小屋」とは本来、「狭くて不便なアパルトメント(集合住宅)」を意味している。
フランス語での比喩だったはずの「ウサギ小屋」が、英語への直訳を介した日本語への重訳によって、日本人への侮辱と誤解されてしまった。

たいていの辞書では、通常の語義解説の後に、[比]などと表示して比喩表現の事例を示している。
ただ、翻訳時間が足りなかったり、知っている単語だと調査を怠ることもあるので、誤訳のままニュースが流れることもある。

ドイツ語の形容詞 trocken (乾いた)の項目を見ていくと、例えば、trockenen Augen とある。
これを直訳すると「乾いた目」だが、実際には、「(涙も流さずに)平然として」という比喩表現である。


そして今日は、Wasser (水)の意味で、「das blaue Gold (青い黄金)」という比喩表現に出会った。

Gold の第一の語義は貴金属の金だが、「flüssiges Gold (液体の黄金)=石油」、「schwarzes Gold (黒い黄金)=石炭や石油」という比喩的表現もある。
石油や石炭は、大金を生み出す重要な天然資源ということなので、Gold を使うことは想像しやすい実感を伴う表現だ。

また Gold だけでも、「(金のように)貴重なもの」という比喩的意味がある。
ということで「das blaue Gold」は、「(
青い地球に存在し、生命を維持するために必要となる貴重な」となるわけだ。
さらに限定すれば、飲料水や農業用水などに利用する「淡水(Süßwasser)」と考えてもよいだろう。

この表現が出てきたのは、ZEIT Online の科学記事である。
ハートレー第2彗星に含まれる水の水素同位体比(D/H)を調べたところ、地球の水の起源はカイパーベルトを起源とする彗星の可能性が高いことが判明した、という記事である。

ZEIT Online の記事と、Max-Planck 研究所のプレスリリースは次の通り。
www.zeit.de/2011/41/Herkunft-Wasser/komplettansicht
www.mps.mpg.de/de/aktuelles/pressenotizen/pressenotiz_20111006.html

【… Die Erde, der »blaue Planet«, ist zu drei Vierteln damit bedeckt. In den Urmeeren entstand einst das Leben. Und heute beherbergen Gewässer, süß und salzig, den Großteil aller tierischen Arten.

Doch wo kommt das lebensnotwendige blaue Gold überhaupt her? Es gab nachweislich eine Zeit, in der unser Planet trocken war. Die Proto-Erde war schlicht zu heiß, als dass sich leichte chemische Verbindungen darauf hätten niederlassen können. …】

この記事では、「地球(die Erde)=青い惑星(der blaue Planet)」という比喩表現も使っている。
地表の7割を海が占める地球は、宇宙からは青く見える惑星だから、水のことを「青い黄金(das blaue Gold)」と呼んでも不思議ではない。


そして Nature 電子版の論文と、ハーシェル望遠鏡を運用するESAのニュースリリースは次の通り。
www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature10519.html
www.esa.int/SPECIALS/Herschel/SEMER89U7TG_0.html

ちなみに、日本語の解説記事は、アストロアーツの天文ニュースを参照してほしい。
www.astroarts.co.jp/news/2011/10/06water/index-j.shtml

【ハーシェル宇宙望遠鏡が、カイパーベルトを起源とするハートレー彗星(103P)のコマを観測したところ、その水の水素同位体比が地球の海の値と非常に近いことがわかった。原始地球に水を運んだものは隕石か彗星か、という議論に一石を投じそうだ。】


Google 検索をしてみると、1990年代後半から das blaue Gold の使用例が見られ、単なる水というよりも、「貴重な真水」という意味を込めているようだ。
例えば、シリアからヨルダンを旅行した紀行文に出ている。
www.bertram-werle.de/Reisen/Berichte/Arabien/Jordanien_ber.html

【… Am Jordan wuchsen Getreide, Gemüse und Obst, die Berghänge waren bewaldet mit Akazien, Eukalyptus und Mimosen. Aber das Land wurde rücksichtslos ausgebeutet. Von den Wäldern ist nach der gnadenlosen Abholzung kaum mehr etwas übrig, und mit Getreide, Gemüse und Obst hat man ein anderes Problem - Wasser. Das blaue Gold des Nahen Ostens ist knapp. …】

それより前からあった比喩表現かどうか、ドイツ語研究の論文があるのかどうか、時間があれば調べてみよう。

そして、ミネラルウォーター市場だけではなく、上水道事業自体が「金のなる木」であるということで、「das blaue Gold」を使っている例もある(SPIEGEL Online1999年4月5日)。
www.spiegel.de/spiegel/print/d-10932931.html

【Großunternehmen aus aller Welt haben einen künftigen Milliardenmarkt entdeckt: das Geschäft mit dem Trinkwasser.

… Der Kampf um das Wasser ist so alt wie die Menschheit. In vielen Regionen wurden erbitterte Kriege darum geführt. Als Quell des Lebens hat das blaue Gold in allen Kulturen einen besonderen Stellenwert. "Alles ist aus dem Wasser entsprungen, alles wird durch das Wasser erhalten", wußte schon Johann Wolfgang von Goethe. …】

また最近は、ウォーターフットプリントという考え方も出てきたので、文脈から「貴重な水資源、高価な水」という意味で解釈すべきこともあるだろう。
例えばÖKO-TEST のサイトでは、朝に飲むコーヒー1杯のために、140リットルの水が農業用水や加工用に必要だと紹介されている。
www.oekotest.de/cgi/index.cgi

こういった比喩表現だけではなく、同じ単語の再使用を避けるために他の表現による言い換えたり、外国語の勉強では辞書や参考書では足りないことが毎日出てくる。
やはり、自分用の辞書を作るという意識をいつでも持ち、ブログをメモ代わりに使いながら、勉強を継続していこう。

(最終チェック・修正日 2011年10月08日)

テーマ : ドイツ語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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