石原都知事は自分が知らない外国語・外来語が嫌い?

石原都知事は、作家という肩書も一応持つからなのか、特に日本語については、若者の言葉の乱れの他にも、いろいろと文句を言いたいようだ。
9月30日の定例会見の冒頭発言では、「ビブリオバトル首都決戦」の宣伝をするのかと思ったら、日本人は外国語を使いすぎると批判し、最後は日産の車名にまで文句を言っている。
www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2011/110930.htm

【…昨年から、猪瀬(直樹)副知事をリーダーにして「言葉の力の再生プロジェクト」を進めていましたが、その取組の一環として、「書評合戦」、何でも訳の分からない外国語使うんだ。ビブリオバトルって、よく分からないんだ。ラテン語で「本」の、「バトル」はバトルだね。バトルというのは英語で何と言うか、なぜ日本人というのは、こう外国語を使いたがるか。訳が分からない、本当に。その1つの例が、自動車の名前。分からないんだよ。この間、ティアナという日産の車、自動車の名前の辞書があるんです、引いたら、おそらく原語の、民族も知らないと思うんだ。ティアナというのは何だと思いますか。

アメリカインディアンの言葉で、「夜明け」というんだって。インディアンもびっくりだ。余計なこと言いました(笑)。…
読書の秋に言葉の力を高めてもらいたい。猪瀬副知事、彼もまた物書きですが、ともにいつも物書き同士で慨嘆するんだけれども、この頃の若い人の言葉が乱れるだけじゃなくて、言葉そのものを知らなくなった。非常に雅びな、日本語の情感豊かな、日本語らしい言葉はいっぱいありますけれども、これが通用しなくなった。必然、そういう言葉を踏まえての議論をしなくなって、文壇なんかでも、ポレミックス(論争)がないんです。…】

造語の「ビブリオバトル」や、語源を知らなかった「ティアナ」には文句を言うのに、自分が知っている「ポレミックス」は平然と使っている。
テキスト版を作成した職員がポレミックスに「(論争)」という注釈を付けているから、一般人には馴染みのない言葉という判断ではないか。

好意的に解釈すれば、石原都知事としては単なる論争・議論ではなく、作品の独創性や芸術性に関する議論、つまり作家・芸術家としての存在を賭けた議論をするという意味で区別するため、外国語のポレミックスを使ったのだろう。

それに対して、「ビブリオバトル」は日本語の「書評合戦」で十分で、「ティアナ」は論外と言いたいのだろうか。

ちなみに、広辞苑第六版に採録されているのは、「ポレミック」だけで、石原都知事の言う「ポレミックス」はない。
英和辞典によっては、polemic を「論争」、 polemics を「論争術」と分けていることもあれば、両方とも同じ意味のこともある。
石原都知事は以前、英語の定冠詞 the について、定例会見中に記者相手に講釈したことのある知識人のようだから、これからは主な英和辞典と広辞苑にならって、「ポレミック」にしてはどうだろうか。

ビブリオバトル」の内容やルールについては、公式HPなどを参照してほしい。
www.bibliobattle.jp/ (公式HP)
shuto.bibliobattle.jp/ (首都決戦HP)
www.nikkeibp.co.jp/article/column/20111003/285966/ (NIKKEI BP NET、猪瀬直樹の「眼からウロコ」)

【「ビブリオ」は書物などを意味するラテン語由来の言葉で、「ビブリオバトル」とは、立命館大学情報理工学部の谷口忠大准教授が考案した、ゲーム感覚を取り入れた新しいスタイルの「書評合戦」です。】

「ビブリオバトル」という言葉を初めて見たときに私は、「細菌のビブリオ属(Vibrio)による食中毒・感染症と闘う講演会」のことかと勘違いした。
数秒後に「書評合戦」と知ったわけだが、この誤解の原因は、日本語では外国語の子音の表記区別が困難であることに加えて、一番最初にイメージする意味・語感は、読む人の専門分野などに起因して異なるということだ。

書評はブック・レビューなので、より単純なレビューバトルでもよかったと思う。
ただ、普通の書評ではない手法を取り入れたということで、ビブリオバトルという新造語で、強く印象づけようとしたのだろう。

図書館はドイツ語で Bibliothek、フランス語で bibliothèque だが、英語では library だから、英語しか勉強しない人には連想しにくい造語だったかもしれない。
確かに接頭語ビブリオ(biblio-)は、英語でも書籍に関する単語に使われていて、辞書には50個弱が採録されている。
しかし、外来語として日本語に定着した例は少ないので、石原都知事も文句の一言も言いたいわけなのだろう。
まあ、フランス語を知っている石原都知事なら、ビブリオの意味くらいすぐに理解できそうだが。

ところで、この接頭語 biblio- は、都知事や公式サイトはラテン語由来と紹介しているが、実際にはもっと遡って、古代ギリシャ語bíblos 由来である。
確かに、そのままラテン語に導入されているが、言葉についてうるさい石原都知事ならば、もっと詳細に調べてほしかった。
英語での図書館 library をもう一度取り上げると、ラテン語の liber (本)に由来する(現代英語では「書物、公文書」)。

その反面、日産のティアナについてはよく調べていて、ネイティブアメリカンの言葉だと紹介している。
わざわざ「アメリカインディアン」と言い換えるところが、差別主義者の石原らしいところだが、今回は見逃してあげよう。

日産の2003年のプレスリリースから、ティアラの語源についての説明は次の通り。
www.nissan-global.com/JP/NEWS/2003/_STORY/030203-03.html

【*「ティアナ(TEANA)」車名の由来
語源は、ネイティブアメリカンの言葉で「夜明け」を意味する。新しい高級セダンの夜明けにふさわしく、また、このクルマのもつ美しさに似合うエレガントな響きからネーミングした。】

石原都知事は記者に対して、「そんなことも知らないのか」と一喝するくらいの知的な作家のようだから、古語や方言も含めた日本語、そしてアイヌ語の中から、どの言葉を選ぶのか具体的に示してほしい。

石原が知っているかどうかは不明だが、日本語由来の車名の例として「カムリ」に言及してほしかったものだ。
これは、「冠(かんむり)」にあたる古語由来である(現代でも「かむり」という読みは残っている)。

冒頭発言の中に、【なぜ日本人というのは、こう外国語を使いたがるか。訳が分からない、本当に。】とあるが、外国の商品名を探してみると、マイナー外国語を使っていることもある。

例えばドイツの咳止め薬 Umckaloabo(ウンカロアボ)は、南アフリカのズールー語由来である。
南アフリカの薬草から抽出した成分を含むため、その植物名の現地名をそのまま商品名に使っている。
www.umckaloabo.de/

日本語では、外国語・外来語をカタカナで表記するため、日本人が外国語を訳も分からず多用する印象を持つのだろう。
時間があれば、国立国語研究所だけでなく、ドイツなどでの研究についても調べてみよう。

テーマ : ことば
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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