放射性セシウム137などの放出量推定値は外国研究者の方を信じるべきか

3月11日の大地震と巨大津波による東京電力福島第一原発事故(フクシマ事故)では、大量の放射性物質が放出された。
事故直後に注目されたヨウ素131とセシウム134/137について、実際の放出量や汚染状況の推測は、なかなか報告されなかった。
批判の声が高まってからやっと公表したときには既に手遅れで、多数の住民が被ばくしてしまい、数十年続く健康不安が残った。

その後、8月22日の原子力安全委員会定例会議で、独立行政法人・日本原子力開発機構は、大気中へのヨウ素131とセシウム137などの放出量再試算結果についての資料を提出した。
www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan063/siryo5.pdf

そして原子力安全委員会は8月24日の臨時会議で上記報告を了承し、3月11日から4月5日までの総放出量について、ヨウ素131は 1.3×1017Bq(130 PBq)、セシウム137は 1.1×1016Bq(11 PBq)とすることにした。
www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan064/siryo3.pdf

しかし外国の研究者たちは、世界各地での大気サンプル分析値を元にして放出量を計算しており、最近発表された論文では、日本政府の公式発表よりも約3倍多いとのことだ。

その論文は、EGU(European Geosciences Union、ヨーロッパ地球科学連合)のサイトで無料公開されている。
オープンアクセスという形式で公開されており、論文の内容を再検討した専門家がコメントを投稿している。
www.atmos-chem-phys-discuss.net/11/28319/2011/acpd-11-28319-2011.html (論文の要旨)
www.atmos-chem-phys-discuss.net/11/28319/2011/acpd-11-28319-2011.pdf (論文のPDFファイル)

この論文を取り上げた共同通信の配信記事は次の通り。
www.47news.jp/CN/201110/CN2011102801000364.html

【東京電力福島第1原発事故に伴う放射性セシウムの放出量は、日本の原子力安全委員会による推計の3倍近くに達し、チェルノブイリ原発事故の4割を超すとの論文をノルウェーの研究者らが27日までにまとめた。大気物理学の専門誌に投稿され、結果が妥当かどうか専門家らが検証している。

研究チームは、日本国内のデータや、核実験を監視するために世界中に設置された観測網を利用し、事故発生から4月20日までに大気中に放出されたセシウム137は約3万6千テラベクレル(テラは1兆)と推計。放出量の19%が国内に、残りの大部分は海に落ちたとみている。】

日本経済新聞では、日本政府の見解と異なっていることや、放射性キセノン133の放出について言及した部分を残して掲載しているので、引用しておこう。

【…日本政府の見方とは異なり、4号機の使用済み燃料プールから大量の放射性物質が漏れたとの見解を示した。その理由として、4号機に放水を始めた直後から、放射性物質の量が大幅に減ったことを挙げた。

同原発を津波が襲う前から、放射性キセノンが漏れていた証拠があると強調。地震の揺れで原発の放射性物質を閉じ込める機能が壊れた可能性を指摘した。】

本論文では、算定に使った大気サンプルの取得期間が4月20日までと、日本の4月5日までとは異なる。
それに、日本ではモニタリングポストの測定値を主に使っているため、測定方法そのものの違いもある。
誤差範囲が大きいという指摘があるが、それでも日本政府の公式発表の2倍を超えていることは確かだろう。

加えて、放射性キセノン133に言及していることは注目に値する。
日本政府や東京電力などの原子力村・原子力マフィアの関係者は、「想定外の津波による全電源喪失が事故原因」と言い続けている。
それに対して本論文では、地震動によって配管など原発諸設備が破壊されて、キセノン133が放出された可能性を指摘している。
日本の専門家のなかにも、地震動によって原発が損傷したのであって、津波が来てからではないと主張する人もいる。
事故解析の方法は異なるが、本論文でのキセノン133の測定値とシミュレーションが、地震が主原因という仮説を強固に補強することだろう。

また、4号機使用済み核燃料プールからの放出を指摘している点も、見逃してはならない。
日本政府が言っていた、冷却水の水位が下がったが燃料棒は損傷していない、という主張は嘘だという可能性が出てきたからだ。
実際に燃料棒がどうなっているのか、それは現場関係者しか確認していないことだし、映像を公開したとしても、都合のよいところだけ編集したのかもしれないし。

日本政府の公式見解は修正されるのかどうか、この論文を否定するだけの根拠を示すことができるのかどうか、今後の報道をチェックしておこう。

テーマ : 原発事故
ジャンル : ニュース

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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