野生種の遺伝子を入れたジャガイモは受け入れられるのだろうか

日本では「イモ」という言葉に軽蔑的な語感もあるためか、ジャガイモを主食とは思っていないようだ。
しかし栽培面積でみると、コムギ、トウモロコシ、コメに次いで、世界第4位の主要作物であり、先進国でも大量に生産されている。

アンデス原産のジャガイモが、どのような経緯で全世界に広がり、そして各地の食文化に溶け込んでいったのか、わかりやすく解説した本として、「ジャガイモのきた道 -文明・飢饉・戦争」(山本紀夫著・岩波新書)を推薦したい。

私の両親が淡路島出身だからなのかもしれないが、味噌汁の具として鳴門産ワカメの他、タマネギとジャガイモを使うことも多かった。
自分でもジャガイモ入り味噌汁をよく作るし、カレーにもジャガイモを多めに入れるほどだ。

そんなイモ好きの私でも、ドイツ人のジャガイモ好きには驚いたものの、ドイツ留学中の学生食堂では、メインの肉料理の付け合わせに、様々なジャガイモ料理が出てくるので楽しかった。
平日にジャガイモを食べているのに、イモ好きの私は休日の夕食で、ジャガイモとブロッコリーのグラタンを作ることも多かった。

世界人口が70億人を超えた今、注目されている作物はイモ類である。
18世紀のヨーロッパと同様に、21世紀の人類を飢餓から救うのは、やはりジャガイモを中心としたイモ類ではないかと私は信じている。
そして国際ポテトセンター(CIP)では、野生種との交配などを含めて様々な品種改良を検討し、乾燥や病気に強い品種を生み出そうと努力している。
www.cipotato.org/

ただ、野生種との交配がうまくできないこともあり、例えば疫病抵抗性を導入することに苦労している。
そこでジャガイモ大国ドイツの化学メーカーBASFが、遺伝子組換え技術によって野生種の遺伝子を持つ品種 Fortuna を開発し、栽培許可をEU委員会に申請している。

www.basf.com/group/pressrelease/P-11-488
www.zeit.de/wissen/2011-10/kartoffel-gentechnik-eu


ジャガイモにカビが生えて腐る病気があり、期待される収穫量のうち、20%ほどが失われていると推定されている。
しかし野生種の中から、この疫病への抵抗性遺伝子を持つ品種が発見された。
伝統的な交配法によって、野生種の抵抗性遺伝子の導入が試みられたが、残念ながら失敗した。
そのためBASFでは遺伝子組換え技術を利用して導入し、新品種 Fortuna を開発した。

Fortuna は食用ジャガイモであるため、その安全性について2003年から6年間検証作業を行った。
その結果、安全性が確認されたということで、2014/15年に市販することを目指して、EU委員会に申請した。

しかし、遺伝子組換え作物の栽培をEU委員会が許可しても、実際に農地を提供する国や地方州政府などが認可しないと栽培はできないことが多い。
BASFでは別の遺伝子組換えジャガイモとして、工業用デンプン生産用の Amflora も開発したが、申請から13年間もかけて、今年になってやっと圃場での実験的栽培を開始できた。
それでも環境保護団体の執拗な反対運動のため、今年の栽培面積は約2ヘクタールのみで、しかも警察官に守られながらの植え付けとなった。

工業用デンプン生産用品種に対する反応を見ても、食用遺伝子組換えジャガイモへの拒否反応はより大きくなることは容易に想像できる。

まだ申請しただけなのに、グリーンピースなどの環境保護団体は強く反発している。
彼らは疫病対策として、適切に管理された施肥など、伝統的な手法を推奨している。

そこでポテトチップスのメーカーや、ファストフードチェーン店に対して、遺伝子組換えジャガイモ Fortuna を使わないことを宣言するように要請している。
既にいくつかのメーカーが、自社製品に Fortuna を使わないことを回答しているそうだ。

ただ、全く異なる生物から遺伝子を入れたのではなく、ジャガイモ野生種に元々存在する疫病抵抗性遺伝子を導入したのだから、これまでの遺伝子組換え作物とはカテゴリーが違うものとして考えられないだろうか。
つまり、通常の交配品種改良でできたジャガイモと同じと見なすことはできないのだろうか。

確かに心配な点として、抵抗性遺伝子を持つジャガイモばかりが栽培されることで、カビが変異して新たな疫病が蔓延するおそれはある。
そして単一品種のみが大量生産されることになれば全滅する可能性もあり、アイルランドの人口が激減した飢饉が再現されるかもしれない。

それでも疫病耐性遺伝子の導入に成功したのだから、管理された農場で生産し、まずは家畜用飼料として利用して安全性の確認を続ければよいのではないか。
そして人間の食用にする場合には、Fortuna を使った商品という明示義務を課して、消費者に選択してもらえばいいだろう。

ところで、ジャガイモの心配よりも、賞味期限が過ぎて捨てられる食品や、販売する前にいたんで捨てられてしまう食品、そして食べ残しとして捨てられる食品を減らす方が、緊急の課題ではないだろうか。

テーマ : 食に関するニュース
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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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