武田薬品湘南研究所内で遺伝子組換え大腸菌などが漏えい

武田薬品工業株式会社が、神奈川県藤沢市に湘南研究所を開設すると決めてから、地元では反対運動が続いていた。
「武田問題対策連絡会」、藤沢市および鎌倉市の「環境保全に関する協定締結」の通知は、それぞれ以下の通り。
www.shounan.biz/
www.city.fujisawa.kanagawa.jp/khozen/page100166.shtml
www.city.kamakura.kanagawa.jp/kan-hozen/takeda-teiketsu.html

反対の声があったものの、半ば強引に運用開始したその湘南研究所で11月30日午前、病原性はない遺伝子組換え大腸菌などが、施設内で漏えいする事故があった。

12月1日発表の武田薬品のニュースリリースは次の通り。
www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/press/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_47960_1.pdf

【                     湘南研究所における汚染水の漏水事故発生について
当社湘南研究所(所在地:神奈川県藤沢市・鎌倉市)のP1施設にある排水滅菌槽から、遺伝子組換え生物を含む汚染水が施設内に漏水する事故が発生しました。事故発見後、ただちに汚染拡散防止措置を講じたため、施設外および敷地外への汚染水の漏出は認められていません。また、漏出した汚染水による人体への影響はありません

事故の原因は、排水滅菌槽の水道栓を閉め忘れたことによるものです。漏出した汚染水は、ほぼ滅菌室内に留まり、室外では廊下50cm範囲内および別室1m×2mの範囲内に漏出が認められました。…

P1施設は文部科学大臣の確認を必要としない、最も危険度の低いレベルの拡散防止措置を必要とする実験施設です。
哺乳動物等に対する病原性等はない遺伝子組み換え大腸菌、バキュロウィルス、サルモネラ菌

遺伝子組換え生物の研究を管轄する文部科学省の報道発表、「遺伝子組換え生物等の不適切な使用等について」は次の通り。
www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/12/1313694.htm
www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/12/__icsFiles/afieldfile/2011/12/01/1313694_1_1.pdf (詳細別添資料)

【…今回の件による研究所外への漏出及び生物多様性への影響の可能性は低いと考えられますが、更に詳細な調査を行い、その結果及び原因究明と再発防止策について報告するよう指導を行いました。…】

遺伝子組換え微生物のリスクレベルは様々で、P1施設で使うものについては、誤解を恐れずに言ってしまうと、もし施設外に漏れたとしても何も起きない確率の方が高い。
しかし、他の生物の遺伝子を入れた大腸菌は、自然界には存在しないのだから、リスクが低くても管理を徹底するのが研究倫理の基本である。

原因について、水道栓の閉め忘れで排水があふれてしまったとしているが、これでは不十分な説明だ。
「なぜ閉め忘れが起きたのか」という、人的要因を詳細に説明しなければ、反対運動をしていない人たちも納得しないだろう。

どこの研究室でも必ず、最終退室前のチェックリストを作成し、各項目をチェック後に施錠することになっているはずだ。
ただし毎日のチェックで慣れてくると、「多分閉めたはず」という思い込みで、目視などでの実際の確認をしなくなるのが人間だ。
特にP1施設のように低リスクの実験施設では、「どうせ漏れても研修所内だけの汚染だから」という、認識の甘さも助長される。

文部科学省では武田薬品に対して、詳細な原因究明と再発防止策の報告を求めているので、人的要因について、具体的には、「チェックリストの各項目について、本当に目視点検などで実施していたのか」を明らかにしてほしい。


専門家・研究者の行動で怖いのは、「このくらいならば大丈夫」という、自分勝手な判断をしてしまうことだ。
私が専門の有機合成でも、引火性物質や爆発性物質の取り扱いについて、研究者ごとに解釈が異なる場合が多い。
危険物管理担当者の私は業務目標に、他の研究員の意識向上について毎回書いているが、理解してもらうための道のりは長いものだ。

今回の武田薬品の漏えい事故は、もしかすると明日には、私の勤務先で起きるかもしれない。
私の実験室で溶剤の漏えいや、静電気着火による火事が起きるかもしれない。
実験中はいろいろなことに集中していて疲れるが、事故が起きて実験停止になることを考えると、体の疲れなどなんともない。

こういった事故も想定して、人里離れた山奥に研究所を持っている会社もあるが、日常生活には不便すぎて人材が集まらない。
そうは言っても、通勤時間が短い人口密集地では、爆発事故など発生したときに、会社の存続すら危うくなる。

私の勤務先周辺でも、10年前にはなかった大規模マンションが建つようになり、騒音なども含めて、住民からの苦情が寄せられている。
溶媒一斗缶を台車に載せて運んでいるところや、イヌなどの実験動物の搬入作業も、もしかすると監視されているかもしれない。
コンプライアンス意識を高めると共に、周辺で暮らす住民や学校関係者などに、事業内容・研究内容を理解してもらえるような活動も考えていきたい。

(最終チェック・修正日 2011年12月02日)

テーマ : 医療・健康
ジャンル : ニュース

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

FC2カウンター
カテゴリ
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR