ネイティブ英訳を日本人がチェックすることも必要だと実感した

2011年の翻訳受注実績は、わずか1件にとどまり、収入も源泉徴収後に約4万円とわびしいものだった。
前年納期分の振り込みがあったので、年間収入としては20万円程度になったものの、毎年目標にしている100万円は一度も達成できないままだ。

ところが今年の状況は一変し、1月に2件の依頼があり、さらに今月からデータベース翻訳プロジェクトも復活した。
これはワード数の多い案件なので、4月中旬までかかる予定だ。
現時点での翻訳料金収入の見込みは、税込約60万円を超えている。
ということで今年は、目標額を初めて達成できる年になりそうだ。


ちなみに、1月受注分のうち1件は、英訳チェッカーの有料トライアル課題ということで、短いものだった。
すると今月初めに、クライアントから合格の通知が来たとのことで、全文を英訳したものをチェックすることになった。

当初、トライアル課題の日英翻訳者には一人だけが選ばれ、化学と生物という異なる分野を英訳した。
本来は生物系が専門とのことだが、本人が化学もわかると主張したことや、他の化学系翻訳者が見つからなかったこともあり、翻訳会社はその一人に任せたようだ。

私が受け取った英訳は、生物では訳抜けが見つかったものの、専門分野だということもあり、それほど修正点はなかった。
しかし化学は、日本語文章の内容把握が不足しているようで、私が全部英訳した方が早いと感じた。

このことを正直に翻訳会社に伝えると、「実は英語ネイティブが翻訳しています」という驚きの回答だった。
化学は別の翻訳者を探した方がいいと助言したところ、2日以内に見つけてきて、新しい英訳が届いた。
こちらの方が比較的まともな英訳だったので、翻訳者2名でチェッカーは私という新体制で、トライアル課題に取り組むことになった。

「比較的まともな英訳」とは言ったものの、専門用語を誤訳していたり、科学英語の特徴を知らないという印象を持った。
つまり、英語ネイティブ、しかも英語本家のイギリス人であっても、誰もが科学英語の文章を書けるわけではないのだ。
立場を変えれば理解しやすいと思うが、日本語ネイティブの日本人でも、全員が正確な科学記事を書けるわけではないということを。

大学では化学系専攻という経歴とのことだったが、「原子量 = atomic weight」と、「原子質量 = atomic mass」との区別ができていなかった。
また、「モル吸光係数 = molar absorption coefficient」についても、IUPACが使用しないように勧告している「molar extinction coefficient」と書いていた。
加えて、化合物名の書き方でもケアレスミスがあったので、少々がっかりしている。

生物の英訳では、トライアル時点と同様に訳抜けと誤訳が複数個所あるし、内容が理解しにくい部分もあった。
本人も不可解な英語にしかならないとコメントしていたので、仕方なく私がその部分を全部書き変えた。

誤訳で一番驚いたのは、「酸素 = oxygen」を、「酵素 = enzyme」としていたことだ。
翻訳者でもある私があえて擁護すれば、日本語原稿では漢字の細かい部分がつぶれて判別しにくくなっているため、勘違いしたとも推測できる。

私もFAX原稿をもらった時、「なんだこれは」と大声を出したくなるほど、読めない単語がいくつもあった。
ただ、変形した形状から元の文字をなんとか推測して、文意に合致する単語を見つけ出すことは可能であった。
今回のネイティブ翻訳者も、文章全体を理解していれば、文意に合致する単語は「酸素」だと気付いたはずだ。
そして生物系が専門であれば、自分の英文を読んでみて、科学的にありえないことを書いたと感じなければおかしい。

人間は誰でもミスをするし、私も誤訳や訳抜けの経験があるので、ネイティブ翻訳者を酷評するつもりはない。
ここで取り上げた理由のひとつは、一部の日本人が持つネイティブ信仰を否定する事例としたかったことだ。
加えて、ネイティブが書いた英文でも、科学英語に毎日触れている科学者から見ると、違和感を持つことがあると伝えたいから。

そして自分が翻訳するときには、今回のチェッカーの仕事を思い出して、十分注意しながら作業をしたいものだ。

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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深夜に届いたメールはネイティブ英訳のチェック依頼だった

先月下旬、ある会合に参加してほしいと頼まれていたが、緊急の翻訳を受注したためにキャンセルしてしまった。 声をかけてくれた人には申し訳ないが、翻訳は困っている人を助ける仕

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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