ゼラチンを含む医薬品はベジタリアンに向かないだけでなく宗教上の問題にもなる?

私は医薬メーカー子会社で研究員として勤務しているものの、有機合成が専門のためか、どうしても化合物の構造や合成法ばかりを考えてしまう。
ところが実際に市場に出ている医薬品は、無機塩(酸化チタン)や糖類(デンプン・デキストリン)などを混ぜて成型した錠剤だったり、ゼラチンを含むカプセルに入れてある。

有効成分としての化合物が、わずか0.5 mgであっても、錠剤1個で数グラムということは、そういった増量するための添加剤(賦形剤)が入っているからだ。
錠剤から目的の医薬品を抽出する作業をした人ならば、賦形剤が大部分を占めていることを理解してもらえるだろう。

医薬品の効果や副作用の問題を議論するとき、そして特にジェネリック品の場合の同等性を比較するときには、錠剤成型法以外に、添加剤・賦形剤にも注目しなければならない。

溶解速度が少しでも違うと、血中濃度の時間経過が変わったり、添加剤が異なることでアレルギー症状が出たりすることもあるからだ。

今回取り上げるゼラチンは、動物由来コラーゲンが原料であるため、以前はBSE騒ぎのときに安全性が問題となった。
最近発表されたアンケート調査からは、動物由来製品の摂取を完全に回避したいベジタリアンや、宗教上の理由からブタやウシに由来するものを口にできない患者の存在がクローズアップされた。


その調査はマンチェスター大学病院の泌尿器科を中心としたチームで行われ、結果は2月28日に、Postgraduate Medical Journal のオンライン版で発表された。
タイトルは、「Inadvertent prescription of gelatin-containing oral medication: its acceptability to patients」。
pmj.bmj.com/content/early/2012/02/10/postgradmedj-2011-130306.abstract

論文本文のダウンロードは有料なので読んでいないが、抄録部分だけでも主な内容は把握できるだろう。


また、この論文について紹介したドイツ紙 ZEIT Online を引用しておこう。
医薬品のほとんどが、ベジタリアンに対しては処方できないことを強調している。
www.zeit.de/wissen/gesundheit/2012-02/medikamente-gelatine-vegetarier

日本ではまだ報道されていないようだが、医師のブログなどで取り上げられているので、検索してみて、信用できる意見を参考にしてほしい。

これは以前も書いたが、ドイツの大学に留学していた時、学生食堂の定食メニューには、必ずベジタリアンコースがあった。
加えて、肉料理の定食メニューであっても、「今日は牛肉」など、宗教上の理由から食べられない人への表示が出ていた。

ベジタリアンと言っても様々で、無精卵を食べる人もいれば、動物由来食品は完全に拒絶する人もいる。
ゼラチンの主原料は、ブタやウシのコラーゲン由来なので、ベジタリアンは口にしたくないはずだ。
また、イスラム教ならばブタ、ヒンズー教ならばウシというように、宗教上の理由で口にできないこともある。

イスラム教とブタと言えば、数年前にある食品メーカーで問題となった、調味料の製造方法のことを思い出す人も多いだろう。

調味料の原料合成の段階で、ある酵素を作り出す遺伝子を組み込んだ大腸菌を利用していた。
その酵素とは、ブタが持つ酵素だったため、遺伝子組み換え大腸菌が生産した物質であっても、イスラム教徒にとってはブタ由来食品ということで、強い反感を買ってしまった。

お菓子やスープなどの食品で、ゼラチンを食品添加物として使っている場合は、原材料のところを見れば書いてあるはずだから、口にしたくない人は自分で確認して回避できる。

しかし病院で処方箋を出すとき、医師は投薬量や副作用に注目してしまうし、薬剤師も処方箋に疑問点がないかどうかを優先してチェックするため、患者がベジタリアンなのかどうかという観点を忘れているかもしれない。

添付文書を読めば、添加剤・賦形剤に何を入れているか書いてあるので、医師・薬剤師・患者の全員が確認することは可能だ。
ただ、医薬品にゼラチンが入っていることを忘れている医師・薬剤師もいるし、患者もゼラチン入りだとは思っていないことがある。
そして、「意図せぬ処方」によって、患者が望んでいないゼラチンを摂取してしまうことになる。

ゼラチン入りの経口医薬品を処方できないとなると、使える医薬品は限定されてしまうし、注射剤や点滴剤が用意されていなければ、治療できないケースが大幅に増えてしまう心配がある。

レストランがベジタリアン向けメニューを用意しているように、医薬メーカーがベジタリアン向け医薬品を製造するだろうか。
現状でさえ、小児用医薬品の用意が不十分なのに、さらにコストがかかるラインナップに注力するとは思えない。

すると今後は、ジェネリックメーカーがニッチ開拓の一つとして、ゼラチンフリー医薬品を開発するかもしれない。
先発品との同等性の保持が困難かと思われるが、市場は確実に存在している。
ゼラチンを使うのであれば、原料のコラーゲンを、ウシ由来限定などにすればいいわけだし。

インドのジェネリックメーカーならば低コストを活かして、ベジタリアン向け、そしてヒンズー教徒向けに製造できるだろう。
また、イスラム教徒の人口を考えれば、ブタ由来コラーゲンではないゼラチンを使った医薬品の市場は大きいだろう。

欧米主要先進国でも、BSE事件後にベジタリアンになった人もいるから、ゼラチンフリー医薬品の開発は狙い目かもしれない。

ゼラチンを含む医薬品を処方されたことを理由に、集団訴訟を起こされた時のリスクを考えたら、儲けることよりも優先すべき課題かもしれない。

テーマ : 薬・医者・病院等
ジャンル : 心と身体

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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