原文英語のタイプミスまで修正するのも翻訳者の仕事?

現在作業している外資系メーカーのデータベース翻訳は、受注後に担当するファイルが追加されたこともあり、4月末までかかる予定だ。
この翻訳プロジェクトは、英語で書かれた製品カタログなどの内容を、すべて日本語に翻訳するものだ。
カタログは毎年改訂されるし、新製品も次々と出てくるので、この仕事は終わることがないだろう。

いくら外資系メーカーとは言っても、日本支社では日本国内の企業や研究機関などが主要顧客のため、カタログや新製品紹介パンフレットを日本語で作成する方が望ましい。

研究機関には外国人留学生やポスドクがいるし、日本企業でも日本人だけが働いているわけではないが、「日本支社」なのだから、HPも含めて日本語での情報発信が求められる。

このプロジェクトの納期はのんびりしているし、直接契約のためワード単価も高いので、大量の案件でも優先して受注している。見積もり段階では、主にワード総数をまず見て、次にファイルの一部をざっと見て、翻訳内容のレベルを確認している。
そして納期までに翻訳可能だと判断すれば、受注の意思があることを伝える。

私は有機化学の研究者なので、実験であまり触れることがない、無機化学や高分子化学、生化学の知識が足りないと感じている。
それでも博士号取得者なのだから、参考書を読むなどして補強し、原文英語に疑問点があれば、複数の論文で確認することもある。

専門用語のチェックのために、生化学辞典や生物学辞典などを調べるのは当然だが、原文英語が間違っているときは、推測や調査に時間がかかることがあるので困る。

タイプミスも含めて、英語の間違いを日本人が指摘するというのは、なんだか変な話だが、まあこれも翻訳者の仕事の一部だと割り切って考えている。
ワード単価が一番低い7円の案件のときでも、化合物名や病名のスペルミスなどの他にも、英語で申請した特許なのに、フランス語やドイツ語の単語が混ざっていることまで指摘したことがある。
副業ということで余裕があるからかもしれないが、信頼してもらうためにも、細かい配慮をしているという姿勢を示すことは大切だ。

メーカーのカタログであっても、説明文の入力作業や推敲作業を研究者がやっているわけではない。
そのためか、化合物名や専門用語のタイプミスに気付かないのか、今回のデータベースファイルには、間違いがたくさんある。

単純なタイプミスの場合は、主に近くのキーを間違えて押したものであり、これは少し考えれば推測できる。
例えば、organic が proganic になっていても、前後の単語も含めて考えればタイプミスだとわかる。


ただ、asirizine という単語を見たとき、「こんな新しい化合物ができたのか」と思った。
念のため参考文献を見ると、「アシリジン」などという化合物は存在しなかった。
これは、正しくは aziridine「アジリジン」であり、s と z のキーが互いに近くにあるためのタイプミスだろう。

他のタイプミスも、参考文献を見れば、実際の化合物名や酵素名などがわかるので、調査時間はかかるが正しい和訳に修正できる。


判断に少し時間がかかったのは、black current であった。
この単語自体はこの世に存在するもので、これは海流の「黒潮」である。
しかし、植物から抽出した成分の説明なのに、海流の黒潮が出てくることが不自然だと、翻訳者でなくても気付くだろう。
それでいろいろと調べてみると、植物名の black currant(クロフサスグリ)が正しいと判明した。

同様の例として、choline「コリン」も実在する物質名だが、文意に合わないので文献を調べると、chlorine「塩素」が正しかった。


別のタイプミスとしては、定冠詞 the が代名詞 they になっていたり、名詞が複数形なのに不定冠詞 a がついていたり、そして動詞 produce になるべきなのに名詞 product になっていたり。
他にも、前置詞 of が必要と思われるのに欠落しているなど、今回の原文英語のレベルは低いものである。
原稿を用意した人が間違えたのか、タイプした人が間違えたのか、それはわからないが、カタログのデータを登録する前のチェックが甘いと思われる。

まあ、日本人の書いた日本語文章でも、誤字脱字がいくらでも見つかるので、英語ネイティブでも間違いに気付かないままで印刷に回してしまったのだろう。
逆に非ネイティブだからこそ、原文をじっくりと確認しているので、細かいミスにまで気付くのかもしれない。

ただし今回は、学名やラテン語由来の語句をイタリック体にしていないことや、αが a になっていたりと、原文の修正項目が多く、和訳作業だけに集中できずに疲れている。
原文の修正をしながらの翻訳作業は、あと1か月も続くが、疲れをためないようにして、楽しい連休を迎えたいものだ。

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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