東北観光博HPの外国語版が誤訳で閉鎖とは補正予算の無駄遣いだ

平成23年度第三次補正予算も、東日本大震災関係の復興予算という建前で策定された。
この中には、観光庁の国内観光振興事業として、「広域連携観光復興対策事業(東北観光博)」がある。
www.mlit.go.jp/common/000170325.pdf

予算規模は5億5千万円で、項目の一つにポータルサイトの構築やPRがある。
【観光による被災地復興を図るとともに、広域的なエリアを単位とした新たな観光地づくりのモデルを構築するため、東北地方全体を博覧会場と見立てた「東北観光博」を実施。地域の再生・活性化を目的とした官民の様々な取り組みを連携させ、統一的な情報発信等を行うことにより、東北地方への効果的な集客を実現】

そして実際に、東北観光博のHPが開設され、東北六県の様々な観光情報が紹介されている。
www.visitjapan-tohoku.org/

東北出身の私としては、世界遺産登録された平泉も含めて、登山や温泉旅行、お祭りなどで観光客が大勢訪れて、東北地方の経済が少しでも回復することを願っている。

観光庁では外国人観光客の目標人数も定めているため、東北観光博のHPでは、外国語版(英語・韓国語・中国語)も用意した。
しかし、誤訳が多数見つかり、修正に時間がかかるとのことで一時閉鎖となった。
東北観光博のグランドオープン、3月18日までに時間が足りなかったのか、機械翻訳の結果をそのまま掲載したとのことだ。
一時閉鎖のお知らせは次の通り。
www.mlit.go.jp/kankocho/news04_000037.html
www.visitjapan-tohoku.org/info/news0413.html

朝日新聞の記事は次の通り。
www.asahi.com/national/update/0413/TKY201204130582.html
【東北観光博覧会の公式ホームページ(HP)に外国語訳の誤りが多数見つかったため、博覧会実行委事務局の観光庁は13日、英語など4言語のHPを同日から今月下旬まで一時閉鎖すると発表した。閉鎖せずに修正をしてきたが、誤りが多く、断念した。…
…秋田を「飽きた」と誤るなど、誤訳はすべての外国語で見つかっている。数は把握できないという。担当者は「自動翻訳機の辞書機能に固有名詞を登録するなど改善を図っていきたい」と話す。
…】

また、秋田魁新報の記事は次の通り。
www.sakigake.jp/p/akita/national.jsp
【…
自動翻訳機を使い、その後のチェックをしなかったのが原因。同庁は「関係者にご迷惑を掛けた」としており、修正して4月下旬に再開する。

観光庁や各県によると、秋田市の「あきた千秋公園桜まつり」では「あきた」を英語で「飽きた」の意味の「tired」に誤訳。…男鹿市の伝統行事「ナマハゲ」に至っては中国語で「はげ頭病」の意味になっていた。

「観光はイメージで左右される。しっかりしてほしい」と本県担当者。宮城県も「復興に向けた大切なイベントなのに、あまりにレベルの低い間違いだ」とあきれている。】

東北観光博の準備は1月から行われていたものの、グランドオープンの3月18日までに時間が足りなかったのか、機械翻訳の結果を確認しなかったという。

固有名詞の登録をすれば済む話とは思えない。
機械翻訳のレベルは年々向上しているようだが、副業翻訳者の私から見ると、特許など特定分野を除いて、人間による推敲は欠かせないはず。

トライアル課題に合格した業者にだけ、入札参加資格を与えるべきだったと思うが、時間的な制約があったのか、それとも予算の問題なのか。
観光立国や震災復興というキーワードで、とりあえず補正予算を獲得することが主目的だったと言われてもしかたない。

河北新報の記事では、HP運営会社が、別の業者に再委託したとある。
金額は不明だが、手数料と称してピンハネしているはずだから、まともな翻訳ができる人材を集める予算がなくなったのかも。
www.kahoku.co.jp/news/2012/04/20120414t75009.htm
【…
翻訳業務は、HP運営を担う業者が東京都内の専門業者に再委託した。日本語版を作成すると、自動翻訳される仕組みになっていて、東北特有の固有名詞が辞書機能に無かったのが原因だという。

外国語版のHPには「機械翻訳のため、100%正確でない」と断り書きを添えていたが、観光庁も業者も翻訳結果を確認していなかった

観光庁観光地域振興課は「自動翻訳の誤りを見つけるボランティアを募り、総力戦で翻訳ミスを修正し、4月下旬には外国語版を再開したい」と話している。…】

上海万博のときに紹介された、中国での不思議な英語案内表示を笑うことはできなくなった。

私は誤訳のプレッシャーを常に感じながら、少しでも疑問があれば複数の辞書を調べたり、ネット検索で使用事例を集めて正確な意味を推測しようと努力している。
調査に時間をかけるため、翻訳料金を時給換算すると500円程度になってしまうことがほとんどだ。

以前、特許庁関係や化学物質規制関係のデータベース構築関係の案件を担当したときは、表現について注意事項のマニュアルや、専門用語集が渡され、そのルールを厳守することを求められた。

クライアントの要求に応えて満足してもらい、そして次の受注を確実にするためにも、ベストを尽くして翻訳している人たちが多くいるのに、こんな予算の無駄遣いをしている政府にはがっかりだ。

「ボランティアを募り、総力戦で翻訳ミスを修正」とあるが、「ボランティア」とは自発的参加者のことであって、「無償協力者」ではない。
そのことを観光庁はきちんと理解し、受注業者の契約不履行による損失分を取り戻して、ボランティアに料金を支払ってほしいものだ。

また、これは田舎者の被害妄想かもしれないが、中央の人間たちにすれば、東北地方など考慮に値しない地域であり、震災復興に便乗して予算獲得をするチャンスに利用したかっただけなのだろう。

追記(4月15日):
自分の翻訳案件が9割以上終わって余裕ができたので、この誤訳事件についてもう少し調べてみた。
観光庁の「東北観光博」のページで、IT
統括マネジメントチームの構成を見た。
www.mlit.go.jp/common/000204558.pdf

翻訳関係では、ウェブサイト自動翻訳などの事業で知られる、株式会社クロスランゲージが参加している。
www.crosslanguage.co.jp/

3月29日放送のテレビ東京WBSで、HPの自動翻訳システムが取り上げられたと書いてある。
実際の番組映像は、YouTube で公開されているので、実際に確認してほしい。
www.crosslanguage.co.jp/press/news/20120330.html

実際の商品名は出てこないが、「WEB-Transer@ホームページ」のことだろう。
www.crosslanguage.co.jp/homepage/asp/index.html

この紹介番組内では、自動翻訳機能の限界についても触れている。
そこでクロスランゲージの社員が、クライアントの要望を直接聞いて手動で入力するという、カスタマイズ翻訳をしているそうだ。

加えて、テレビ東京自体がこのソフトを導入して、自社HPを英語などに自動翻訳している。
www.tv-tokyo.co.jp/translate/

ただし、次のような注意書きがあるので、最終的には翻訳者がチェッカーとして働かないといけないようだ。
【民間の自動翻訳サービスによって、テレビ東京ホームページを英語・中国語・韓国語に翻訳します。
これは、自動翻訳システムによる機械的な翻訳なので、必ずしも正確な翻訳であるとは限りません
翻訳後、日本語ページの本来の意味から外れたものになってしまうことがありますのでご注意ください。
尚、テレビ東京は翻訳された内容にいかなる責任も負いません。】

カスタマイズ翻訳に対応しているクロスランゲージが、辞書機能にない固有名詞をチェックしなかったとは考えにくい。
つまりどこかのHP運営会社が、再委託先にクロスランゲージの製品を使わせて、HP作成をしたと思われる。
マネジメントチームに複数のHP運営会社が参加しているが、税金を使ったのだから、どこが受注したのか開示すべきだ。
観光庁には質問メールを送っておこう。

追記2(4月29日):
観光庁からの回答は来なかった。
知り合いの国会議員にでも頼まないと、公開してくれないのかもしれない。

それに加えて、4月下旬の再開は無理だということで、5月下旬まで延期されることになった。
観光情報は他の手段で入手可能だが、観光庁がこんなことでは、観光立国などとは二度と言わないでほしい。
www.mlit.go.jp/kankocho/news04_000038.html

【…多言語版に関し、問題となった固有名詞、方言等についてその適正化等の修正作業を鋭意進めているところですが、より精度の高いものとなるよう東北の各地域の関係者による確認や各言語について翻訳を行なっていただけるボランティアによる確認を行うなど、様々な関係者等のご協力を頂くことと致しました。

また、今後に向けた改善策として、地域の情報の随時追加・更新に伴い発生する適切ではない翻訳を防止するため、関係者による事前確認を可能とするシステム上の改良を加えることと致しました。

このため、4月下旬を目処としていた多言語サイトの再開を一旦見送り、5月下旬に延期することと致しましたのでお知らせいたします。
…】

ところで、誤訳チェックのボランティアだが、5月9日まで募集して、10日から作業開始とのことだ。
www.visitjapan-tohoku.org/about/dl/volunteer_info.pdf

報酬については何も書かれていないため、「無償ボランティア」ということだ。
誤訳を放置したまま納品したのだから、その会社から予算を取り戻し、ボランティアに支払うべきだ。

追記3(6月2日):
5月31日夜から、修正が済んだ一部について、多言語版の表示が再開された。
残りの部分も確認が済み次第、順次公開されるという。
www.mlit.go.jp/kankocho/news04_000042.html

(最終チェック・修正日 2012年06月02日)

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ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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