JTがロシュに導出したDalcetrapibが開発中止になった

連休明けの7日の日本の株式市場は、フランス大統領選の結果やアメリカ雇用統計などの要因で大幅下落した。
円高以外にも、様々な悪材料が一度にやってきてしまったという印象だ。
貴金属や債券なども含めて、なんでもかんでも換金売りされたようだ。

私が働いている製薬業界の株価も、数社の除いて、ほとんどが下落していた。
下落率は1%前後なので、換金売り目的ということで、特に何か悪材料があったわけでもないと思う。

国際的な製薬業界での悪材料とは、
7日に発表された、ロシュの脂質異常症治療薬 Dalcetrapib の開発中止だ。
第III相臨床試験まで進んでいたのに、既存薬を上回る効果が見られなかったため、開発を断念することになった。
そのためチューリッヒ市場では、ロシュの株価は3%以上も下落してしまった。

ロシュのメディアリリース(ドイツ語)と、プルームバーグの英語記事、SPIEGEL Online のドイツ語記事は、それぞれ次の通り。
www.roche.com/de/media/media_releases/med-cor-2012-05-07.htm
www.bloomberg.com/news/2012-05-07/roche-halts-testing-on-dalcetrapib-cholesterol-treatment-1-.html
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/herzmedikament-dalcetrapib-roche-stellt-entwicklung-ein-a-831793.html

開発中止となった Dalcetrapib は、実は日本たばこ産業(JT)から導出した候補薬であった。
ロシュの開発中止について、JTもプレスリリースを出している。
www.jti.co.jp/investors/press_releases/2012/pdf/20120507_01.pdf

【「JTT-705(dalcetrapib)」は…血中のHDLコレステロールを増加させて抗動脈硬化作用を示す薬剤で、…海外において第Ⅲ相臨床試験の段階にありました。
なお、本件による当社の当年度連結業績への影響は軽微です。】

ロイターでは日本語記事も出ており、日本での開発継続も困難との見方が出ているそうだ。
jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK079731020120507

【日本たばこ産業(JT)…は7日、脂質異常症治療薬「JTT―705」について、日本以外の海外で開発を行っていたスイスのロシュ…が開発を中止すると発表した。…

JTの広報担当者は「詳細なデータは未入手の段階だが、日本でも開発の継続は困難になったと考えている」と述べている。
…】

善玉コレステロールと呼ばれるHDLコレステロールを増やす作用があるとされたが、期待したほどではなかったわけだ。
JTの株価も7日は下落していたが、医薬事業の割合は少ないため、下落率は約0.1%と軽微であった。

dalcetrapib は、2016年までに発売予定の大型医薬品9品目の一つで、UBSアナリストによれば、2020年までに68億ドルを稼ぎ出すはずだった。
他社の類似候補品は、例えばファイザーでは死亡例が出たため中止され、アボットではHDLコレステロールの増加が心臓発作予防に結び付かなかったため中止となった。

そしてロシュの dalcetrapib が残り、2011年8月の欧州心臓学会では、開発が順調に進んでいると期待させる発表があった。
日経メディカルの記事を引用しておこう。
medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/esc2011/201108/521297.html

【…dalcetrapib(ダルセトラピブ)の投与で、HDL値は約3割増大し、一方で血管内皮機能の低下や血圧上昇といった有害作用は認められないことが示された。…University of ZurichのThomas F. Luscher氏らが、…欧州心臓病学会(ESC2011)で発表した。

Dalcetrapib群ではまた、投与36週間後にHDL-C値が31%増大したほか、アポリポ蛋白質A1(ApoA1)値も有意に増大した。一方で、LDLコレステロール(LDL-C)値やアポリポ蛋白質B100(ApoB100)値には、変化はなかった。

…Edinburgh大学のKeith Fox氏は、この発表を受けて、非常に興味深い結果だと評価しながら、「被験者数が限られた小規模な試験なので、dalcetrapibの効果と有害作用の有無について断言はできない。より大規模な試験結果を待つことでより明確になるだろう」とコメントした。】

そのためロシュでは、2万人を超える規模での第III相臨床試験を実施したのだが、残念ながら期待したほどの効果は見られなかった。

どこの製薬会社でも、途中で消えていく候補化合物はいくつもある。
資金面の問題でプロジェクト自体が消えることもあるが、副作用の問題や、プラセボ群や既知医薬品との差異が見られないなど、様々な理由で消えてゆく。

医薬品開発はギャンブルではないが、開発候補品をたくさん持っている会社に投資した方が無難だろう。
候補品が10個あれば、2~3個くらいはなんとか市場に出せるだろうから。
私の勤務先の親会社はどうなるだろうか。

追記(5月10日):
メルクとイーライ・リリーも、同様のCETP阻害薬の開発をしているが、継続するかどうかはまだ発表していない。
ただ、HDLコレステロールを増やせばいい、という仮説が間違いであれば、同じ作用を狙って開発を続けても、ロシュの二の舞になるかもしれない。

他の期待の大型新薬候補についても、その動向を冷静に検討してから、投資先を決めることにしよう。

(最終チェック・修正日 2012年05月10日)

テーマ : 株価材料
ジャンル : 株式・投資・マネー

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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