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「英語を使うお仕事」(英語教育2012年8月号)

大修館書店の雑誌「英語教育」は、特集記事に翻訳などの気になるものがあれば購入している。
plaza.taishukan.co.jp/shop/Product/List

8月号の特集は、「英語を使うお仕事」ということで、もちろん翻訳も入っている。
特集の目次は以下のリンクを参照してほしい。
その中から気になった記事を引用しておこう。
plaza.taishukan.co.jp/shop/Product/Detail/71208

・【理系研究職】 研究開発で世界をリードするために(村田賢一)
・【技術翻訳】 言葉は文化:日英文化間を旅行する毎日(松澤圭子)
・【研究所】 グローバルの前に日本代表として(宮田輝子)
・【翻訳家】 苦手な英語を訳すということ(池田香代子)

私は民間企業の研究員で、英語を毎日使っているといっても、実験ノートへり記録や、論文・特許を読むのが主体だ。
たまに外部に出す資料として、実験手順のまとめ(実験の部)を代筆することがあるくらい。

他には、年に1回または2回ほど参加する学会で、外国人研究者の招待講演で英語発表を聴くくらい。
ごく最近、実際に英語を話したのは、海外メーカー製反応装置のデモに来ていた英国人に、「こんな反応は実施可能かどうか」と質問しただけ。
どこかの英会話教室や文部科学省が宣伝するような、「英語ができないと仕事もできない」という実感は全くない。

英語を一番多く話したのは、大学・大学院・ポスドク時代で、留学生や観光客相手だ。
自転車のパンク修理をしてもらっている間、自転車を買いに来た留学生に、私が代理で英語で接客した。
「試乗できますよ。」や、「この値段は消費税抜きです。」だけでなく、「来週火曜日まで取り置きしておきます。」など。

うまくできなかったことも確かにあり、観光客から食べ放題のピザ屋の場所を質問されたが、私はその店を知らなかった。
また、これは英語ではないが、ドイツ人教授夫人の観光案内を任されたとき、美術館や寺院で、ドイツ語でどう説明するのか悩んだ。
語学能力の問題もあるが、上記【研究所】の記事にもあるように、日本や住んでいる街の歴史・文化といった知識の方が大切なこともある。

一番に気になったのは、ドイツ語翻訳家の池田さんの記事である。
私は英語とドイツ語の両方を担当しているので、共感する部分もあったし、翻訳裏話のような話題も面白かった。

ドイツ文学翻訳家の池田香代子は、平和・反核運動家としても知られており、「世界平和アピール七人委員会」の一人である。
worldpeace7.jp/index.php

最近はツイッターで反原発・環境問題を取り上げていることが多く、翻訳出版にじっくり取り組む時間が足りないようだ。
twitter.com/ikeda_kayoko (ツイッター)
blog.livedoor.jp/ikedakayoko/ (ブログ・更新は2011年11月まで)

個人的な活動はともかく、英語教育の記事の話に戻ろう。
面白い部分とは、「ドイツ語翻訳者は英語が訳せるか」という問いである。

彼女はドイツ語一筋で翻訳に打ち込んでいたため、英語には自信がなかったそうだ。
それでも自身のドイツ文学に関する知識を生かせる、研究書2冊の翻訳を実現したそうだ。
翻訳可能であった理由の一つに、英語とドイツ語がインドヨーロッパ語族の中でも近い関係にあって、経験がなくても勘が働いたそうだ。
もう一つの理由は、特定の言語能力が向上したというよりも、翻訳能力そのものが上達したからではないかということだ。

似たようなことは私にも経験がある。
オランダ語で書かれた実験資料の解読を頼まれた時や、ノルウェー語やデンマーク語の科学記事を読むときも、ドイツ語との類似性を頼りにしたし、オンライン辞書でも英語ではなく、ドイツ語での語義解説を参考にしたこともある。

私の本業は有機化学系研究職ということもあり、過去の論文も含めて、英語とドイツ語の両方を理解できなければ仕事にならない。
ということで、翻訳者としての登録も、英語とドイツ語の両方ができることにしているが、どちらかと言うと、ドイツ語の方が翻訳作業をしやすい。
記事では省略されているが、英語の構文解釈に自信が持てなかったことを、私も体験している。
例えば、関係代名詞 where の先行詞がわからず、10分くらいかけて探していたら、5行前の the situation だったことがある。

また、ヨーロッパ哲学の歴史を物語風にした「ソフィーの世界」は、原著はノルウェー語なのだが、翻訳者が手配できないとのことで、ドイツ語翻訳版からの和訳を依頼されたという。
英語版もあったが、ノルウェー語原本に一番忠実な翻訳はドイツ語版らしい、というのが理由だったそうだ。

英語の特許を和訳する案件を私が受注したとき、その特許はドイツ語から翻訳されたものだったため、参考資料として元のドイツ語版も翻訳会社から送られてきた。
ドイツ語が原本ということで、英語訳から日本語への翻訳は「重訳」の扱いとなるので、疑問点が生じた場合はドイツ語版に戻って確認したことがある。
英語の方がドイツ語よりも解釈が難しいことが多いと、私も感じており、修飾関係や具体的な意味が不明確なときは、ドイツ語版から和訳したこともある(その場合は訳注を付けた)。

英語の冒険」(メルヴィン・ブラッグ、三川基好訳、講談社学術文庫)にも書いてあるように、英語というのはインドヨーロッパ語族の中でも特殊な経緯をたどった言語である。
www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp

つづりと発音の関係や、アメリカ英語・オーストラリア英語・シングリッシュへの分派など、世界共通語としてふさわしいのかどうかは疑問だが、学術誌も英語ばかりになったし、国際会議でもほとんどが英語を使う。
特集記事にあるように、仕事によって要求されるレベルや表現法は変わるが、自分の仕事に一番合う英語(例えば科学英語)の基礎を、しっかりと身につけたいものだ。

テーマ : 英語
ジャンル : 学校・教育

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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