不正行為が続くから巨大医薬企業は悪者扱いされるのだ

化学・医薬メーカーというのは、日本でも海外でも、公害や薬害の元凶という、悪者として扱われることが多い。

工場では危険な物質を大量に用いるため、インドのボパール事故のような大惨事に至らなくても、漏洩や爆発といった事故のリスクは必ずある。
実験室では少量の合成ではあるが、新規化合物が強力な発がん性を持っているという、予想外のリスクもある。
10年以上前には普通に使っていた化合物なのに、その後の研究で変異原性が指摘されて驚いた、という経験を私はした。

医薬品の臨床試験では、試験結果をねつ造したり、被験者を発展途上国のスラム街で集めたり、医療援助という名目で小児に適用不可の薬を配布してデータを集めるといった、コンプライアンス違反が指摘されることがある。
また、新薬認可後でも医師を買収して、副作用の報告をさせなかったり、投与量をわざと増やしたり、不要な薬の処方箋を出すように仕向けているとも言われる。
さらに海外の子会社(ペーパーカンパニー)を使って節税していることも批判されることがある。

悪者はどこの組織にもいる、と言ってしまえばそれまでだが、高いコンプライアンス意識を持ってまじめに働いている社員のモチベーションは低下してしまう。

GSKに課された罰金30億ドルのニュースを取り上げるのは少々遅いが、科学誌 Nature のエディターが11日付け(オンライン版)でコメントを発表しているので、合わせて紹介したい。

日本語ニュースとして朝日新聞とAFP日本語版、英語報道としてBBCを引用し、Nature の記事は最後にリンクを示した。
www.asahi.com/international/update/0703/TKY201207030114.html (朝日新聞・具体的な医薬品名なし)
www.afpbb.com/article/life-culture/health/2887564/9212812 (AFP日本語版)
【AFP:米司法省は2日、医薬品の違法な販促活動などをめぐり、英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline、GSK)が罰金などとして計約30億ドル(約2400億円)の支払いに応じたと発表した。医薬品関連での同様の支払額としては米史上、最高額だという。

司法省によると、グラクソ・スミスクラインは市販薬3種類について不正な販売促進活動や、データの隠蔽・虚偽報告を行っていたことを認めた。

同社は抗うつ薬パキシル(Paxil)、同ウェルブトリン(Wellbutrin)について、未成年への処方など米医薬品規制当局が承認していない使用法を宣伝していた。また糖尿病治療薬アバンディア(Avandia)については一部のデータを報告せず、安全性や効能に関して実証されていない内容をうたっていた。
…】

www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-18673220 (BBC)
www.nature.com/nature/journal/v487/n7406/full/487139b.html (Nature, 487, 139 (12 July 2012), Editorial)

GSKのプレスリリースは次の通り(USAサイトの方が詳細版になっている)。
www.gsk.com/media/pressreleases/2012/2012-pressrelease-1164663.htm
us.gsk.com/html/media-news/settlement-press-kit.html

罰金の支払いで利益が減るし、信用も失うわけだが、あまりにも巨大企業のため倒産することはまずないから、株価も下がらない。
いつものことだが、政治家への寄付金が功を奏しているし、足りなければ社員を削減すればいいと経営陣は考えるだけだ。

最近は大手医薬メーカーであっても、巨大な利益をもたらす大型新薬(ブロックバスター)が出なくなっている。
診療試験が進んでから、プラセボとの有意差がほとんど見られなかったり、予想外の副作用で開発中止ということもある。
また、特許切れ後は、ジェネリックメーカーのシェアが徐々に増えるので、定評のある薬でも販売が伸び悩むことがある。

ということで医薬メーカーの営業部門は、コンプライアンス意識を捨てて販売目標の達成のみを目指し、医師の買収なども含めて、不正行為を次々に起こしてしまうのだろう。

今回対象となった抗うつ薬パキシルは、適切な処方であれば、特に問題もほとんど生じず、標準的な治療に用いられる薬である。
ただし未成年者では、有効性がないだとか、自殺リスクの増加が報告されているので、選択肢に入れないのが一般的な対応だ。

海外での報告を考慮して、日本でもパキシルの添付文書には、未成年者への投与について警告を明記してある。
glaxosmithkline.co.jp/medical/medicine/item/paxil_tab10/paxil_tab10.pdf
【海外で実施した7~18歳の大うつ病性障害患者を対象としたプラセボ対照試験において有効性が確認できなかったとの報告、また、自殺に関するリスクが増加するとの報告もあるので、本剤を18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること。】

それでも、「慎重に検討する」という部分を、異常行動発生率が低いと勝手に判断して、まずは試しに投与してみてから、問題がなければそのまま続けようと考えた医師や営業担当者がいたというわけだ。

GSKはブタインフルエンザ流行時のワクチンでも、返品拒否や副作用の補償免除を取引条件に入れていたことが批判された。
今回の罰金によって、医薬メーカーはやはり悪者というイメージが、一般的に定着してしまうのだろうか。

私の勤務先ではコンプライアンス研修を継続しているものの、毎年何らかの懲戒処分が行われている。
二度と不祥事が起きないことを祈るのみである。

テーマ : 医療ニュース
ジャンル : ニュース

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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