「論文を修正しないと法的手段を取る」と医薬メーカーが研究者に圧力をかけた?
学術誌に投稿された論文は、編集部と専門家による審査を経て、新規性などの重要度が認められると掲載される。
論文掲載が認められても、内容が正しいかどうかの保証はなく、追試によって間違いだったと判明することもある。
間違いに気付いた場合、その論文を掲載した編集部に対して意見書を送ったり、追試結果そのものを論文にすることもある。
他にも、自分が著者に入っていない、サンプルを提供したのに謝辞がない、自分の論文が引用されていないなど、様々なトラブルはよくあることだ。
編集部を通して著者と交渉することになるが、直接メールで著者に意見を伝える人もいる。
New England Journal of Medicine に最近掲載された臨床試験の論文の著者に対して、ある医薬・医療器具メーカーが直接メールで、論文内容の修正要求をした。
試験に使った薬品は他社品だが、論文の表記のままでは自社品と誤解されるとのことで、「修正しない場合は、法的措置を取る可能性がある」という内容だった。
論文の主著者で、修正メールを受け取ったのは、デンマーク・コペンハーゲン大学病院の Anders Perner 医学博士。
forskning.ku.dk/search/profil/
論文は6月に既にオンライン版で公開されていたが、印刷版の7月12日号では、次のようにタイトルと抄録は修正されている。
www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1204242
【Hydroxyethyl Starch 130/0.42 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis】
修正前の論文タイトルは、臨床試験が行われたコペンハーゲン大学病院のサイトに掲載されている。
www.rigshospitalet.dk/RHenglish/Top+menu/News+and+Media/News/News+Archive/Hydroxyethyl+Starch+130+04+versus+Ringers+Acetate+in+Severe+Sepsis.htm
【Hydroxyethyl Starch 130/0.4 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis】
論文本文の修正個所は不明だが、タイトルと抄録部分で、臨床試験に用いたHES(ヒドロキシエチルスターチ)の表記を、「130/0.4」から「130/0.42」に修正している。
この修正要求をしたのが、ドイツに本社を置く Fresenius Kabi(フレゼニウス・カービ)ということもあり、この裏話は、ドイツの SPIEGEL Online で取り上げられている。
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/hes-von-fresenius-kabi-pharmakonzern-bedraengt-kritische-forscher-a-846611.html
Fresenius Kabi 社のサイトは以下の通りだが、今回の修正要求については何も発表していない。
www.fresenius-kabi.com/index.htm
www.fresenius-kabi.de/ (ドイツ語)
www.fresenius-kabi.jp/ (日本支社)
論文掲載が認められても、内容が正しいかどうかの保証はなく、追試によって間違いだったと判明することもある。
間違いに気付いた場合、その論文を掲載した編集部に対して意見書を送ったり、追試結果そのものを論文にすることもある。
他にも、自分が著者に入っていない、サンプルを提供したのに謝辞がない、自分の論文が引用されていないなど、様々なトラブルはよくあることだ。
編集部を通して著者と交渉することになるが、直接メールで著者に意見を伝える人もいる。
New England Journal of Medicine に最近掲載された臨床試験の論文の著者に対して、ある医薬・医療器具メーカーが直接メールで、論文内容の修正要求をした。
試験に使った薬品は他社品だが、論文の表記のままでは自社品と誤解されるとのことで、「修正しない場合は、法的措置を取る可能性がある」という内容だった。
論文の主著者で、修正メールを受け取ったのは、デンマーク・コペンハーゲン大学病院の Anders Perner 医学博士。
forskning.ku.dk/search/profil/
論文は6月に既にオンライン版で公開されていたが、印刷版の7月12日号では、次のようにタイトルと抄録は修正されている。
www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1204242
【Hydroxyethyl Starch 130/0.42 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis】
修正前の論文タイトルは、臨床試験が行われたコペンハーゲン大学病院のサイトに掲載されている。
www.rigshospitalet.dk/RHenglish/Top+menu/News+and+Media/News/News+Archive/Hydroxyethyl+Starch+130+04+versus+Ringers+Acetate+in+Severe+Sepsis.htm
【Hydroxyethyl Starch 130/0.4 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis】
論文本文の修正個所は不明だが、タイトルと抄録部分で、臨床試験に用いたHES(ヒドロキシエチルスターチ)の表記を、「130/0.4」から「130/0.42」に修正している。
この修正要求をしたのが、ドイツに本社を置く Fresenius Kabi(フレゼニウス・カービ)ということもあり、この裏話は、ドイツの SPIEGEL Online で取り上げられている。
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/hes-von-fresenius-kabi-pharmakonzern-bedraengt-kritische-forscher-a-846611.html
Fresenius Kabi 社のサイトは以下の通りだが、今回の修正要求については何も発表していない。
www.fresenius-kabi.com/index.htm
www.fresenius-kabi.de/ (ドイツ語)
www.fresenius-kabi.jp/ (日本支社)
Perner 教授はメールチェックをしていて、「修正しないと法的手段を取る」という、アメリカ支社の弁護士から届いたメールに驚いたことだろう。
Fresenius Kabi 社からも研究費をもらっているのに、修正を強要するようなメールが突然来るとは思ってもいなかっただろう。
修正要求対象の論文は、B. Braun Melsungen 社のHESである Tetraspan (表示は130/0.42)を使用していたが、タイトルも含めて Fresenius Kabi 社が使っている表示の 130/0.4 と書いてしまった。
METHODS のところで使用した製品名を明記しているし、Disclosure forms をチェックすると、B. Braun Melsungen 社から臨床試験用に援助を受けたことがわかる。
だから、一般的な表示としても受け入れられている、「130/0.4」でもかまわないと思う。
しかし、論文タイトルに「130/0.4」と書いてあるだけでは、どこの会社の製品なのかは判断できないとも言える。
ということで Fresenius Kabi 社としては、誤解による自社製品 Volven の売り上げ低下を恐れて、論文の修正を要請したと思われる。
会社側は教授への圧力を否定しているものの、リスクが高いHESとは、市場で競合する B. Braun Melsungen 社の製品の方だと印象付けたいのかも。
抄録の最後には次のようにあるのに、メールの指示に従ったのだから、何も影響を受けていないとは言えないだろう。
【Dr. Perner reports receiving grant support from Fresenius Kabi.
No other potential conflict of interest relevant to this article was reported.】
ヒドロキシエチル基の平均置換度が 0.4 と 0.42 とで有意差があるのかどうか、という疑問を持つ研究者もいるのは事実だ。
今回は有名学術誌に掲載された論文で、数え切れないほどの医師が読むから、会社側も修正を求めたのだろう。
ところが、他の学術誌はそれほど有名ではないためか放置されているので、修正要求をするかどうかは学術誌の認知度が影響しているのだろう。
Pernar 教授のHES関連の論文は、Trials という学術誌にもあり、タイトルに「130/0.4」とあるが、これは訂正を求められていないようで、そのまま残っている。
www.trialsjournal.com/content/12/1/24
【Comparing the effect of hydroxyethyl starch 130/0.4 with balanced crystalloid solution on mortality and kidney failure in patients with severe sepsis …】
ところで、日本支社のHESの説明では未承認の製品も含めて、以下のように、高い評価を受けていることを紹介している。
【HES製剤
Fresenius Kabiは、長年にわたり、代用血漿剤、特にHES(hydroxyethyl starches, ヒドロキシエチルデンプン)製剤の開発を進めてきました。
現在、本邦では分子量 70,000の、低分子HES製剤を販売しています。低分子HES製剤は、日本で数十年に渡り使用されており、効果と安全性の面で非常に高い評価を受けています。
そして海外では、分子量 130,000或いは 200,000の、中分子 HES製剤(本邦未承認)を販売しています。
特に、1999年に販売開始された分子量 130,000の中分子HES製剤は、それまでに得られた知識や経験を活かして開発された製剤であり、より良い物理化学的特徴を有し、安全で高品質のVolume Therapyに最適のHES製剤と言われています。】
「最適のHES製剤」と記載しているが、HESについては、「Crystalloid Versus Hydroxyethyl Starch Trials (CHEST)」という、安全性に関する大規模な比較試験が現在も継続している。
clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00935168
会社の研究費を使う研究者の論文よりも、できるだけ公的機関による臨床試験の結果を参考にして、日本での導入を検討してほしいものだ。
医薬メーカーで勤務する者として、リスクがないかのように説明する企業は、どうも信用できない。
SPIEGEL Online の記事でも、サリドマイドのような薬害にならないように注意喚起しているし。
Fresenius Kabi 社からも研究費をもらっているのに、修正を強要するようなメールが突然来るとは思ってもいなかっただろう。
修正要求対象の論文は、B. Braun Melsungen 社のHESである Tetraspan (表示は130/0.42)を使用していたが、タイトルも含めて Fresenius Kabi 社が使っている表示の 130/0.4 と書いてしまった。
METHODS のところで使用した製品名を明記しているし、Disclosure forms をチェックすると、B. Braun Melsungen 社から臨床試験用に援助を受けたことがわかる。
だから、一般的な表示としても受け入れられている、「130/0.4」でもかまわないと思う。
しかし、論文タイトルに「130/0.4」と書いてあるだけでは、どこの会社の製品なのかは判断できないとも言える。
ということで Fresenius Kabi 社としては、誤解による自社製品 Volven の売り上げ低下を恐れて、論文の修正を要請したと思われる。
会社側は教授への圧力を否定しているものの、リスクが高いHESとは、市場で競合する B. Braun Melsungen 社の製品の方だと印象付けたいのかも。
抄録の最後には次のようにあるのに、メールの指示に従ったのだから、何も影響を受けていないとは言えないだろう。
【Dr. Perner reports receiving grant support from Fresenius Kabi.
No other potential conflict of interest relevant to this article was reported.】
ヒドロキシエチル基の平均置換度が 0.4 と 0.42 とで有意差があるのかどうか、という疑問を持つ研究者もいるのは事実だ。
今回は有名学術誌に掲載された論文で、数え切れないほどの医師が読むから、会社側も修正を求めたのだろう。
ところが、他の学術誌はそれほど有名ではないためか放置されているので、修正要求をするかどうかは学術誌の認知度が影響しているのだろう。
Pernar 教授のHES関連の論文は、Trials という学術誌にもあり、タイトルに「130/0.4」とあるが、これは訂正を求められていないようで、そのまま残っている。
www.trialsjournal.com/content/12/1/24
【Comparing the effect of hydroxyethyl starch 130/0.4 with balanced crystalloid solution on mortality and kidney failure in patients with severe sepsis …】
ところで、日本支社のHESの説明では未承認の製品も含めて、以下のように、高い評価を受けていることを紹介している。
【HES製剤
Fresenius Kabiは、長年にわたり、代用血漿剤、特にHES(hydroxyethyl starches, ヒドロキシエチルデンプン)製剤の開発を進めてきました。
現在、本邦では分子量 70,000の、低分子HES製剤を販売しています。低分子HES製剤は、日本で数十年に渡り使用されており、効果と安全性の面で非常に高い評価を受けています。
そして海外では、分子量 130,000或いは 200,000の、中分子 HES製剤(本邦未承認)を販売しています。
特に、1999年に販売開始された分子量 130,000の中分子HES製剤は、それまでに得られた知識や経験を活かして開発された製剤であり、より良い物理化学的特徴を有し、安全で高品質のVolume Therapyに最適のHES製剤と言われています。】
「最適のHES製剤」と記載しているが、HESについては、「Crystalloid Versus Hydroxyethyl Starch Trials (CHEST)」という、安全性に関する大規模な比較試験が現在も継続している。
clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00935168
会社の研究費を使う研究者の論文よりも、できるだけ公的機関による臨床試験の結果を参考にして、日本での導入を検討してほしいものだ。
医薬メーカーで勤務する者として、リスクがないかのように説明する企業は、どうも信用できない。
SPIEGEL Online の記事でも、サリドマイドのような薬害にならないように注意喚起しているし。
テーマ : 臨床試験(がん以外)
ジャンル : 学問・文化・芸術