50年かけてやっとサリドマイド開発会社が薬害被害者に謝罪した

旧西ドイツの Grünenthal (グリューネンタール)社が睡眠誘導剤として開発したサリドマイド(Thalidomide)は、1957年に販売開始された(商品名 Contergan)。
しかし、予想外の副作用として、胎児での催奇形性が指摘されたため、1961年に市場から回収された。
ドイツでの薬害被害者は5000人を超え、そしてヨーロッパだけではなく、日本でも被害が報告され、戦後最大規模の薬害の一つと言われている。

このサリドマイド薬害事件について、私は小学生5年のときに、社会科の授業で観たドキュメンタリー番組で知った。
その後、大学の有機化学の講義では、化合物の構造に関する項目で、サリドマイドの立体化学と生理活性との関係について学んだ。

「全ての薬には副作用があり、薬と毒は紙一重」とも言われるが、私は医薬メーカー子会社研究員として、そして家族が副作用で苦しんだこともあり、できれば副作用がない薬が開発されるように望んでいる。

サリドマイド被害者に対する年金なども含めた援助・補償は、なぜかドイツでは不十分で、イギリスが一番充実している。
そして、サリドマイドを開発したグリューネンタール社は今でも存続し、しかもこれまで一度も謝罪していなかった。

ところが8月31日、グリューネンタールグループのシュトックCEOが、サリドマイド事件の記念碑の除幕式で正式に謝罪した。
グリューネンタール社があるアーヘン近くのシュトルベルクで、
除幕式が行われた

CEOの謝罪は次の通り(ドイツ語と英語翻訳版)。
www.contergan.grunenthal.info/grt-ctg/GRT-CTG/Stellungnahme/Rede_anlaesslich_Einweihung_des_Contergan-Denkmals/224600930.jsp
www.contergan.grunenthal.info/grt-ctg/GRT-CTG/Stellungnahme/Rede_anlaesslich_Einweihung_des_Contergan-Denkmals/224600963.jsp

この公式謝罪の前、今年3月には、公的支援だけでは生活が困難な被害者への、直接援助の実施を決定していた。
www.contergan.grunenthal.info/grt-ctg/GRT-CTG/Unterstutzungsangebot/Offer_for_support/205000004.jsp;jsessionid=A91BC0DFDE812E1AB59444C7023D0CA2.drp2

ドイツを含めてヨーロッパのメディアは、50年経ってやっと認めたことを大きく報じている。
AFPなども配信しているので、やがて日本語記事も出るだろう。
日本語で取り上げているのは、現時点で以下の薬剤師向けの情報提供サイトである。
www.watarase.ne.jp/aponet/blog/120901.html

ドイツの報道として SPIEGEL Online から2本、英語報道としてBBCを引用しておこう。
www.spiegel.de/wirtschaft/unternehmen/pharmakonzern-entschuldigt-sich-bei-contergan-opfern-a-853259.html
www.spiegel.de/wirtschaft/unternehmen/die-folgen-der-entschuldigung-von-gruenenthal-wegen-contergan-a-853290.html
www.bbc.co.uk/news/health-19443910

グリューネンタール社は製品回収から50年間、ほぼ沈黙したままで、全世界で1万人を超える被害者が発生したにもかかわらず、そのまま存続してきた。
ただし、1971年にドイツ国内被害者支援の基金が作られ、ドイツ連邦政府と折半して拠出している。
しかし、障害の程度に応じた年金額は月額250~1127ユーロで、イギリスと比較してあまりにも少ないと批判されてきた。

CEOの声明では、数年前から各国の被害者支援団体などと協議し、公的社会保障だけでは生活が困難な被害者に対する援助などについて検討していたという。
そして2009年には支援基金に、5000万ユーロを拠出した。
これに続いて今年からは、個人の申告に基づいて援助を行うまでに拡大している。

ドイツでは乳児期に被害者の約40%が死亡したため、そして50年も経過したため、現在存命の被害者は約2400人。
つまり半数を超える被害者が、今回の慰霊碑を見ることも、謝罪の言葉を聞くこともできなかった。
サリドマイドを服用した母親に対しても謝罪しているが、50年も経った今では既に亡くなった人もいるため、同様に謝罪の言葉を聞くこともなかった。
そしてイギリスの団体(例えば Thalidomide Agency UK)は、この謝罪は不十分で受け入れられないと発表している。

このサリドマイド事件の後も、様々な薬害事件が続いて発生している。
薬害事件の背景を解説した著作は様々あるのに、なぜ前例に学ばないのだろうか、という疑問がいつも湧いてくる。
金儲けを考える人たちと、純粋に医薬品開発をしたい人たちとの、意識の差が大きいということなのか。

今後も報道は続くはずだから、ヨーロッパのメディアを中心にチェックしておこう。

追記(9月1日):
時事通信がAFP配信記事として紹介している。
www.jiji.com/jc/c
【世界的な薬害を引き起こした医薬品「サリドマイド」を製造するドイツの製薬会社グリュネンタールのハラルト・シュトック社長は8月31日、独西部シュトルベルクでの式典で、被害を受けた「母親と家族への心からの痛恨」を表明し、薬害から50年で初めて被害者に謝罪した。社長は被害者に対し「長期に及んだ沈黙は、われわれの受けた衝撃の証しと考えてほしい」と理解を求めた。…】

追記(9月2日):
予想した通り、複数の患者団体が、今回の謝罪声明だけでは不十分であると抗議している。
www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5jc6CuyG2nnEBmDOxoqC99fnJOuSw (AFP英語記事)

日本の財団法人いしずえ(サリドマイド福祉センター)の
佐藤嗣道理事長は、「より早く販売停止を決めていれば、患者はもっと少なくて済んだだろう」と語っている。
この団体のHPは次の通り(注:上記英語記事中で、団体名は "Sakigake" と誤って紹介されている)。
www008.upp.so-net.ne.jp/ishizue/

謝罪したわけだが今後は、グリューネンタール社が、患者や家族に十分な補償金を支払うかどうかが、さらに強く問われることになるだろう。

ところでグリューネンタール社は、「働きがいのある会社2012」のヨーロッパ多国籍企業部門で、17位となっている。
有名企業のペプシコやアクセンチュアだけでなく、同業のアボットよりも上位だ。
これからは社員の福利厚生だけではなく、被害者の支援にも十分な資金提供をしてほしいものだ。
www.greatplacetowork.net/best-companies/100-best-workplaces-in-europe-2012/best-multinational-workplaces

(最終チェック・修正日 2012年09月02日)

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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