ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルでの誤訳はケアレスミス?

(最終チェック・修正日 2012年09月20日)

私は副業で、英語・ドイツ語の翻訳をしており、主な分野は化学・バイオ・機械系の産業翻訳である。
特許や論文の和訳が中心だが、得意分野ではなくても依頼があれば、教育・スポーツ・賃貸契約書なども受注して、翻訳可能な分野を広げようとしている。
休日中心の副業翻訳のためか、1件当たりのワード数は少なく、そして毎月のように依頼が来るわけではない。

ということで、何もない週末は、AFPやロイターなどのニュースサイトで、英語記事と和訳記事を比較して勉強している。
また、ディスカバリー・チャンネルやナショナル・ジオグラフィック・チャンネルといったドキュメンタリー番組を見て、字幕や吹き替えについて英語版と比較して、映像翻訳の勉強も始めている。

これまで何度も指摘しているように、和訳ニュースでもテレビ番組でも、月に数回は誤訳に遭遇する。
文全体の解釈が完全に間違っていることは滅多にないものの、一部の語句を間違えたり、字幕では漢字変換ミスと思われるケアレスミスが多い。
私が勝手に誤訳だと決めつけてはいけないので、疑問点が生じた場合には電話やメールで問い合わせて確認してもらっている。

ディスカバリー・チャンネルは、翻訳会社と共同で映像翻訳コンテストを実施し、映像翻訳者のプロデビューを後押ししている。
そのためか、これまでに誤訳などの疑問点について問い合わせたことはない。


ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルも同様に良質のドキュメンタリー番組を提供しており、雑誌では翻訳者養成講座も実施しているので、科学英語や時事英語の勉強に適していると思われる。

ドキュメンタリー番組を見るために、auひかりTVを契約したのに、過去記事で触れたように、「に向けて」を「西に向けて」と誤訳していたり、「青色巨星」のはずが「赤色巨星」に、「アイスランド」が「アイルランド」になっていたこともあった。

最近も、第二次大戦でのスターリングラード攻防戦で、ナレーションが一か所だけ、「レニングラード」となっていた。
また、航空機事故の番組のナレーションでは、「シミュレーター」を「シュミレーター」と発音していた。

そして、現在調査を依頼しているのは、「大西洋」を「太平洋」と誤訳した件である。

2月下旬に始めたデータベース案件は大量であり、2か月経過してやっと、残り約500ワードとなった。この案件では、原文にスペルミス以外にも様々な間違いが見つかったため、引用文献を確認するなどの調査が増えた。調べてみても、キーワードをつなげただけのような英文や、前置詞などが欠落している不完全な英文は、和訳不可能として保留することになった。推敲する時間を入れると、当初予定していた連休前の納品が厳しくなった...
ドキュメンタリー番組の字幕・吹き替え和訳の間違いを指摘した




この誤訳は、9月9日の14時から放送された「9.11特集」のうち、16時からの【インサイド・9/11ゼロ・アワー」】で気付いたものだ。
番組開始から30分を過ぎた頃に、ニューヨークへ戦闘機の派遣を要請する場面が出てくる。

そして続くナレーションは、「指令を受け、太平洋上で待機中だったF15戦闘機2機がューヨークへ直行します。」だった。
緊急事態なのに、東海岸にあるニューヨークに、太平洋から直行しても間に合うわけがない。
近くの空軍基地からF16戦闘機を発進させた方が、素早く対応できるに決まっている。

ということで、音声を英語に切り替えて確認してみると、「NEADS ordered two fully armed F15 fighters, which had been circling over the Atlantic, to head to the New York City.」であった。

この点について、日本語版制作担当のFOXジャパンに問い合わせたが、調査に時間がかかるとのことで1週間経過しても、まだ誤訳かどうかの判定は出ていない。


他の和訳ナレーションには違和感がないので、「Atlantic(大西洋)」を「太平洋」と間違えたのは、単なるケアレスミスと思われる。

ワープロソフトの予測変換機能や、短縮読み登録を使っていて、「たい」または「tai」とタイプした時点で、リストの第一候補に「太平洋」が出てきて、そのまま採用してしまったのだろうか。

外注した翻訳会社内での推敲時や、FOXジャパンへの納品後のチェック時点で、英語原文との比較確認は行っているのかどうか疑問だ。
納期が決まっている仕事なのだから、「時間が足りない」という言い訳は通用しない。
時間が足りなければ、その分、人員を追加して対応すればいい。

また、ナレーションを入れた後の試写時に、原稿と比較しながら、「太平洋」となっていることに気付くべきだった。
原稿を見ていなくても、緊急事態でニューヨークに戦闘機を急行させるのに、太平洋から向かうのはおかしいと感じるべきだ。

誤訳が判明した場合、字幕ならばすぐに修正作業が可能だが、日本語吹き替え版は手間がかかる。
わずか数秒の修正のために、ナレーターのスケジュールを調整してもらって、スタジオに来てもらわねばならない。
そのため、ナレーションの修正版の放送は、私の指摘から約2か月後になっていることが多い。

伝統ある雑誌で有名なナショナル・ジオグラフィックのブランドが、ケアレスミスによる誤訳で傷つくのは残念だ。
ナショジオ・ファンとしても、翻訳者としても、正しい情報が日本人視聴者に伝わるように、誤訳の指摘は続けていこう。

追記(9月20日):
ようやく回答が届いた。
私の指摘した通り、誤訳を確認したとのことだ。
ただし再放送は、ナレーションの録音を修正してからになるため、現時点では未定だ。

誤訳が見つかった今回の番組は、以前から放送されていたはずだが、どうして今まで誰も誤訳を指摘しなかったのだろうか。
この場面では、「F15戦闘機がニューヨークに向かった」という情報が一番重要で、そのF15がどこにいたのかを聞きとれなくても特に問題はない。
ということで、私のように映像翻訳の勉強に使おうだとか、誤訳を探してやるぞ、などと集中していないと聞き流してしまうのだろう。

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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