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華氏と摂氏の換算を間違えたロイターのサイエンス記事

私は副業で、英語とドイツ語の翻訳をしている。
有機化学分野の博士号取得者で、製薬メーカー子会社に勤務しているので、登録分野は基本的に化学・バイオ系である。
ただし翻訳可能であれば、自動車や原子力、教育、軍事、賃貸契約書など、得意分野にこだわることなく受注している。

サイエンスニュースの翻訳にも興味があるが、平日に本業の勤務があるため、現状では時間的に無理である。
特許などのチェッカーの経験もあるので、納品された和訳のチェック作業ならば、なんとかできるかもしれない。

翻訳の仕事がないときは、AFPやCNN、ロイターなどのニュース記事で、英語・ドイツ語の記事と、日本語版の記事を比較しながら勉強している。
日本語にはない慣用表現などを、どのように理解しやすい表現にするのか、参考にしている。

ただ、これまでも指摘してきたように、誤訳記事がそのまま掲載されることがあり、月に1回は訂正を依頼している。

そして今日はロイターの科学記事で、原文英語記事の誤記をそのままにしていことに気付いた。
その記事とは、ダイヤモンドでできた太陽系外惑星「かに座55番星e」に関するもので、誤記とは表面温度である。
ついでに星座名の表記についても違和感を持った。
jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE89B02M20121012 (10月15日に訂正され、リンク切れ)
【…
この惑星は「蟹座55e」で、…質量の少なくとも3分の1がダイヤモンドである可能性があるという。

同惑星は蟹座にある太陽に似た恒星を周回しており、…表面温度も約1650度と非常に高いという。
…】

まず星座名だが、「蟹座」ではなく、「かに座」にすべきである。
私が国立天文台に質問したとき、「正式な学術用語としての星座名には、漢字ではなく、ひらがな・カタカナを使用することになっています。」との回答があった。

ニュース翻訳は納期が厳しくてチェックできないのかもしれないが、星座名一覧は国立天文台が公開しているので、簡単に確認可能だ。
www.nao.ac.jp/new-info/constellation.html

そして原文英語記事の間違いというのは、表面温度の華氏3900度を摂氏1650度とした計算間違いのことである。


ロイター通信のロンドン発英語記事で、該当部分は次の通り。
uk.reuters.com/article/2012/10/11/us-space-diamond-planet-idUKBRE89A0PU20121011
【… It is also incredibly hot, with temperatures on its surface reaching 3,900 degrees Fahrenheit (1,648 Celsius).
…】

私はこの数値を見て、直観的に摂氏1648度では低すぎると感じた。
研究で使う薬品を検索していると、どうしても外国製しか見つからないことがある。
特にアメリカの会社では、融点や沸点を華氏で示してあり、いつも摂氏に換算している。
そのため私は、換算式で確認する前でも、どうもおかしな数値だと感じたのだ。

華氏を摂氏に換算する式を使うと、(5÷9) × (3900゜F-32) = 2148℃(小数点以下切り捨て)となるはずである。
記者は入力する数値を間違えて、 (5÷9) × (3000゜F-32) = 1648℃(小数点以下切り捨て)としたと推測した。

論文では表面温度を明示していないが、引用文献ではケルビン表示で約2500K なので、摂氏では約2230℃となる。
arxiv.org/pdf/1210.2720v1.pdf

著者の一人、Yale 大学のポスドク Nikku Madhusudhan は大学プレスリリースの中で、表面温度に言及している。
それは華氏で3900度である。
news.yale.edu/2012/10/11/nearby-super-earth-likely-diamond-planet
【… It is also blazingly hot, with a temperature of about 3,900 degrees Fahrenheit, researchers said, a far cry from a habitable world. 】

華氏の温度は正しいので、ロイター記者の計算ミスということがはっきりした。

比較として、正しく換算している National Geographic News の英語記事を引用しておこう。
news.nationalgeographic.com/news/2012/10/121011-diamond-planet-space-solar-system-astronomy-science/
【… surface temperatures reach an uninhabitable 3,900 degrees Fahrenheit (2,150 degrees Celsius) …】

また、日本語記事として正しい数値を記載しているAFPを引用しておこう。
あえて苦言を呈するならば、「2148度」だと有効数字4桁になってしまうので、「約2150度」または、「2000度以上」でよかったと思う。
www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2907100/9667786
【…恒星との距離が非常に近いため、地表の平均温度は摂氏2148度にも達し、生命の維持には全く適していないという。】

トムソン・ロイター・ジャパンには問い合わせメールを送ったが、土日は休みなので、週明けになってから訂正されることだろう。

原文の間違いについて翻訳者は気付かなかったのだろうか。
原文に忠実に和訳するとしても、英語専門ならば、華氏と摂氏のことは知っているはず。
私は原文の間違いを指摘することも、翻訳の仕事に含まれると考えているし、チェッカーも科学知識がある人ならば、すぐに違和感を持って確認するはずだ。

どちらの温度でも、液体の水が存在できない環境ということでは同じなので、そこまで留意しなかったのかもしれない。
それにしても、間違った数値がロイター通信の記事を通じて広まることは、残念なことだ。

追記(10月14日):
温度の換算を間違えたロイターの配信記事は、各国語に翻訳されて紹介されている。
スウェーデン紙 Dagens Nyheter でも引用されていた。

ノーベル賞受賞者予想を毎年掲載している新聞なのに、ロイターの記事内容の吟味をしなかったのは残念だ。
www.dn.se/nyheter/vetenskap/en-diamant-storre-an-jorden
【… yttemperatur på cirka 1.648 plusgrader.】

追記2(10月15日):
私の指摘を受けて、日本語記事のみ訂正された。
jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPTYE89B02M20121015
【…
この惑星は「かに座55番星e」で、…
…表面温度も摂氏約2150度(訂正)と非常に高いという。

*原文での摂氏温度の換算間違いにより第3段落の表面温度を訂正したほか、第2段落の惑星名を修正して再送します。】

(最終チェック・修正日 2012年10月15日)

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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