新年からAFP日本語記事の誤訳を指摘:「emission」は「(光の)放射」
私は副業で自然科学系の翻訳をしているので、和訳ニュースや科学番組の字幕に誤訳があると気になってしまう。
興味を持った記事や番組で、たまたま見つけた誤訳について、電話や問い合わせフォームを使って連絡し、訂正してもらっている。
このブログで何度も取り上げているAFP日本語記事では、残念なことに、新年早々に誤訳の指摘をすることになった。
1月3日配信の、「星を生み出すまばゆい光の輪、 棒渦巻銀河「NGC 1097」」という記事で、違和感を持った表現を見つけた。
www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2918654/10044309
【ブラックホールの周囲は、吸い込まれる物質が発する放射線や電離水素ガス雲からの排出物の影響で強烈に明るく輝いている。】
「電離水素ガス雲からの排出物」と和訳したのは、物質という解釈だから、ブラックホールにプラズマが流れ込んでいるのだろうか。
NASAのハッブル宇宙望遠鏡のサイトで、英語表現を確認したところ、「電離水素ガス雲由来の放射(光)」であった。
www.nasa.gov/mission_pages/hubble/science/ngc1097.html
【These star-forming regions are glowing brightly thanks to emission from clouds of ionized hydrogen.】
星形成領域では、恒星からの紫外線を受けた周囲の水素は電離している。
そして再び電子を捕捉して中性に戻るときに、特定の波長の光を放射する。
この光の放射のことを、英語では emission と呼ぶ。
この誤訳については、本日1月4日午前中に問い合わせフォームで連絡したので、数日以内に修正されることだろう。
(追記:4日16時20分にアクセスしたところ、記載が以下のように修正されていた。
【…電離水素ガス雲からの放射で強烈に明るく輝いている。】)
「emission」の訳語として「排出物」を選択してしまったのは、最近は環境問題での「温室効果ガスの排出」という用例が多くなり、勘違いしたことが原因かもしれない。
それでもニュース翻訳をしている専業翻訳者ならば、天文学や物理学の専門家ではなくても、適切な訳語を探してほしい。
加えて、「放出物・排出物」の意味で使うときは、通常は複数形の「emissions」とするので、ここで気づいてほしいものだ。
自然科学系の記事を担当する翻訳者は、専門辞書だけではなく、科学英語に関する書籍も購入して勉強した方がよい。
翻訳者養成講座を受講する方法もあるが、独学したい人には次の書籍と雑誌を推薦したい。
・「日経サイエンスで鍛える科学英語」
www.nikkei-science.com/52065.html
英語原文と日本語訳が対比できる。
脚注に専門用語の訳語がある他、キーワードの解説もあるので便利。
・「Natureダイジェスト」
www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/
英語原文は図書館などで入手しなければならないが、トップジャーナルの和訳記事が読めるので有用。
過去には、「英語でNature」という科学英語入門記事があったので、これだけでも読む価値はあるだろう。
誤訳を探すことは私の仕事ではないものの、違和感を持った表現について調べることで、自分の勉強に使うことにしよう。
興味を持った記事や番組で、たまたま見つけた誤訳について、電話や問い合わせフォームを使って連絡し、訂正してもらっている。
このブログで何度も取り上げているAFP日本語記事では、残念なことに、新年早々に誤訳の指摘をすることになった。
1月3日配信の、「星を生み出すまばゆい光の輪、 棒渦巻銀河「NGC 1097」」という記事で、違和感を持った表現を見つけた。
www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2918654/10044309
【ブラックホールの周囲は、吸い込まれる物質が発する放射線や電離水素ガス雲からの排出物の影響で強烈に明るく輝いている。】
「電離水素ガス雲からの排出物」と和訳したのは、物質という解釈だから、ブラックホールにプラズマが流れ込んでいるのだろうか。
NASAのハッブル宇宙望遠鏡のサイトで、英語表現を確認したところ、「電離水素ガス雲由来の放射(光)」であった。
www.nasa.gov/mission_pages/hubble/science/ngc1097.html
【These star-forming regions are glowing brightly thanks to emission from clouds of ionized hydrogen.】
星形成領域では、恒星からの紫外線を受けた周囲の水素は電離している。
そして再び電子を捕捉して中性に戻るときに、特定の波長の光を放射する。
この光の放射のことを、英語では emission と呼ぶ。
この誤訳については、本日1月4日午前中に問い合わせフォームで連絡したので、数日以内に修正されることだろう。
(追記:4日16時20分にアクセスしたところ、記載が以下のように修正されていた。
【…電離水素ガス雲からの放射で強烈に明るく輝いている。】)
「emission」の訳語として「排出物」を選択してしまったのは、最近は環境問題での「温室効果ガスの排出」という用例が多くなり、勘違いしたことが原因かもしれない。
それでもニュース翻訳をしている専業翻訳者ならば、天文学や物理学の専門家ではなくても、適切な訳語を探してほしい。
加えて、「放出物・排出物」の意味で使うときは、通常は複数形の「emissions」とするので、ここで気づいてほしいものだ。
自然科学系の記事を担当する翻訳者は、専門辞書だけではなく、科学英語に関する書籍も購入して勉強した方がよい。
翻訳者養成講座を受講する方法もあるが、独学したい人には次の書籍と雑誌を推薦したい。
・「日経サイエンスで鍛える科学英語」
www.nikkei-science.com/52065.html
英語原文と日本語訳が対比できる。
脚注に専門用語の訳語がある他、キーワードの解説もあるので便利。
・「Natureダイジェスト」
www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/
英語原文は図書館などで入手しなければならないが、トップジャーナルの和訳記事が読めるので有用。
過去には、「英語でNature」という科学英語入門記事があったので、これだけでも読む価値はあるだろう。
誤訳を探すことは私の仕事ではないものの、違和感を持った表現について調べることで、自分の勉強に使うことにしよう。