タイタン大気中にプロペンを検出:「下層大気」は「成層圏下層」の方がふさわしいのでは?

NASAの土星探査機カッシーニに搭載した赤外線分光器を用いた観測から、プロペン(propene, CH3-CH=CH2)の存在が確実になった。
注:一般名として「プロピレン(propylene)」も使うが、IUPAC命名法によれば、「プロペン(propene)」が望ましい。

NASAのプレスリリースと論文(Astrophysical Journal Letters)のAbstractはつぎの通り。
www.nasa.gov/content/goddard/nasas-cassini-spacecraft-finds-ingredient-of-household-plastic-in-space/#.UkqxJ1ORPms
iopscience.iop.org/2041-8205/776/1/L14/pdf/2041-8205_776_1_L14.pdf

炭素数3個の炭化水素は、これまでにプロパン(CH3CH2CH3)とプロピン(CH3C≡CH)の2種類が検出されていた。
同じ炭素数のプロペンも、質量分析器のデータから存在が示唆されていたものの、確実な観測結果がやっと得られた。
赤外線でのプロペンのスペクトル強度は弱く、他の化合物のスペクトルに埋もれてしまうため、解析に時間がかかった。

地球以外で炭化水素が見つかるということは、有機化学者でなくてもわくわくするものだ。
ただし今回は、プロペンが検出されたのが、「下層大気」なのか、それとも「成層圏下層」なのかが気になった。

論文タイトルは、【Detection of Propene in Titan's Stratosphere(タイタン成層圏でのプロペンの検出)】となっている。

ただし、先のNASAプレスリリースでは【A small amount of propylene was identified in Titan's lower atmosphere …】と変化している。
これを引用した英語記事ばかりのためか、日本語記事でも「成層圏」という用語は出てこない。

日本語記事の例として、毎日新聞を引用しよう。
mainichi.jp/select/news/20131001k0000e040160000c.html
【…、タイタンの大気を観測。検出した波長の特徴から、下層に微量のプロピレンが存在することを突き止めた。】

論文の Abstract をもう一度確認してみた。
すると、観測したのはタイタン地表から 100 km ~ 250 km の範囲であったし、成層圏下層の化学組成についても言及している。
【We retrieve a vertical abundance profile from 100-250 km, … chemical families in the lower stratosphere.】

また、著者が公開している論文PDFは次の通りで、ここでも成層圏での検出であることは明白である。
arxiv.org/pdf/1309.4489v1.pdf

次の解説動画の2分25秒頃に、プロペンの赤外スペクトルが高度別にいくつか出ていて、上記の範囲に入っている。
www.youtube.com/watch

観測した高度について考えると、「比較的下層」であることは確かだ。
ただ、「下層大気」としてしまうと、対流圏と誤解する危険性がある。
NASAの記事にある「lower atmosphere」は、「lower stratosphere」のつもりだったのかもしれない。
科学ニュースを書く記者ならば、論文そのものを読んで、適切な表現にしてほしいものだ。

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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