調査捕鯨に対するICJ判決を誤解したまま「食文化を守れ」などと騒ぐのはやめよう

3月31日に国際司法裁判所(ICJ)が、日本の南極海調査捕鯨に関して判決を出した。
この判決では、「調査捕鯨が科学研究ならば計画通りに必要頭数を捕獲せよ」と言っている。
「同じ計画のままで調査捕鯨を継続してはならない」とも言っているが、調査捕鯨の権利は認めており、決して捕鯨を禁止したわけではなく、食文化を否定したわけでもない。

しかし報道も含めて、「日本の伝統である捕鯨と食文化の危機だ」などと、誤解して騒いでいる人たちが多いようだ。
「まともな科学的成果をあげる調査捕鯨とは何か」という問題提起をするのではなく、感情に訴える戦略をとるために、論点を意図的にずらしているようにしか見えない。

文化を持ち出して、論点がずれている例として、4月2日付の長崎新聞社説を引用しよう。
www.nagasaki-np.co.jp/news/mizusora/2014/04/02094555013044.shtml
【…国際司法裁判所(ICJ)が、日本の南極海での調査捕鯨は「科学目的とは認められず違法」として停止を命令した…▲「調査を隠れみのにした商業目的の捕鯨」となじるに等しい内容で、日本にとっては心外な判決だ。鯨肉供給量が減るよりも、国際社会の日本へのこの誤解が悲しい▲政府は判決に従う方針だ。やむを得まい。ただ、誤解を解く努力は必要だ。日本人の食文化には奥深い精神性があることを、命あるものを食すときには「いただきます」と手を合わせる文化を持つ国民だということを知ってもらう努力である。】

このように誤解して、「食文化を守れ」などと騒いでいるのは、著名人にも見られるようだ。
この事例として、シンガーソングライターのさだまさしのコラム(4月17日付中日新聞、4月20日付東京新聞)が注目されている。

日本が実施している調査捕鯨について、「科学研究ではなく疑似商業捕鯨だ」という批判が長く続いていた。オーストラリア政府が国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、「南極海調査捕鯨は非科学的で条約違反」という判決が3月31日に下された。英語で発表された判決のプレスリリースは以下の通り。www.icj-cij.org/docket/files/148/18162.pdf【…(7) decides, by twelve votes to four, that Japan shall revoke any
南極海調査捕鯨は科学ではないが食文化が否定されたわけではない


両新聞とも、私は購読していないため、この連休中にコラムの部分を図書館でコピーして、その内容を確認した。

最初から、「食文化への差別は、人種差別だと思うからだ。」と、判決内容とは全く関係ない話を始めている。
ICJに提訴したオーストラリア政府や暴力的な反捕鯨団体、そして海のシンボルとしてクジラを神聖視している人たちへの批判をしたいのだろうか。

その後は、様々な民族の食文化や動物の殺傷などの話があり、このコラムのテーマは一体何なのかが不明瞭なままだ。

特に、「僕らが子どものころ、鯨肉は安く、当時の貧しい家庭の食卓を支えてきたのだ。日本人は鯨の何一つ捨てず残さずいただいてきた。」とあり、「アメリカ人がなぜ捕鯨をしたかというと決して食用ではない。油を搾り取るだけのためにただ鯨を殺していたのだ。」などと続くところが理解しにくい。

同じ殺すにしても、食用にする方が正しい行為と言いたいのか、それとも、肉を捨てるなんてもったいないと言いたいのか。
または、昔は捕鯨をしていたアメリカが、今は自己中心的なヒューマニズムを押しつけていることに、立腹しているだけなのか。

5月1日付の日本経済新聞では、「日本、曖昧な捕鯨戦略 「商業」再開にも壁 (真相深層) 」というフォロー記事が出た。
www.nikkei.com/article/DGXNZO70612220R00C14A5SHA000/

ここでは、捕獲枠を増加させた時期に担当していた小松正之・国際東アジア研究センター客員主席研究員の発言を引用しよう。
【国際司法裁判所が日本の調査捕鯨に疑義を呈した根拠のひとつが捕獲枠と捕獲数の乖離だ。日本は調査に必要な数量として南極海で年間1035頭の捕獲枠を設けているが、近年は3割も捕っていない。それも大半はミンククジラで、鯨種間の関連性を調べるのに必要としてきた他の品種はゼロに近い。

鯨肉はピーク時、年間消費量を上回る4千~5千トンの在庫を抱えていた。日本は過激な反捕鯨団体「シー・シェパード」の執拗な妨害が捕獲が減っている理由だと主張したが、聞き入れられなかった。かつて水産庁で捕鯨問題を担当した国際東アジア研究センターの小松正之客員主席研究員は「日本の捕獲減少はシー・シェパードの妨害の前から始まっていた。国際司法裁判所は日本が在庫調整のため、シー・シェパードを口実に捕獲を減らしたと判断したのだろう」とみる。】

そして最後に紹介されている、水産庁OBの発言が、日本政府の迷走を象徴している。
【水産庁OBはこぼす。「日本は何を目指して戦ったのだろうか」】

商業捕鯨モラトリアムへの異議申し立てを撤回したとき、捕鯨産業の安楽死を覚悟したはずなのに、だらだらと無意味な税金投入を続けて、一体何を得ようとしていたのだろうか。
南極海からは完全撤退して、沿岸小規模捕鯨でミンククジラを捕獲できるように、戦略を見直してほしいものだ。

テーマ : 博物学・自然・生き物
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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