「”調査”捕鯨は誰のものか」(「世界」2014年6月号)

(最終チェック・修正日 2014年05月19日)

3月31日に国際司法裁判所(ICJ)が、日本の南極海調査捕鯨に関して判決を出した。
この判決では、「調査捕鯨が科学研究ならば計画通りに必要頭数を捕獲しないのはおかしい」とし、「捕獲数の設定に科学的根拠は乏しい」と言っている。
「同じ計画のままで調査捕鯨を継続してはならない」とも言っているが、調査捕鯨の権利は認めており、決して捕鯨を禁止したわけではなく、食文化を否定したわけでもない。
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追記(5月19日):
判決の概要について日本語で解説した資料として、IKAN-Netに掲載された小論を参考にしたい。
ika-net.jp/ja/home/16-japanese/activity/whaling/298-temporary-bibliographical-essay-on-the-antarctic-whaling#c3-6
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今日は岩波書店の雑誌「世界」2014年6月号の記事、「”調査”捕鯨は誰のものか」(古木杜恵)を読んだ。
www.iwanami.co.jp/sekai/2014/06/158.html
【南極海での日本の調査捕鯨が国際捕鯨取締条約に違反するとして、オーストラリアがオランダのハーグに本部を置く国際司法裁判所 (ICJ) に差し止めを求めた訴訟で、日本は科学性を否定されまさかの完敗。日本の捕鯨政策を支えてきた「伝統食」「食文化」という言説は果たして真実なのか。日本の調査捕鯨の実態とはいかなるものなのか。オーストラリアは、なぜ日本をICJに提訴し、その背景には何があったのか。商業捕鯨再開は本当に日本の悲願なのか。捕鯨を取り巻く近現代史を概観しつつ、調査捕鯨の「真実」に迫るルポ。】

これまでの経緯や判決後の動向など、わかりやすくまとめられているので、参考文献としての価値はあると思う。
取材先が、石井敦・東北大学准教授や高成田享・仙台大学教授のため、捕鯨推進派からは批判されるかもしれないが。

ただし二人とも捕鯨自体を否定したことはなく、南極海調査捕鯨からの撤退と沿岸捕鯨の復活を主張している。

石井准教授の発言から引用しておこう。
【「… 日本はこれまで商業捕鯨を再開させるために必要不可欠な戦略的活動を遂行したことがなく、むしろ沿岸を含めた商業捕鯨再開の最大の障害である調査捕鯨を最優先する政策外交を展開してきました。…」】

続いて、高成田教授の発言。
【「沿岸漁業者の悲願は、ミンククジラの商業捕鯨の再開です。…」

「… 沿岸捕鯨は伝統的な漁業です。日本は南極海から撤退して、商業捕鯨としての沿岸捕鯨を守る。資源調査をつづけるのであれば非致死的調査を行う。…」】

そして、石巻市議会の石森市雄議員の言葉。
【「日本の調査捕鯨は、ミンククジラの鯨体換算にして毎年約二〇〇〇頭も捕獲している。誰が見たって国策の商業捕鯨でしょう。沿岸捕鯨には目も向けず、天下り先をつくっただけ。水産庁の利権のための調査捕鯨を放棄し、代わりに細々とした沿岸小型商業捕鯨の道をIWCの場で探る。そう願っています」】

次に、一部の国会議員が騒いでいるように、「IWCを脱退すれば商業捕鯨を再開できるのかどうか」について記しておこう。

結論から言えば、IWCを脱退しても、代わりの国際機関の設立が望めないため、商業捕鯨再開はほとんど不可能だ。
日本近海に限定しても、関係国としてロシア・中国・北朝鮮・韓国が想定されるし、アリューシャン列島が近いからという理由でアメリカを入れることにでもなれば、商業捕鯨再開は
絶対に無理だ。

日本とは対照的に、ノルウェーとアイスランドはともに、商業捕鯨モラトリアムの異議申し立てを維持していたので、小規模の調査捕鯨や航空機などからの目視調査を行った後に、商業捕鯨を再開できた。
IWCがモラトリアムを解除せず、捕獲枠の設定ができないため、代わりに北大西洋諸国でNAMMCOという海生哺乳類の管理機関で協議している。

どのようなプロジェクトでも、やめるという判断ほど困難なことはないが、勇気を持って決断してほしいものだ。

最後に捕鯨推進派の意見として、日経ビジネス2014年5月12日号掲載の「調査捕鯨、まさかの敗訴・山村和夫氏[日本捕鯨協会会長]」から引用して、バランスをとっておこう(単なる愚痴に聞こえるが)。

【…
この判決には、ただ驚愕するばかり。はなはだ遺憾に思っています。

一番の敗因は、国際司法裁判所の裁判官の構成にあります。

今回の判決で調査捕鯨そのものが否定されたわけではありません。であるならば、判決を精査して調査捕鯨の手法を変えることによって、何としても調査を継続しなくてはなりません。

ただでさえ、調査捕鯨は存続の危機にあります。鯨肉などの副産物の販売を次の調査費用に充てていますが、近年、捕獲数が減っているため費用の捻出が苦しくなっています。

…最近では飲食店への鯨肉の売り込みを強化して、何とか販売を続けている状況です。捕獲数がさらに減ることになれば、そうした努力も水泡に帰してしまいます。

クジラは重要な食料資源です。商業捕鯨の再開のためにも、調査捕鯨を続けるよう政府に訴えていきます。】

テーマ : 博物学・自然・生き物
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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