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ドイツ語「Schwestermolekül」の訳語として「姉妹分子」は定着するだろうか

地球に落下した隕石中にアミノ酸が検出されているため、生命誕生に必要な有機分子は宇宙空間で作られたという考え方もある。
分子はその構造に基づく固有の振動や回転によって電波を出しており、その電波を検出して計算値と比較することで、宇宙空間での有機分子の存在を推定している。
チリのアルマ電波望遠鏡を用いた「いて座B2」の観測で、分子の炭素骨格が枝分かれ構造のイソプロピルシアニドが初めて検出された。

アルマ望遠鏡の国際プロジェクトには日本も参加しており、国立天文台がこの発見のニュースを伝えている。
しかし論文主著者は、ドイツ・マックスプランク電波天文学研究所の研究者であり、日本人が論文著者にいないためか、残念ながら日本の主要メディアは報じていない。
Science誌の論文アブストラクトとマックスプランク研究所のプレスリリースに加えて、日本の国立天文台の紹介記事を引用しておこう。
www.sciencemag.org/content/345/6204/1584.short
www.mpifr-bonn.mpg.de/pressemeldungen/2014/10 (ドイツ語)
www.mpifr-bonn.mpg.de/pressreleases/2014/10 (英語)
alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/info/2014/0929post_564.html (国立天文台)

ここでは研究の話ではなく、プレスリリース中に出てくる用語について考えたい。
ドイツ語で「Schwestermolekül」という単語だ。
【Die verzweigte Struktur der Kohlenstoffatome in dem Molekül iso-Propylcyanid unterscheidet es von allen anderen Molekülen, die bisher im interstellaren Raum entdeckt werden konnten und zu denen auch das bereits früher identifizierte Schwestermolekül normal-Propylcyanid gehört.】


表示を英語のプレスリリースに切り替えると、「sister molecule」となっている。
【The branched structure of the carbon atoms within the iso-propyl cyanide molecule is unlike the straight-chain carbon backbone of other molecules that have been detected so far, including its sister molecule normal-propyl cyanide.】

この語を直訳すると、「姉妹分子」とするのだろうか。

構造が異なるが、構成原子の種類と数は同じなので、似ているということから、ドイツ語や英語のように「姉妹」としてもよさそうだが、姉妹分子と書いている化学関係の資料は見たことがないので、この直訳には違和感がある。

今回新たに検出されたイソプロピルシアニドと、直鎖のノルマル-プロピルシアニドとの関係は、通常は「異性体」と呼ぶ。
日本語として定着していない「姉妹分子」を使うよりも、科学用語として正式な「異性体」を選択したい。

ドイツ語や英語の発想では「姉妹」と考えるのだろうが、日本語にはその感覚はないのではないか。
和訳するときは、読者は日本語だけを理解するという前提で行うものだから、「異性体」にすべきだと思う。
原文と並べて対応個所を比較して読む人がいたとしても、「この内容を日本語で表現するとこうなる」と示す方がよい。

「black tea」や「Schwarztee/schwarzer Tee」を文字通り「黒茶」とせずに、通常は「紅茶」とするのと同じか。
これからも類似の事例を探して集めておこう。

テーマ : 化学
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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