ドイツ・テュービンゲンのマックスプランク研究所でサルを使う実験を中止した

私は医薬メーカー子会社で有機合成の研究職をしている。
化学系ではあるが、私が合成した化合物、主に対照薬がマウスなどに投与されるため、動物実験に関与していると言ってもよい。
日本の会社だからなのか、敷地内には祠(ほこら)と実験動物慰霊碑があり、関係者の代表が参列する慰霊祭を行っている。

最近の動物実験では倫理的基準が厳しくなっており、苦痛の軽減や、不要な実験を実施しないこと、使用する動物の頭数を減らすこと、そして培養細胞などの代替手段の利用が求められている。
そして、単なる実験材料として扱うのではなく、人間のために尊い犠牲となったことへの感謝の念を持つように教育されている。

特定の受容体をターゲットとした化合物ならば、動物実験をする前に、培養細胞などを用いて反応を調べることで、候補化合物を絞り込むことができる。
そして、この化合物ならば効果が期待できる、と言えるようになってから、動物に投与して様々な生理反応を調べることになる。
動物実験によって、未知だった毒性や副作用などが見つかることもあり、現状では、人間で臨床試験をする前に必須の手順となっている。

現在の医療技術は医薬品開発も含めて、多くの犠牲の上に成り立っていることに変わりはなく、人工的にヒトの臓器を作成できるようになるまでは、動物実験を避けることはできないと思われる。

しかし、倫理的観点から、すべての動物実験に反対し、即刻停止を求めて、強硬手段に訴える人々もいる。
過去にも、研究所が放火されたり、研究者が暴行される事件も起きている。

2014年9月からドイツでは、隠し撮りの手法による stern TVの告発報道をきっかけとして、テュービンゲンのマックス・プランク研究所でのサルを使った実験に対する反対運動が激しくなった。
www.stern.de/tv/sterntv/tierversuchslabor-des-max-planck-instituts-leiden-fuer-die-wissenschaft-2136630.html

この報道に対して、マック・プランク研究所は反論していたが、数か月に及ぶ抗議や脅迫メールの圧力により、研究代表者のNikos Logothetis が2015年4月下旬に中止を決めた。
今後はげっ歯類を用いる実験を続ける予定だが、ヒトに近い種ではないため、脳科学の最先端の研究とは言えなくなる。
www.mpg.de/9209981/Primatenforschung

反対運動の中心となっている SOKO Tierschutz は、今回の停止だけでは不十分で、フランクフルトなど他の施設でのサルを使った実験、そして、すべての動物実験の停止を求めている。
そのため、5月13日からピケを張り、5月27日に大規模デモを予定している。
www.soko-tierschutz.org/de/news/346-ende-der-affenversuche-am-mpi-in-t%C3%BCbingen.html

動物実験を含めた科学研究に対する反対運動は、遺伝子組み換え技術などでも見られるように、拒絶とも言える絶対反対という立場であることが多いように思う。
犠牲を少なくし、苦痛を減らす手法を用いるなど、倫理規定を作って守っていても、すべての動物実験に反対と言われると、残念ながら妥協点は見いだせない。

ヒトに近い霊長類で実験する意味についてマックス・プランク研究所は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの研究に応用するためと説明している。
また、HIVやエボラなどに対する新規ワクチンの開発にも、いきなりヒトで臨床試験はできないため、霊長類での研究が必要となる。
もし、すべての動物実験を否定してしまうと、臓器移植なども含めて、新しい治療法の開発が大幅に遅延してしまう。

人間が助かるためならば動物を犠牲にしてもよいのだろうか、という問いは忘れてはいけないが、今は代替法の開発が進むまでの過渡期として、管理された動物実験を容認できないだろうか。

遺伝子組み換え作物に反対する人たちは、糖尿病患者が使うインスリン製剤にも反対するのだろうか。
他のバイオ医薬品も含めて、遺伝子組み換え大腸菌の恩恵に浴している人は多い。

ただ、反対者だからといって、開発段階で動物実験を利用した医薬品や、遺伝子組み換え技術で生産した医薬品を使わせないというのは、これも倫理的に容認できない。

不完全な人間の行為なのだから、はっきりと答えの出ないグレーゾーンにあることが多いのではないだろうか。
難しい問題だが、無視せずに問い続けることが大切ではないか。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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