臨床試験中の難病治療薬を目の前の患者に提供できないジレンマ
私が勤務する医薬メーカーでも、有効な治療法や医薬品がない病気をターゲットにした新薬開発プロジェクトも行われている。
経営側からのメッセージにも、アンメット・メディカル・ニーズという言葉が何度も出てくる。
患者数の少ない難病の場合、「市場規模が小さいから治療薬が開発されない」との指摘がよく聞かれるが、実際には発症メカニズムが複雑で、開発が困難な場合もある。
有望な化合物が見つかったとしても、動物実験も含めた様々な試験をクリアしなければ、人間を対象とした臨床試験には到達できない。
結果的に副作用がほとんどない新薬だったとしても、認可に必要な手順を一歩ずつ進めなければならず、救えたはずの命を助けられなかったというジレンマを感じる研究者や医師も多いことだろう。
そのような事例を、最近のドイツの新聞記事で読んだ。
5月22日のSüddeutsche Zeitungに掲載された、バッテン病という神経系の遺伝性疾患で苦しむハンナという9歳の女の子の話だ。
www.sueddeutsche.de/panorama/seltene-krankheit-pharmafirma-verwehrt-todkrankem-maedchen-medizin-1.2491294
経営側からのメッセージにも、アンメット・メディカル・ニーズという言葉が何度も出てくる。
患者数の少ない難病の場合、「市場規模が小さいから治療薬が開発されない」との指摘がよく聞かれるが、実際には発症メカニズムが複雑で、開発が困難な場合もある。
有望な化合物が見つかったとしても、動物実験も含めた様々な試験をクリアしなければ、人間を対象とした臨床試験には到達できない。
結果的に副作用がほとんどない新薬だったとしても、認可に必要な手順を一歩ずつ進めなければならず、救えたはずの命を助けられなかったというジレンマを感じる研究者や医師も多いことだろう。
そのような事例を、最近のドイツの新聞記事で読んだ。
5月22日のSüddeutsche Zeitungに掲載された、バッテン病という神経系の遺伝性疾患で苦しむハンナという9歳の女の子の話だ。
www.sueddeutsche.de/panorama/seltene-krankheit-pharmafirma-verwehrt-todkrankem-maedchen-medizin-1.2491294
神経セロイドリポフスチン症を発症したハンナは、既に歩くことも話すこともできず、死を待つだけなのかと思われた。
そんな中で、アメリカの製薬メーカーBioMarin社が治療薬 BMN 190 (cerliponase alfa、セルリポナーゼ・アルファ) を開発中で、ドイツを含む4か国で臨床試験(フェーズI/II)を、2013年9月から2016年3月にかけて実施することが明らかとなる。
BioMarin社のサイトから、BMN-190 の臨床試験の紹介は次の通り。
www.bmrn.com/pipeline/clinical-trials/cln2.php
ドイツ・ハンブルクの大学病院では、12名の小児患者に BMN 190 を投与する試験が進行中だが、フェーズI/IIでは軽症患者が対象となることが多く、病状の進んだハンナは選ばれなかった。
ハンナの両親は BioMarin社に対して、開発中の BMN 190 を提供するように要求し、同時にネット上で賛同者の署名を集める活動もしている。
www.change.org/p/bitte-helft-unserer-tochter-hannah-9-jahre-alt-zu-leben-savehannah
臨床試験を開始してこれまでの1年間で、目立った副作用もないことから、早ければ3年ほどで認可される可能性があると予想されているが、それまでハンナは待てないと思われる。
現時点で副作用が見られず、家族が希望しているのだから渡してもかまわないと言われそうだが、症状が進んでしまったハンナに投与したときの副作用は未知であり、そのリスクを許容できるだろうか。
また、新薬開発の手順は厳格に守らなければならないため、会社も臨床試験担当の医師も、BMN 190 を渡すことはできない。
医療関係者は、「すべては患者のために」という気持ちで取り組んでいるものの、ルール遵守を優先すべきなのかどうか、簡単には答えが出せない倫理観のジレンマに苦しんでしまう。
確かにこれまでも、サルで試験中だったエボラウイルスのワクチンを、感染疑いのある研究者に投与した例はあるが、一般人に投与すれば人体実験との批判もあるだろう。
助けたいのに助けられないというジレンマ、その課題を考えることは苦しいことだが、知らないふりをせずに、問い続けることが大切だろう。
そんな中で、アメリカの製薬メーカーBioMarin社が治療薬 BMN 190 (cerliponase alfa、セルリポナーゼ・アルファ) を開発中で、ドイツを含む4か国で臨床試験(フェーズI/II)を、2013年9月から2016年3月にかけて実施することが明らかとなる。
BioMarin社のサイトから、BMN-190 の臨床試験の紹介は次の通り。
www.bmrn.com/pipeline/clinical-trials/cln2.php
ドイツ・ハンブルクの大学病院では、12名の小児患者に BMN 190 を投与する試験が進行中だが、フェーズI/IIでは軽症患者が対象となることが多く、病状の進んだハンナは選ばれなかった。
ハンナの両親は BioMarin社に対して、開発中の BMN 190 を提供するように要求し、同時にネット上で賛同者の署名を集める活動もしている。
www.change.org/p/bitte-helft-unserer-tochter-hannah-9-jahre-alt-zu-leben-savehannah
臨床試験を開始してこれまでの1年間で、目立った副作用もないことから、早ければ3年ほどで認可される可能性があると予想されているが、それまでハンナは待てないと思われる。
現時点で副作用が見られず、家族が希望しているのだから渡してもかまわないと言われそうだが、症状が進んでしまったハンナに投与したときの副作用は未知であり、そのリスクを許容できるだろうか。
また、新薬開発の手順は厳格に守らなければならないため、会社も臨床試験担当の医師も、BMN 190 を渡すことはできない。
医療関係者は、「すべては患者のために」という気持ちで取り組んでいるものの、ルール遵守を優先すべきなのかどうか、簡単には答えが出せない倫理観のジレンマに苦しんでしまう。
確かにこれまでも、サルで試験中だったエボラウイルスのワクチンを、感染疑いのある研究者に投与した例はあるが、一般人に投与すれば人体実験との批判もあるだろう。
助けたいのに助けられないというジレンマ、その課題を考えることは苦しいことだが、知らないふりをせずに、問い続けることが大切だろう。