「英語の害毒」(永井忠孝著、新潮新書)

2011年度に小学校の学習指導要領が改訂され、5年・6年での外国語活動が必修化された。
文部科学省では、「小学校外国語活動サイト」を開設して宣伝している。
www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gaikokugo/

「外国語活動」と言っているが、実質的に「英語」を学ぶことになっている。
「グローバル化に対応」し、「東京オリンピック・パラリンピックを見据え」て、新たな英語教育を進めるそうだ。

そして巷では、英語ができないと就職も不利になって生きていけない、などの不安をあおる言葉が氾濫している。
人々を不安にさせて英語だけを勉強するようにと、極端な方向に向かわせて得をするのは、英語教育産業関係者とアメリカ好きの人たちだ。

私は研究で英語の論文や特許を毎日読むので、英語の勉強をやめろとまでは言わないが、英語至上主義のリスクは感じている。
ということで、英語関連の書籍で読むのは、たいていは英語学習の危険性を説くものだ。

今月読んだ書籍は、永井忠孝著、「英語の害毒」(新潮新書)である。
www.shinchosha.co.jp/book/610624/
【日本人の多くは英語を必須能力と捉えている。会話重視の教育はさらに低年齢化し、「日本語禁止」の企業まで登場する始末だ。それが「自発的な植民地化」への道だとも知らず――。本書では、気鋭の言語学者がデータに基づき英語の脅威を徹底検証する。「企業は新人に英語力など求めていない」「アジアなまりの英語こそ世界で通用する」等、意外な事実も満載。英語信仰の呪縛から解き放たれること必至の画期的考察!】

目次は以下の通り。

一章 英語の誤解――英語は本当に必要か
二章 英語の幻想――どんな英語をどれだけ学ぶべきか
三章 英語の損得――日本人はなぜ英語が好きなのか
四章 英語の危険――日本が英語の国になったら
五章 英語教育への提言

私は毎日英語を使っているが、それは文献や報道、プレスリリースを読むためであって、英語で商談をしたり、誰かと会話をすることはない。
海外メーカーや大学と共同研究しているグループならば、英語を使う頻度は高まるが、時差もあるので連絡はメールが多くなり、話すことよりも読み書き能力が求められる。
学会口頭発表ならば英語を聞いて話せないと質疑応答で困るが、論文を書くのであれば、「科学英語」という、口語とはスタイルの違う英語を使うことになる。

一章では、機械翻訳の精度が向上すれば、実用目的で英語を勉強する必要はなくなると指摘されている。

私の勤務先でも、イントラネット上で機械翻訳ソフトが提供されている。
英語を使う頻度の高い研究者は勉強が必要だろうが、指示を受けて働く一般社員は、機械翻訳を使って大意を理解するだけでかまわないだろう。
もし間違えたら困ることならば、その社員は勝手に動くのではなく、上司に相談して確認すればいいのだから。

二章で指摘しているように、英語が得意な日本人が増えたとしても、英米英語を目標としている限り、二級市民にとどまるであろう。
それよりも
ニホン英語という、外国人として理解しやすい英語を作る方が、国際社会では武器になるはずだ。

四章を読めば、日本の政府や経済界が、アメリカのために英語を普及させてきたことがわかる。
国際交流も貿易も、アメリカだけが相手ではないのに、アメリカのご機嫌をうかがうように行動するのは不思議なものだ。
また、TPPが成立した場合、日本語自体が非関税障壁だと訴えられるリスクも生じる。
コメを守るなどと叫ぶよりも、日本人の生活そのものを守ることを考える必要があるのかもしれない。

五章からは、「多言語教育のすすめ」を取り上げよう。
現時点だけを考えれば、英語だけを勉強すればかまわないと思う人も多いだろうが、未来永劫、英語が重要言語の地位を維持する保証はない。
そのため、中学校から三言語を学ぶことを提案している。

一つめは英語を選択しても、地域によっては第二外国語として、中国語や朝鮮語、ロシア語が重要かもしれないし、南米からの日系人移住者が多ければスペイン語、ポルトガル語を学んでもよい。
複数の国で使われる言葉として、アラビア語も選択肢だ。
また、日本固有の言語として、アイヌ語なども選択できるようにすべきだと提案している。

私はNHKの語学講座を利用して、高校2年のときに中国語、3年のときにドイツ語を学び、大学ではスペイン語も学んだ。
化学の研究では英語とドイツ語ばかり使ったが、それでも留学生と少し話せて楽しかったし、その国の文化に触れることもできて有益だった。
最近、興味を持っているのはノルウェー語で、さらにアイスランド語、デンマーク語、オランダ語、スウェーデン語もやってみたいと思っている。

英語が完璧ではないのに他の外国語を勉強するのはおかしい、などと批判する人もいたが、多様な世界を知ることの方が重要だと思う。
自然科学や環境問題など、日本で報道されないニュースを読むために、そしてアメリカ目線にならないためにも、多言語環境での生活を続けたい。

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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