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クジラ・イルカを脅かすのは捕鯨よりも混獲

翻訳専業となって、予想よりも20%くらい多く受注しているため、興味のあるニュースなどを細かくチェックする時間が足りなくなってきた。
それでも休憩時間などを利用して、なるべくニュースをチェックして、
特許以外の英語・ドイツ語を読むようにしている。

気になったニュースの中から今日は、国際捕鯨委員会(IWC)の話題を取り上げよう。

日本の報道では、反捕鯨国との対立ばかり取り上げられてしまい、クジラ・イルカに関する他の話題はほとんど知られないままである。

以下に引用した朝日新聞と日本経済新聞の社説を見ても、調査捕鯨の話題が中心だ。
ただし、南極海から撤退して沿岸捕鯨を続けるという提案があるところが、少し進歩していると思う。

digital.asahi.com/articles/DA3S12636100.html (朝日新聞11月1日)
【日本での鯨肉の需要はかつてと比べて大幅に減った。
調査捕鯨の維持に年間数十億円の補助金がつぎ込まれてもいる。
袋小路に立てこもるような姿勢を続けて利益があるだろうか。

国際社会の声に耳を傾け、かたくなな姿勢を改める。
一方で、和歌山県太地町などでの「沿岸小型捕鯨」への理解を広げる努力を重ねる。
そんな戦略に転じるべきではないか。】

www.nikkei.com/article/DGXKZO09015410R01C16A1EA1000/ (日本経済新聞11月1日)
【70年代以前と比べ日本国内の鯨肉需要は大幅に減少した。
遠洋での商業捕鯨をあきらめ、沿岸での捕鯨枠の確保に集中することも、政府は考えるべきではないか。】

他の捕鯨国、ノルウェーとアイスランドについて、日本では報道が少ないので、代わりにドイツ語記事を読むことになる。
ここでは Die ZEIT の記事を引用しておこう。
www.zeit.de/wissen/2016-10/walfang-verbot-norwegen-japan-iwc/komplettansicht (ノルウェーと日本の捕鯨)
www.zeit.de/2016/45/wale-gefahren-internationale-walfangkommission-japan-fischer/komplettansicht (混獲の問題)

日本ばかりが攻撃されていると勘違いしている人は、ノルウェーの捕鯨について調べてはどうだろうか。
2015/16の日本の南極海調査捕鯨では、ミンククジラの捕獲頭数は333頭であった。
それに対して、ノルウェーの2016年のミンククジラ捕獲頭数は、591頭であり、日本よりも多い。
日本は、北西太平洋でも調査捕鯨をしているが、その捕獲頭数を合わせても、ノルウェーの方が多い。

日本の南極海調査捕鯨は、反捕鯨団体の妨害に加えて、国際司法裁判所の判決後の中断があって、2011年以降の捕獲頭数は低迷した。
その間、ノルウェーは、
国内需要を無視するかのように捕獲枠を増やして、ミンククジラの捕獲を続けた。
そのため、モラトリアム後のミンククジラ総捕獲頭数は、13,151頭に達し、日本よりも2,127頭も多くなった。

そのため、クジラの保護のために、日本とノルウェーに圧力をかけようという動きが活発である。
アイスランドに対しても、水産物の輸入ボイコットなどが呼び掛けられている。

ただし、商業捕鯨をしている北欧の国と、南極海調査捕鯨をしている日本が、クジラの最大の脅威なのだろうか。
クジラ・イルカの生存を一番脅かしているのは、実は漁業での混獲で、網などに絡まって溺れてしまうことが多い。

1982年のモラトリアム後の捕獲数は、合計でも約5万頭であるのに対して、
混獲によって死んだクジラ・イルカは、わずか1年間で約30万頭だ。
1日当たりにすると、なんと約800頭にも達する。
太地町やフェロー諸島のイルカ漁が批判されているが、その漁での捕獲数をはるかに超えるイルカたちが、毎日死んでいる。

ドイツではバルト海のネズミイルカの生息数が、約500頭と推定されていて、混獲対策をしないと絶滅の恐れがある。
また、海上風力発電設備による騒音の影響や、船舶との衝突、地球温暖化による海水温上昇など、クジラ・イルカに影響する要因は多い。

今回のIWC総会では、カリフォルニア湾に59頭のみ生息すると推定されているコガシラネズミイルカ(Vaquita)が、絶滅寸前とのことで、関係国が
混獲の防止策などを実施することを求める決議が採択された。

ザトウクジラの生息数が増えているという報告もあるので、モラトリアムには一定の効果はあったと思われる。
ただし、一部の大型鯨類は保護されているのかもしれないが、全体としては、人間の活動によってクジラ・イルカの生存は脅かされている。
保護か捕鯨か、という対立を続けている陰で、いくつかの種が絶滅することがないように対応してほしいものだ。

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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