英語特許の不明点を元のドイツ語で確認した

今月和訳した英語特許の1つは、私の専門分野の化学系なので、内容が理解できるから楽な方だろうと思っていた。
しかし、一か所、科学的にありえないことが書いてあったので、悩んでしまった。

この特許和訳の仕事では、原文に間違いがあったとしても、その間違いを残したままで和訳しなければならない。
日本語にすることは可能ではあるが、やはり科学的にありえないことなので、違和感があって気になってしまう。

その英語原文をそのまま出せないので、一部加工して紹介しよう。

.. a process .. , in which A is converted with B to ethanolic KOH.
「..このプロセスでは、Aは、Bを用いてエタノール性KOH変換される。」

特許の内容から、赤字で示した前置詞 to は、正しくは in になるはずである。
つまり、「..エタノール性K
変換される。」

同様の化学変換について、明細書の他の部分や実施例に何度も出てくるので、この程度の間違いならば、化学専門でなくても気づくだろう。

間違ったままで和訳して納品するが、クライアントに伝えるためにコメントを残す必要がある。
前置詞は in が正しいだろうと指摘するだけでは物足りないので、もう少し調査することにした。

この特許を申請したのは、ドイツの化学メーカーである。
WO特許の番号で検索すると、このPCT特許の申請は、ドイツ語で行われていた。

ということで、ドイツ語の特許文書の該当個所を比較してみよう。

.. ein Verfahren .. , bei dem A mit B in ethanolischer KOH umgesetzt wird.
「..エタノール性K変換される。」となっている。

ここで前置詞 in の後の名詞は、形容詞の格変化語尾から判断して、女性3格である。
in ethanolischer KOH-Lösung と補足して考えるとわかりやすいだろう。

in + 3格名詞は、場所・位置を表すので、「エタノール性KOH(溶液)中で」となる。

ここで使われている他動詞 umsetzen について、「…を…変換する」という意味では、不定形で書くと et.4 in et.4 umsetzen となる。
この場合、前置詞 in の後に来る名詞は、4格である。

もし、「エタノール性KOH変換される」 であれば、形容詞の語尾は、in ethanolische KOH となるはず。

ということで、特許内容を考えることなく、動詞 umsetzen と前置詞 in の組み合わせだけを見て、".. is converted .. to ethanolic KOH" と英訳してしまったのだろう。

この元のドイツ語特許を更に読んでみると、「…を…に変換する」という意味で使うとき、et.4 zu et.3 umsetzen と、辞書の説明とは異なる前置詞 zu を使っていた。
これは、「化合物が変換された後の到達点」を意識しているように思われる。

特許内容からだけではなく、申請者の書き方の特徴からも、今回の独英の誤訳は避けられたと思われる。

翻訳の仕事で忙しい中でも、今回のように寄り道するのも勉強になってよいと思う。

テーマ : SOHO・在宅ワーク
ジャンル : ビジネス

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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