「英単語の世界」(寺澤盾著・中公新書)
翻訳専業となってから忙しい日々であったが、今月は少し時間的余裕があったので、英語関連の新書を読んだ。
寺澤盾著、中公新書の 「英単語の世界 多義語と意味変化から見る」 である。
www.chuko.co.jp/shinsho/2016/11/102407.html
【英語は世界中の言語から多くの語彙を吸収し、既存の英単語も新しい意味を獲得してきた。boot(長靴)に「コンピュータの起動」の意味が生じ、固定して動かない状態を指したfastが「速い」を意味するようになるなど、一見理解しがたい変化もある。しかし、こうした変化は、ランダムにおこったのではなく、何らかの連想関係が存在するのだ。英単語の多様な意味をつなぐものとは何か。その秘密に迫る。】
目次は次のとおり。
第1章 もっとも語義の多い英単語は? -多義語のさまざまな意味-
第2章 a hand of bananas はどんな手? -「似ているもの」で喩える-
第3章 bottle を飲み干す -「近くにあるもの」で指し示す-
第4章 quite a few はなぜ「たくさん」? -意味変化の原因-
第5章 you は多義語 -機能語の多様な意味を繋ぐ-
第6章 トイレを表す語彙の変遷 -意味のエコロジー-
終章 一語一義主義 -多義語と英単語学習-
英語に限らず、外国語の学習時に大変なのは、1つの単語にさまざまな意味が存在することである。
元の意味から、類似のものに意味が拡大したり、他の意味に変化したり、分野によって使い方が違ったり。
私もドイツ留学中に、辞書の一番目に出てくる語義だと思い込んでしまい、誤解してしまった経験がある。
ただし、その多様な意味は、互いに無関係ではなく、異なる語義を繋ぐ糸のようなものがある。
第1章で最初に例示されている hand では、「手」という意味との関連が理解しやすい語義が紹介されている。
1 手 2 手助け 3 所有、管理 4 (時計の)針 5 人手、労働者 6 持ち札 7 筆跡 8 拍手 9 バナナの房 10 [サッカー] ハンド …
「手」が関わる「筆跡」や「拍手」などの他に、「手に形が似ている」という類推から「バナナの房」という意味が加わっていることが面白い。
この隠喩・メタファーは、第2章でも取り上げられ、身体部分を表す語の例として、eye や head などが紹介されている。
第3章では、換喩・メトニミーが取り上げられ、hand が「筆跡」の意味に転用されたことを紹介している。
これは、文字を書いているときに、書いている手と文字、つまり筆跡が空間的に近接していることに基づいている。
また、「ボトルを飲み干す」では、「ボトルの中の飲料を飲み干す」ことであるが、「ボトル」だけで、その中にある飲料のことであることは類推可能である。
第4章では、意味が変化する3つの原因として、「社会に関わる要因」、「言語使用者に関わる要因」、「言語に関わる要因」を紹介している。
「社会に関わる要因」では、新しい概念や事物を表す必要性から、これまでの語に新しい意味を付け加えること。
最近のIT関連では、cloud 「クラウド」が挙げられる。
「言語使用者に関わる要因」では、タブーを表す婉曲表現や、ある語が次第に差別的意味を持つ例が紹介されている。
寺澤盾著、中公新書の 「英単語の世界 多義語と意味変化から見る」 である。
www.chuko.co.jp/shinsho/2016/11/102407.html
【英語は世界中の言語から多くの語彙を吸収し、既存の英単語も新しい意味を獲得してきた。boot(長靴)に「コンピュータの起動」の意味が生じ、固定して動かない状態を指したfastが「速い」を意味するようになるなど、一見理解しがたい変化もある。しかし、こうした変化は、ランダムにおこったのではなく、何らかの連想関係が存在するのだ。英単語の多様な意味をつなぐものとは何か。その秘密に迫る。】
目次は次のとおり。
第1章 もっとも語義の多い英単語は? -多義語のさまざまな意味-
第2章 a hand of bananas はどんな手? -「似ているもの」で喩える-
第3章 bottle を飲み干す -「近くにあるもの」で指し示す-
第4章 quite a few はなぜ「たくさん」? -意味変化の原因-
第5章 you は多義語 -機能語の多様な意味を繋ぐ-
第6章 トイレを表す語彙の変遷 -意味のエコロジー-
終章 一語一義主義 -多義語と英単語学習-
英語に限らず、外国語の学習時に大変なのは、1つの単語にさまざまな意味が存在することである。
元の意味から、類似のものに意味が拡大したり、他の意味に変化したり、分野によって使い方が違ったり。
私もドイツ留学中に、辞書の一番目に出てくる語義だと思い込んでしまい、誤解してしまった経験がある。
ただし、その多様な意味は、互いに無関係ではなく、異なる語義を繋ぐ糸のようなものがある。
第1章で最初に例示されている hand では、「手」という意味との関連が理解しやすい語義が紹介されている。
1 手 2 手助け 3 所有、管理 4 (時計の)針 5 人手、労働者 6 持ち札 7 筆跡 8 拍手 9 バナナの房 10 [サッカー] ハンド …
「手」が関わる「筆跡」や「拍手」などの他に、「手に形が似ている」という類推から「バナナの房」という意味が加わっていることが面白い。
この隠喩・メタファーは、第2章でも取り上げられ、身体部分を表す語の例として、eye や head などが紹介されている。
第3章では、換喩・メトニミーが取り上げられ、hand が「筆跡」の意味に転用されたことを紹介している。
これは、文字を書いているときに、書いている手と文字、つまり筆跡が空間的に近接していることに基づいている。
また、「ボトルを飲み干す」では、「ボトルの中の飲料を飲み干す」ことであるが、「ボトル」だけで、その中にある飲料のことであることは類推可能である。
第4章では、意味が変化する3つの原因として、「社会に関わる要因」、「言語使用者に関わる要因」、「言語に関わる要因」を紹介している。
「社会に関わる要因」では、新しい概念や事物を表す必要性から、これまでの語に新しい意味を付け加えること。
最近のIT関連では、cloud 「クラウド」が挙げられる。
「言語使用者に関わる要因」では、タブーを表す婉曲表現や、ある語が次第に差別的意味を持つ例が紹介されている。
第5章で特に参考になったのは、助動詞 may、can、must の意味の変化である。
特許翻訳でも、may と can がどちらも可能の意味で使われることがあり、いつも面倒だなと思っていたので、意味の変遷の歴史がはっきりしたのがよかった。
第6章と終章で興味深かったのは、義務・命令の表現の変遷であった。
you must do ~ は現代英語では使用頻度が減っており、代わりに you have to do ~ または you need to do ~ そして you should do ~ が増えている。
日本の英語学習の現場では、まだこの変化を反映できていないとのことなので、英語の電子メールや手紙でやりとりをしている人は、このような変化についても敏感に情報収集した方がよいだろう。
特許でも、次々に新しい概念や発明品を表す意味が追加されているので、辞書の意味にこだわらずに、類推しながら適切な意味を考えてみたい。
特許翻訳でも、may と can がどちらも可能の意味で使われることがあり、いつも面倒だなと思っていたので、意味の変遷の歴史がはっきりしたのがよかった。
第6章と終章で興味深かったのは、義務・命令の表現の変遷であった。
you must do ~ は現代英語では使用頻度が減っており、代わりに you have to do ~ または you need to do ~ そして you should do ~ が増えている。
日本の英語学習の現場では、まだこの変化を反映できていないとのことなので、英語の電子メールや手紙でやりとりをしている人は、このような変化についても敏感に情報収集した方がよいだろう。
特許でも、次々に新しい概念や発明品を表す意味が追加されているので、辞書の意味にこだわらずに、類推しながら適切な意味を考えてみたい。