ベンゼンをベンゾールと呼ぶのはもうやめよう
(最終チェック・修正日 2021年01月23日)
有機化学を勉強すると、芳香族化合物で必ずベンゼンを学ぶ。
6個の炭素原子が六角形の環を作るように互いに結合しているのが特徴だ。
化合物の名前は、昔から使われている慣用名や通称、別名などがたくさんあるので、混乱することもある。
ベンゼンでも、ドイツ語の Benzol に由来すると言われる「ベンゾール」を使う人がまだいる。
独和辞典で Benzol の訳語に 「ベンゾール、ベンゼン」と掲載しているためか、ドイツ語特許の和訳でも、「ベンゾール」と書いているものを見かける。
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追記(9月6日):
「ベンゾール」を使わないということについて、私が最近知ったと決めつけて非難する変なコメントがあったため、一応追記しておこう。
その勘違いのコメントは、「エンゾール」という誤記で始まり、漢字変換ミスも多いので、投稿者の名誉のために非公開とする。
化学の研究を始めてから約30年になるが、論文を読むだけではなく、自分で発表するためにも英語での命名法、そして日本語表記も、その変更も含めて学んできた。
この記事で指摘しているのは、「ベンゾール」は化合物名ではないのに、まだ使っている人がいること、そして化学論文では使われないのに、特許ではいまだに通用していることを指摘したものだ。
では実例として、ドイツ語特許(DE 10 2006 016 258 A)の和訳(特開2016-41813)を引用しておこう。
請求項4で、反応に使用する溶媒を列挙しているところで、ドイツ語オリジナルの Benzol が、和訳で「ベンゾール」になっている。
ドイツ語オリジナル: ... als Lösungsmittel ... Benzol, Toluol, Xylole ...
和訳:…溶媒として、…ベンゾール、トルエン、キシロール…
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50年前ならばベンゾールでも我慢するが、21世紀になっても「ベンゾール」と呼ぶのはやめてほしい。
現在、「ベンゾール」は、「粗製ベンゼン(ベンゼンを主成分とする芳香族炭化水素混合物)」を指す。
化学と工業化学で用語が違うという意見もあるが、統一しないと混乱を招くだけである。
IUPAC 2013 勧告では、「ベンゼン(benzene)」のみが、優先IUPAC名(PIN、preferred IUPAC name)として使用できる。
慣用的に使われてきた名称のうち、benzene などは、変えない方が混乱が少ないため、保存名(retained name)となり、そして PIN になっている。
無置換の母体ベンゼンは、CnHn の分子式を持つ非置換単環炭化水素のポリエン(アンヌレン、annulene)ではあるが、[6]アンヌレン([6]annulene)とは呼ばないことになっている。
そして、「ベンゾール」は、別名としても出てくることはないから、日本だけの特殊な現象かもしれない。
日本の有名企業が出願した日本語での特許でも、未だに「ベンゾール」を使っている。
置換したベンゼン誘導体も、「〇〇ベンゾール」と書いていることもある。
例えば、ブロモベンゼン(Bromobenzene)が「ブロムベンゾール」(特開2009-242824、請求項4)。
また、あるグローバル企業は、「ベンゾール」を使っているうえに、置換基の位置番号があり得ないものになっている。
特開2017-78047 の段落番号【0093】に出てくる化合物 「1,8-ジメチルベンゾール-2,4-ジイソシアネート」は、「1,3-ジメチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート」ではないだろうか。
過去の出願を参考にしているうちに、誰かが「3」を「8」とタイプミスして、そのままコピーして使いまわしているのかもしれない。
また、その企業は、英語で出願した US4,431,700 で、benzol を使っている(2番目のカラムの最後)。
... 1-methylbenzol-2,4-diisocyanate, 1,3-dimethylbenzol-2,4-diisocyanate, ...
以前の出願と同じ表現にしたのかもしれないが、化学系・薬学系学会が共同して特許庁に申し出て、「ベンゾール」を追放してもよいのではないか。
特許は学術論文とは違うと言われそうだが、混乱が生じないように考えてほしいものだ。
有機化学を勉強すると、芳香族化合物で必ずベンゼンを学ぶ。
6個の炭素原子が六角形の環を作るように互いに結合しているのが特徴だ。
化合物の名前は、昔から使われている慣用名や通称、別名などがたくさんあるので、混乱することもある。
ベンゼンでも、ドイツ語の Benzol に由来すると言われる「ベンゾール」を使う人がまだいる。
独和辞典で Benzol の訳語に 「ベンゾール、ベンゼン」と掲載しているためか、ドイツ語特許の和訳でも、「ベンゾール」と書いているものを見かける。
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追記(9月6日):
「ベンゾール」を使わないということについて、私が最近知ったと決めつけて非難する変なコメントがあったため、一応追記しておこう。
その勘違いのコメントは、「エンゾール」という誤記で始まり、漢字変換ミスも多いので、投稿者の名誉のために非公開とする。
化学の研究を始めてから約30年になるが、論文を読むだけではなく、自分で発表するためにも英語での命名法、そして日本語表記も、その変更も含めて学んできた。
この記事で指摘しているのは、「ベンゾール」は化合物名ではないのに、まだ使っている人がいること、そして化学論文では使われないのに、特許ではいまだに通用していることを指摘したものだ。
では実例として、ドイツ語特許(DE 10 2006 016 258 A)の和訳(特開2016-41813)を引用しておこう。
請求項4で、反応に使用する溶媒を列挙しているところで、ドイツ語オリジナルの Benzol が、和訳で「ベンゾール」になっている。
ドイツ語オリジナル: ... als Lösungsmittel ... Benzol, Toluol, Xylole ...
和訳:…溶媒として、…ベンゾール、トルエン、キシロール…
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50年前ならばベンゾールでも我慢するが、21世紀になっても「ベンゾール」と呼ぶのはやめてほしい。
現在、「ベンゾール」は、「粗製ベンゼン(ベンゼンを主成分とする芳香族炭化水素混合物)」を指す。
化学と工業化学で用語が違うという意見もあるが、統一しないと混乱を招くだけである。
IUPAC 2013 勧告では、「ベンゼン(benzene)」のみが、優先IUPAC名(PIN、preferred IUPAC name)として使用できる。
慣用的に使われてきた名称のうち、benzene などは、変えない方が混乱が少ないため、保存名(retained name)となり、そして PIN になっている。
無置換の母体ベンゼンは、CnHn の分子式を持つ非置換単環炭化水素のポリエン(アンヌレン、annulene)ではあるが、[6]アンヌレン([6]annulene)とは呼ばないことになっている。
そして、「ベンゾール」は、別名としても出てくることはないから、日本だけの特殊な現象かもしれない。
日本の有名企業が出願した日本語での特許でも、未だに「ベンゾール」を使っている。
置換したベンゼン誘導体も、「〇〇ベンゾール」と書いていることもある。
例えば、ブロモベンゼン(Bromobenzene)が「ブロムベンゾール」(特開2009-242824、請求項4)。
また、あるグローバル企業は、「ベンゾール」を使っているうえに、置換基の位置番号があり得ないものになっている。
特開2017-78047 の段落番号【0093】に出てくる化合物 「1,8-ジメチルベンゾール-2,4-ジイソシアネート」は、「1,3-ジメチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート」ではないだろうか。
過去の出願を参考にしているうちに、誰かが「3」を「8」とタイプミスして、そのままコピーして使いまわしているのかもしれない。
また、その企業は、英語で出願した US4,431,700 で、benzol を使っている(2番目のカラムの最後)。
... 1-methylbenzol-2,4-diisocyanate, 1,3-dimethylbenzol-2,4-diisocyanate, ...
以前の出願と同じ表現にしたのかもしれないが、化学系・薬学系学会が共同して特許庁に申し出て、「ベンゾール」を追放してもよいのではないか。
特許は学術論文とは違うと言われそうだが、混乱が生じないように考えてほしいものだ。
(最終チェック・修正日 2017年08月21日)私がこれまで利用してきた独和辞典は3種類である。小学館独和大辞典第2版と大修館書店マイスター独和辞典3版は、紙の辞書である。三省堂クラウン独和辞典は、三省堂ウェブディクショナリーの有料会員で利用しているが、検索結果を見ると、改革以前の正書法であったため、最新版ではないと思われる。辞書によって編集方針が異なることと、新正書法を採用するかどうかも分かれるため、訳...
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