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ファイルを電子メールで送るのに「郵送してください」と和訳してあった

私は大学で有機化学の研究をしたため、ドイツ語の論文や専門書を読む必要があった。
そのため、現在は、英語・ドイツ語の両方で翻訳の仕事ができるようになった。

しかし、日本では、ドイツ語はマイナー言語の扱いとのことで、ドイツ語翻訳者は足りない。
様々な機会を利用して、英語翻訳者に対して、ドイツ語翻訳に参入するように促してみたが、なかなか増えない。
フリーランスの登録翻訳者を募集しても、
既に他社で専属となっているのか、一緒に仕事ができる人が、なかなか見つからない。

トライアル課題で大丈夫そうだと思っても、実際に依頼してみると、特許の技術内容が正確に理解できていないことに加えて、勘違いやケアレスミスが多い人もいる。

たぶん、CATツールを使用するときの弊害と思われるが、一文ごとに分割されているため、前後の文脈を無視した和訳をする人もいる。
文書全体の流れを把握していれば、推敲の時点で解釈のミスに気付くはずなのに、そのまま納品してしまう人もいる。

最近もあるマニュアルのドイツ語和訳のチェックで、単語の意味を取り違えている和訳に遭遇した。
その実例をそのまま掲載できないので、一部修正して引用しておこう。

Alle Dokumente müssen an folgende Adresse gemailt werden:
(セグメント区切り)
mailto: abc@xyz.com

作成したファイルを、次のセグメントに出てくる電子メールアドレス宛に、電子メールで提出するのだが、和訳では「以下の住所に郵送してください」となっていた。

ドイツ語の動詞 mailen は、自動詞と他動詞の両方の用法があるが、いずれも 「電子メールを送る」 という意味だ。

ドイツ語の mailen に対応する英語の動詞は、e-mail である。
つづりが似ているアメリカ英語の動詞 mail には、「郵送する」という意味があるが、イギリス英語では post を使う。
そしてドイツ語で 「郵送する」 は、通常、et4 per Post schicken / senden を使う。

mailen という動詞はアメリカ英語の mail と同じ意味だと勘違いしたとしても、次のセグメントは電子メールアドレスであり、その後も郵便で送るための宛先住所は出てこないのだから、気付くはずなのに残念なことだ。

やはり、CATツールを使用して一文ごとに分割されていると、そのセグメントのみに注目しすぎて、文書全体での文同士の関係を無視するような意識が生まれるのかもしれない。

私は副業翻訳を始めてから、約8年後にCATツールを使う案件を受注するようになった。
その前は、PDFなどで提供された原文を印刷して、それを見ながらワードに和訳を打ち込んでいたので、文書全体を見ながら翻訳することを学んだと思う。
そのためなのか、CATツールを使うようになってからも、推敲の時点で間違いに気付くことができるのだと思う。
だから他者の翻訳チェックもできるし、機械翻訳のポストエディットもできるのだと思う。

今回の事例で一般化するのは早いが、CATツールを使う前に、昔ながらの紙に印刷した原稿を読んで翻訳するトレーニングも必要なのではないかと思う。

また、PC画面を見ながら翻訳作業するときに、目の動きも含めて、人間の認知機能はどのように働いているのかや、ツールや機械翻訳が提示した訳例や用語を見たときにどのような反応をするのかなど、より科学的な研究も進めて、翻訳者にフィードバックしてほしいものだ。

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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