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「機械翻訳の現状と展望(後編)」(英語教育2019年7月号)

雑誌「英語教育」の連載の1つ、「AI技術と外国語学習の未来」を毎月興味深く読んでいる。
今月発売の2019年7月号では、6月号の続きで、「機械翻訳の現状と展望(後編)」。

機械翻訳の精度・品質が向上した場合、近い将来に外国語の勉強が不要になるのではないか、という言説が出回っているようだ。
しかし、この記事では、「外国語を学ぶ必要のない未来は来ない」という結論である。

これまで指摘されているように、機械翻訳は予測不能な間違いを犯すため、完全に信頼できるシステムではない。
精度が向上したとしても、「どこかに間違いがあるかもしれない」という前提で利用するものだ。

機械翻訳を利用したポストエディットという新しい業務が生まれたが、マッチ率が高い言語間、例えば、英語-ドイツ語の機械翻訳でも、作業時間の軽減は、平均すると10~20%程度と、期待したほどではない。

マッチ率が99%を超えたと報告されても、どこかに間違いがあると意識してポストエディットをするため、一見すると正しい翻訳であっても、1語ももらさずに対応をチェックするので、時間がかかってしまう。

人間の言語を処理するAIに共通して、「常識の壁」という課題がある。
人間が無意識に事柄を分類している常識のすべてを、AIに教えることは、実際には不可能だ。
だから、出力された翻訳文を人間がポストエディットした方が、実用的である。

また、意味内容を正確に翻訳していても、その背後にある意図まではAIにはわからないのではないか。

日本語の「前向きに検討します」は、「具体的に対策を進めます」という意味ではなく、「とりあえず考えておきます」程度の意味であることは、日本社会で暮らしていると理解できるが、機械翻訳で外国語にしたときに、そのような裏の意味を伝えることはできないだろう。

機械翻訳に対して過度に期待している人たちに冷静になってもらうためにも、最後の個所をそのまま引用しよう。

【ましてや現実には、100%正しい機械翻訳がすぐに手に入ることは期待できない。結局のところ、まったく外国語を学ばない人は、機械翻訳をうまく使いこなせないのではないかと思う。少なくとも翻訳間違いに気づける程度の外国語の知識を持ち、他国の文化についての学びを怠らない人こそが、機械翻訳の恩恵を最大限に受けるのではないだろうか。】


雑誌「英語教育」の今年の連載の1つに、「AI技術と外国語学習の未来」(川添愛、元国立情報学研究所特任准教授、作家)がある。他の連載にも興味を持ったので、今年度は定期購読にした。6月号の第3回は、「機械翻訳の現状と展望(前編)」で、ニューラルネットワークを利用した機械翻訳を取り上げている。説明内容は、主に中澤敏明「機械翻訳の新しいパラダイム」、情報管理、vol. 60, No.5, pp. 229-306 に基づいている(記...
「機械翻訳の現状と展望」(英語教育2019年6月号)

テーマ : 語学の勉強
ジャンル : 学問・文化・芸術

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MarburgChemie

Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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