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検索しても見つかりませんでした ⇒ 原文誤記です

私は英日/独日翻訳者として登録している。
ドイツ語の案件に取り組んでいるときには、英日翻訳の案件が来ても同時にはできないので、代わりに外注のフリーランス翻訳者が和訳したものをチェックしている。

このチェックでの経験について、具体的な特許を示すことはできないのだが、一部改変してメモしておきたい。

そのフリーランス翻訳者は、ある化合物名について、「化学物質のデータベースなどで検索したが見つからなかった」というコメントを残していた。

その化合物そのものを示すことはできないので、以下に示した fuchsone(フクソン)の誘導体とだけ言っておこう。
調査結果を先に言えば、その特許では、suchsone と誤記していた。

請求項にも出てくる重要な化合物なので、クライアントに誤記であると伝える必要があるから、単に見つからないで終わらせずに、誤記であると断言して、正しい化合物名も見つけてほしかった。


私は有機化学の研究で博士号を持っているが、すべての化合物の慣用名を知っているわけではない。
その化合物の構造式を見ても、fuchsone という慣用名を知らないので、suchsone が誤記だという自信はなかった。

翻訳者は検索しても見つからなかったと言っているが、念のため suchsone で検索してみると、ある文献がヒットした。
その文献には fuchsone と書いてあったので、OCRで f が s と誤認されて、検索結果に反映されたのかもしれない。

更に確実にするには、IUPAC名で検索することだ。
fuchsone は、4-(diphenylmethylidene)cyclohexa-2,5-dien-1-one になる。

この IUPAC名で検索すると、次のリンク先などの化合物データベースのサイトが見つかる。
pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/287398
www.chemspider.com/Chemical-Structure.253413.html

そのサイトで構造式も確認して、特許対象の化合物は、fuchsone の誘導体であることが確定した。

PCTなので、原文誤記のまま和訳しなければならない。
suchsone を翻訳者は「サクソン」にしていた。
日本化学会の日本語名称の作り方にある字訳規準表に従うと、「スクソン」になる。

化学専門ではない翻訳者が特許翻訳をすることも多いので、専門家の私がチェックする意味はあるのだ。

また、語学能力に加えて検索能力も重要と言われるが、どういったキーワードで検索するのか、そして検索結果をどう解釈するのか、検索するにも専門分野の知識が必要だ。

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:MarburgChemie
製薬メーカー子会社の解散後、民間企業研究所で派遣社員として勤務していましたが、化学と語学の両方の能力を活かすために専業翻訳者となりました。

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